スティンガー
上から下から鍾乳石が伸びる洞窟。
フードの中まで結露するような夥しい湿気。
それでいて気温は、地上より五度は低い。
小さな昆虫類では生息できないような場所だが、濃密な生の気配が漂っている。
「いる」
二人は同時に周囲に魔物が潜んでいる気配を感じ取っていた。
眼だけでなく耳にも、そして揺れる空気を感じるように肌にも神経を巡らせる。
無言でアイシャが二メートル程踏み込み、横薙ぎに片刃剣を降る。
「ぐしゃり」
という、異音と共に鍾乳石に打ち付けられる異形の塊。
それは昆虫と軟体動物を混ぜたような濃紺に黄色い斑点のある生物だった。
頭部と思しき部分の大半を一撃で割かれて絶命している。
「スティンガーだ」
その容姿から想像出来るのは、生物に寄生して吸血する魔物であろうということ。
口先は左右に枝分かれしているが噛み付くための機構ではなく、皮膚を突き破り中身を啜ることが伺える。
「シャアリィ、強力な術式はダメだ」
「鍾乳石を破壊しない程度で、広範囲にダメージを与えるやつで頼む」
アイシャから、戦術の要点が指示された。
「鍾乳石ごと凍らせるくらいなら大丈夫?」
シャアリィはアイス・ウォールを展開することに許可を求めている。
「威力を絞って貰えるなら、それでいこう」
アイシャの返答を聞くや否や、冷気が渦を巻いた。
「凍れ!」
硬質な凍結音と共に半径五メートル程、ちょうど背丈程に氷壁が生成された。
先程までの濃密な湿気の気配は失せ、所々でゴロリという間抜けな音が聞こえた。
「八匹同時か・・・さすがだね」
一度凍死させたものは、原生生物でもない限り生き返ることはない。
アイシャがスティンガーだった塊を短剣の背で割り割いて、中から小指程度の魔石を取り出す。
「無色に近い青・・・こりゃ売り物にはならないね」
「肉もまずそうだし、使えそうな部位もない」
「こればっかり出てこられたら、ちょっと、イラっとしちゃうかも」
六十センチ程度の魔物だが、群れで生息するため危険度はそこそこ高い。
それでも放置されているのは、やはり、利用価値がないせいなのだろう。
「早めに奥に行こうか、さすがに赤字は勘弁してもらいたいし」
人気の少ない入口・・・つまりは、こういうことだったのだ。
百聞は一見に如かずとは、よく言ったものだ。




