東部国境の街
中央から南中央、そして南西。
何をするにもシャアリィとアイシャに必要なのは、迷宮だ。
そろそろ、千本足の魔石のオークションが開かれ、その代金も振り込まれる。
まだまだ所持金には余裕もあるが、アイシャの150レベルも視野に入ってきたことから、装備の更新についても考えたい所だ。
アイシャの故郷、セロニアスの集落は東部国境付近にあるらしい。
装備を新しい物にするのであれば、セロニアス御用達とも言うべきイルオールドの職人に頼みたい、と。
小規模迷宮にしては珍しく、風、水、火の属性が階層毎に変化するイルオールドの迷宮。
属性違いの迷宮は探索の手間を増やし、魔物の種類も多様化することから、必然、難度は高い。
しかも、アーシアンと同じように全てが人工物で構成された迷宮であり、面積としては小規模の部類だが、階層としてはアーシアンと同じ七階層。
最深部も近年踏破されたばかりであり、迷宮の活性は依然として高い。
腕の立つ冒険者からすれば、稼げる迷宮。
だが、ルーキーには優しい迷宮とは言い難い。
アーシアンのようにある程度面積があれば、何処に逃げても助かる可能性は残る。
イルオールドでは迷走すれば高確率で玄室に突き当たり、そこが最後の場所になる。
「短い付き合いだったけれど、君たちとのアレコレは楽しかった」
「教会絡みで困ったことがあれば、私の名前を出しても構わないよ」
「一応、これでも真面目な聖職者として名前が通ってるんだ」
「まぁ、君たちなら自分でなんとかしちゃうんだろうけどね」
フランコは別れ際、そんなことを言った。
「ありがとう、結局、私達はしてやられたってことか」
「でも、いい勉強をさせてもらった」
アイシャは素直に礼を言うが、シャアリィはそうは思わない。
「何処で筋書きを立て直したかは、わからないけれど」
「フランコがエレナに対して罪悪感を持っていたのは知ってるよ」
「悪ぶってるのは私と同じだけど、フランコも根はいいヤツじゃん」
利用しようとして、利用されたのか、少なくとも互いに利益がある関係で良かった。
シャアリィとフランコは、似たもの同士なのだろう。
もう少し時間が過ぎて、フランコの髪に白髪が混じるようになった頃、不意に訪れて思い出話。
それも悪くないと、シャアリィは思った。
「じゃあ、また会う時まで」
「聖職者なんだから、礼拝堂をバーにしないようにね」
・・・
グリーン・ノウズ。
白い壁と青い海、緑風と熱砂、生者と死者。
伝説の魔人マーヴェリック・エルゴ・ダインの故郷。
人の命の値段が安い碌でもない港街に別れを告げて向かう先は東。
最果てから最果てへの長距離キャラバンに揺られる旅は、二十日。
急ぐ旅ではないけれど、酷く長い時間に思う。
シャアリィの体調不良は、僅かづつだが回復の兆しがある。
それでも、迷宮探索には少し間に合いそうもない。
ひとりじゃないということは、こういう時にも有り難い。
お揃いのショートヘア。
こんなに早くグリーン・ノウズを出るなら、もう少し先でも良かったかな。
シャアリィは微睡みの中にゆっくりと落ちた。




