降りかかる火の粉
キャラバンの前方では、アイシャが盗賊達を相手取る。
姿を隠すこともなく、軽い身のこなしで横転した先頭車両の上に登る。
視点が高くなれば遠くまで見通すことが出来るからだ。
警戒すべき弓持ちは三人、槍が十四、片手剣が六・・・意表を突かれた男達は棒立ちだ。
陣形から見て、片手剣の連中が組織を束ねてるヤツだな、と、アイシャは敵戦力を把握した。
先程、馬車の横転の引き金となった弓持ちの男が声をあげた。
「あの獣人は、セロニアスだ」
「用心して掛かれ」
「見た目に騙されるなよ」
「アレはそこらへんの魔物より、手強い化け物だ」
ふふっ、と、アイシャが微笑む。
傭兵上がりか、それとも冒険者崩れか、どちらにしても正体を知られているならば遠慮はいらない。
元から無事に済ますつもりはない、が。
アイシャは地上に降り立って、悠然と盗賊たちの中央に歩み寄る。
「囲め」
という掛け声で槍の男達が一斉に動き出し、その隙間から三つの矢が飛んでくる。
矢の二本は避ける必要すらなく外れ、残る一本も半身を反らして躱す。
アイシャの間合いまで、あと、僅か。
「一斉に行くぞッ」
という合図の直後、アイシャを中心に血の紅い華が咲く。
地を這うような姿勢で振るわれた三節棍が二十八の足を一薙ぎにした。
その一撃だけで勝負はついていたが、残り九人、アイシャが逃がすはずもない。
その疾走は風の如く。
馬頼りの生活に慣れた人間が逃げられるわけがない。
用心深く、遠くに馬を繋いだことが裏目に出るとは思いもしなかっただろう。
悲鳴と嗚咽を叫ぶだけの木偶と化した男を尻目に、三人の弓持ちが一人づつ、きっちり三振りで始末された。
頭目と思われる男達は節制を怠った重い身体で必死に走る。
アイシャはゆっくりと小走りで、追跡する。
『馬に乗れば逃げ切れる』
それだけを拠り所に息を切らし足を震わせ、ただ、死の恐怖から逃れるべく走る。
背中のほうから強烈な打撃音が、ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ・・・。
打ち付けた杭に固く結ばれたロープが馬を繋ぎ止めている。
逃走中に剣を捨てた手でそれを解くには、男達の指先は不器用過ぎた。
焦るあまり爪が割れ血が滲み痛みが走っても、これを解かなければ死ぬ。
・・・間に合わなかった。
「やぁ、頑張ったじゃないか」
「あんたらが頭目かな」
背筋を凍らせる透き通った少女の声。
何かが男達の目の前を掠めて、次の瞬間にそれが捨ててきたはずの剣だと理解する。
どれだけ研鑽すれば、そんな斬り方が出来るというのか・・・。
一見無造作に振り下ろされた剣が見事に四本の足を切り飛ばす。
「膝より下だし、上手に止血すれば半日は持つかもね」
男達に残りの時間を言い渡すと、白い死神のような少女は視界から消えた。




