ずれた感覚
その光は闇だった。
まるで逆光だけの世界に浮かぶ錯覚。
確かめようとすれば霞み、諦めれば鮮やかになる、制御不能の知覚。
何もかもが思い通りにならない。
不自由なのが当たり前だと言わんばかりに、痛みこそが唯一確かなものだと知らしめんばかりに。
その闇が光に転じた時、自分に身体があることに気付く。
これが『死』だ、と脳が理解する。
一つづつ繋がっていく自分と世界の境界線。
五感が緩やかに戻り、ああ、もう一度生きるのか、という落胆が涙となって眼から溢れた。
徐々に意味を成す新たなスキルのルール。
知識となって、思考が始まる。
その瞬間、忘れていた私の一番大切なモノが私の存在を世界に繋ぎ止める。
「アイシャ」
そう言葉にした時、彼女も又、私の名を口にする。
「シャアリィ」
ああ、そうか、私は死霊術式をこの身に宿したのか。
・・・
土石属性の時みたいな暖かさはなく、深い眠りから浮かび上がってきたような感覚がシャアリィを包んでいた。
沼に足先を突っ込んでいるような違和感が抜けず、アイシャの声が遠く聞こえる。
「シャアリィ、大丈夫?」
「今度は上手くいったみたいだけれど、体調悪い感じ?」
「ソーダでも持ってこようか?」
シャアリィは、すぐに声が出ない。
身体や思考が一呼吸遅れて始まる感覚だ。
「ちょっと違和感が大きいみたい」
「落ち着くまで少し時間をちょうだい」
「スキルは、ちゃんと取れているし、属性追加もされてるから心配はいらないよ」
こんなに余所余所しいシャアリィはアイシャにとって初めてだった。
何を言えばいいのか、何か出来ることはないのか。
アイシャに隠し事をするようなシャアリィではない。
「大丈夫になったら教えて?」
「欲しいものがあれば何でも用意する」
「今は・・・きっと、邪魔になるからそっとしとく」
それだけしか、アイシャに言える言葉はなかった。




