急がば回れ
黒猫姉妹はすぐに新しい環境にも慣れたようだ。
勿論、時間の経過だけが癒すものもあるだろうが、これ以上、自分達に出来ることは少ない。
シャアリィとアイシャは、里心が付く前にレリットランスを去ることにした。
肝心の迷宮最下層の魔物の犠牲は、四パーティ三十一人。
部屋の外にまで追ってこないことから、逃走に成功した者も多い。
だが、アイシャがその身で感じたように、恐るべき武の達人であり、矢一本、術式一つ、未だに受けていないという。
アーシアン本国の冒険者ギルドから、そろそろネームドの指定を受ける、との噂。
「どんだけビビり散らかして、あの部屋に入ったか・・・」
「何処までも追ってくる殺戮機械みたいなヤツじゃなかったのだけが救いだわ」
さすがに冒険者ギルドを素通りするわけにも行かず、顔を出して仕入れた情報。
最後にその足で向かったのは、ザックの墓だった。
「ザック、あんたのパーティメンバーは今日も元気だよ」
「私達も、相変わらずのんびりとやらせてもらってる」
「急がば回れ、の、ザックが先に逝っちゃって、ホント、冒険者ってヤツは」
手入れの行き届いた冒険者の墓は珍しいが、ザックのそれは何時来てもキレイだ。
どれだけザックが皆に慕われていたか、が、わかる。
「さて、名残惜しさも、ずっしりと重いけれど」
「それより重いものを抱えてる身としては、そろそろ、急ぎましょうか」
アイシャが先に腰を上げる。
花束と酒の瓶を置き、シャアリィもアイシャに続く。
・・・
たった十一日分の距離で、ここまで気候が変わるものか、と。
結局、レリットランスは居心地も良く、旅路も含めれば一ヶ月の長期滞在だった。
白い壁と青い海、緑風と熱砂、生者と死者。
伝説の魔人マーヴェリック・エルゴ・ダインの故郷。
再び足を踏み入れるグリーン・ノウズ。
既に此処での稼ぎは、半ば諦めた。
手早く魔石をかき集めて、属性スキルを取得する、それには例の神父の協力が必要だ。
「やぁ、おかえり」
「私も帰路を楽しみながら戻ってきたので、三日程前に戻った所だよ」
フランコは旅の間剃らなかった無精髭で、シャアリィとアイシャを迎えた。
髪も整えず、聖職衣も来ていないフランコは飄々とした雰囲気が漂い、聖職者の証を胸元に下げていなければ、絵描きか小説家のようにも見える。
薄着から見通せる体躯は、かなりの訓練を積んだ筋肉質・・・シャアリィは、こりゃ余計な世話だったかな、と、思った。
「フランコ、あの件、実際の所は私達の協力なんか必要なかったんじゃない?」
「『モンク』だっけ、教会の体術使い」
「あなたもなかなか、食えない男ってことね」
フランコはくすっと微笑んで、結果的には最高の選択でした、と、言う。
「何が最高かと言えば、あなた達と敵対しなかったことですよ」
「さすがに私は擦り潰されたりはしませんが、短縮詠唱持ち相手では勝負になりません」
「さらに白毛獅子まで一緒となれば、逃走さえ出来ないでしょう」
「あなた達と組まなければ、どっちに転んでも、私に未来はなかった、と」
さすがは聖職者と認められるだけのことはある。
人心を掴むために必要な術は備えている、と、言うことか。
「まぁ、済んだことは済んだこと」
「それより、私達を修道女見習いとして此処においてもらいたいんだけど」
「この街、冒険者として稼ぐのは結構難しいから、拠点が欲しいのよ」
シャアリィは、そう、言いながらワインの瓶をフランコに差し出した。




