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四十日

その刀を見て、ミヤマのヌエキリだと見抜ける者は、刀剣の収集家であっても滅多にいないだろう。

まるで二流、三流の鍛冶師が練習作として叩いたような凡庸さ。

砥ぎ師がどれだけ砥いでも、曇りは取れず、血飛沫で汚れたような模様。

これをミヤマの特級刀剣と見抜けるならば、それだけでも相当の腕前だと言える。


鞘入りのまま、並べられた二十振りの中、アイシャは吸い寄せられるように、ヌエキリを手にする。

やはり・・・か、と、ミヤマは嘆息し、それで間違いないよ、と、刀剣の正体を明かす。


「一度、バラしてから、ミヤマの秘伝で再生することになる」

「恐らく四十日程掛かるだろう」

「その間に、三節棍と弩弓を見繕うがいいさ」


成り行きとはいえ、愛刀どころか全ての武装を失うことになるとはアイシャは考えもしなかった。

アイシャが予想出来ないことをシャアリィが予想出来るはずもない。

一ヶ月以上もの間、迷宮に潜ることも出来ないまま、イルオールドに滞在することになった。


「ミヤマの屋敷に客人として逗留すればいい」


と、当主に言われた所で、面倒を押し付けられる口実を与えることになる。

それはグリーン・ノウズでも味わったので、割り切って観光に出掛けることにした。


今、アイシャの手持ちの武装は、露店で仕入れた多少造りの良いダガーだけ。

シャアリィも手荷物は冒険者ギルドに預けてあるために、ベルトホルダーのダガーだけだ。

街中で魔物に襲われることなど、ほぼあり得ないので、二人とも装備自体に問題はない。


だが、アイシャといえば、やはり腰に片刃剣がないのは、随分と寂しく感じる。

同時に心細さや、物足りなさ、自分から一部が欠け落ちた感覚というのだろうか。

闘争のために生まれ、闘争のために育ち、学び、そこから弾き出されても、結局、それしか残っていない自分。


その闘争の中で、ただ一つだけ見つけた美しいモノ、それがシャアリィ。

皮肉なことにその少女も又、戦うことでしか生きられない少女。

こうして、戦いから離れると二人には本当にやることがないのだ。


「アイシャ、これから四十日の間、私達はただの観光客だよ」

「こんな機会は二度と・・・否、そういやぁ、レリットランスでもダラダラしたっけ」

「幸い、此処は観光地だし、見て回るものは沢山ある」


シャアリィの提案なら、応じるのは吝かではない。

すっかり滅入っていた気分を変えるためにも、まずは、


「何処にいこうか?」

「と、言う前にこの街ではお気に入りに出来そうなカフェテラスを見つけよう」

「まずは、それが急務だ」

「それより大切なことなど、今はないと言っても過言ではないよ」


じゃあ、あそこから・・・と、シャアリィが指差す先には、懐かしい黒猫のマークがあった。


「まさかとは思うけれど、黒猫のテラスの支店かな?」

「私達は黒猫と相性がいい」

「行ってみよう」


独特のオープンテラス席には雨避け兼日差し避けの大きなパラソル。

扉の硝子に描かれた黒猫の意匠も同じ。

それは間違いなく、黒猫のテラスの姉妹店だった。


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