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迷宮攻略開始

地図上では、レリットランス迷宮は、アーシアン迷宮の半分程度の広さだと見当されている。

岩盤はアーシアンよりも固く、自然の岩肌が多く残された古代迷宮に分類される。

アーシアン迷宮のような過去の権力者が造った人為的な装置、例えば廊下、玄室、階段、スロープ、遮蔽壁が少ない。

住んでいる魔物が知性的なモノよりも、より自然に近い姿であることも特徴のひとつ。


戦略上では、アーシアンよりもかなり難易度は低い。

だが、自然に近いということは予想外の障害が待ち受ける場合もあるということだ。

人為的なトラップならば、アイシャにとって看破するのは容易いが、自然の崩落を避けるのは容易ではない。


鉱物や天然の植生による毒汚染も見落としてしまうこともあるだろう。

悪意が表面化していない故の恐ろしさは、「事故」に繋がり易い。

アーシアン以外の迷宮の経験がないシャアリィにとっては、知らなうちに毒に触れてしまう危険もあるということだ。


攻略開始前日。

アイシャは汎用の迷宮地図をギルドで買った。

汎用地図は、判明している壁や高低差、汚染されていない水源等の基本情報だけが書かれている。

価格はとても安価だが、最も信頼出来る地図だ。

ギルドが発行しているものである以上、そこに誤った情報があれば、即座に訂正や告知が為される。


ルーキーが欲しがりがちな沢山の書き込みがされた、上等な地図というのはぼったくりであることが多い。

勿論、地図職人が自分の銘を入れて販売しているものであれば、ある程度安心出来るが、所詮は、ある程度だ。

その地図を使えば、ルーキーが休憩しそうな場所は簡単に割り出せる。

それは即ち、野盗共にしてみればカモがうろつく場所を教えてくれるガイドブックのようなものだ。

それでいて値段はべらぼうに高い。


冒険者の基本。

それは噂話はあくまで噂と割り切ることであり、自分の耳目を使って得た情報こそが大切。

あの薄暗い闇に一歩踏み込めば、そこには衛兵もいないし、自分の身を守るのは自分の力のみ。

酒場で意気投合して、翌朝一緒に冒険に出掛けるなんて馬鹿のやることだ。

仲間集めにしても、道具集めにしても、まず、疑うことから始めなくてはならない。


そういう意味では、シャアリィの単独行というのは理に叶っていたのだ。

勿論、経験が乏しく、真偽を見極める眼が養われていないから、ではなく、単に驕っていたからだが。


「まずは、上層をくまなく探索して、めぼしい魔物を殲滅しよう」

「サーチアンドデストロイだ」

「時間は有限、なるべく金になる時間を過ごすのは鉄則」


アイシャの言葉は説得力がある。

武具の類でさえ長い眼で見れば消耗品、手入れを怠ればコストが余分に掛かる。

回復薬のような即効性の高い消耗品になるべく頼らないためには、基本的な行動がしっかりしていなくてはならない。


「行こうか」


アイシャの合図で、人気の少ない入口から降下を始める。

急斜面には先人が踏み固めた階段状の窪みがあり、それをさらに踏み固めるように一歩づつ下ってゆく。

下り終えた所で不燃カンテラに魔法で火を入れる。

小さなランプだが火属性の魔石が入っているため、むらなく周囲を照らし、半日以上も持続出来る魔具だ。

勿論、予備の魔石も持っている。


ルーキーにしてみれば、この不燃カンテラでさえ「お宝」だろう。

露店の中古品で銀貨150枚、新品なら銀貨400枚程で売られている。

クラス1以下のパーティがこんなものを持っていれば、すぐに悪い噂が広まる。


だが、アイシャとシャアリィにはその心配はない。

アイシャの持つ高価な片刃剣は目立つ。そんなものを人前でぶら下げて歩けるようなルーキーがいたならば成金のお嬢様だ。


多少、噂にはなるだろうが、盗品などの疑いを掛けられることもあるまい。

半人前のパーティーやルーキーに絡まれる心配もないだろう。

それでも絡んでくる輩がいれば、遠慮なしに実力を示せば良いだけのこと。

迷宮内でのパーティ同士の戦闘は基本的には禁じられているが、皆が皆、行儀が良いわけはない。

大きな迷宮に行けば、ルーキーキラー、パーティキラー(冒険者狩り)の連中だっている。


兎に角、二人の最初の迷宮探索はこうして始まった。


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