いらっしゃいませ
仕事がなければ暇を持て余してしまうだろうし、それは黒猫姉妹にとっても心苦しい。
という簡単な理屈で当面はアレックス夫妻が面倒を見ることが満場一致で決まった。
一人、エドワードだけはいろいろと反論を試みたが、多数決という数の暴力には勝てなかった。
「しょうがない、ここは潔く引き下がろう」
「でもな・・・俺の治癒院が開業したら、少し考えてみてくれ」
「それと、気になったら、ここに様子見に来てもいいか?」
その真剣な眼差しに、エレナもナッチェも喜んで応じた。
「エドは見た目はこんなんだけどね、仲間思いだし、結構、マメな男なんだ」
「エドの所に行きたくなったら遠慮なしに言えばいい」
「昔っからの付き合いの三人だから、そんなことで俺達は揉めたりしないからさ」
アレックスがまともなことを言う時は、大体、正論なので締めの言葉には丁度良い。
・・・
オルチェの服をエレナやナッチェが着れるように直すには、さすがに手間が掛かり過ぎる。
普段着や、予備の下着、サイズの合ったブーツも必要だ。
街を回って買い物をし、ついでに覚えていたほうが良い店も回ることにした。
「シャアリィとアイシャは、一通り済んだら、また、暫く行っちまうんだろ?」
「ちょっとはゆっくりしてけよ」
買い物に付き合ってくれているエドワードが、名残を惜しむようなことを言う。
「そうだね、私達、とんでもない目的のために冒険者を続けてるからね」
「今は、まだ、みんなには言えないけれど、それが終わったらレリットランスで落ち着くのもいいなぁ」
シャアリィが少しだけ寂しげに言うと、アイシャの顔にも感傷が浮かぶ。
「お節介して、投げっ放しにしてしまうのは心苦しいけれど、エドワード達にしか頼めなかったんだ」
「長く手が空きそうな時は、また、様子を見に来るから頼む」
エドワードは、少しだけ涙脆い。
そういうところを見られたくなくて、そっぽを向いて、生返事で誤魔化す。
・・・
週が開け、いよいよ二人が『ファイヤー亭』で働き出す。
「ラッシャイイイイイ!」
という、オルチェの声に合わせて姉妹は、丁寧にいらっしゃいませ、と、テーブルに付いた客に挨拶する。
テーブルから黄色い声があがる程度で、姉妹を困らせるような客はいない。
勿論、そんなことをすれば、アレックスから出禁を申し渡され、オルチェからは水を桶で掛けられる羽目になる。
「いらっしゃいませ、テーブルとカウンター、どちらがよろしいですか?」
丁寧に接客するエレナに、
「ウチは呑み食い処だからね、速度優先だよー、お客さんも承知してるから、声だけ大きめでよろしく!」
繁盛する店の女将は、指導も上手い。
姉妹は物覚えも良ければ手先も器用で、アレックス達にしてみれば、まさに借りたかった『猫の手』だった。




