5 谷の里と谷の剣者様
5日かけて谷に着いた。
何人かに迎えられセバスの妻がサリさんが挨拶に来た。俺の世話をしてくれるらしい。
なかなか大きな家があてがわれた。
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里に入りニ週間ほど経った。俺はやる事も無いので里の鍛治からノミを買い、ゆうこりんの像を彫った。
セバスが持って来た丸太は、なかなか良い香りの香木だ。シーズニングもされているらしい。
小さいお社をつくり中央に置いた。その前には跪き祈る男を彫った。コレは俺の像だ。ゆうこりんにいつも
祈りを捧げてますよ!と言うポーズだ。
(さて今日は外に出るか)
木刀を杖にし里の谷奥の方に向かう。
ここには谷の剣者呼ばれ尊敬される人物が居るらしい。
なんせ剣の腕は剣聖で知識は賢者な事から[剣者]と呼ばれるようになったらしい。
ダジュール国から弟子入り者が大勢来るが弟子になった者は居ないそうだ。
谷に滞在しているのだから会っておこうと思い、セバスにアポをとったらいつでも来い言う事だったので、アポ無しで訪ねる事にした。
谷の川沿いにのぼって行き、右手の小高い丘にその家はあった。
外に白髪の男が居る。後ろにはご婦人が洗濯物を干して居る。
「おはようございます。私コート国から来ましたナガトと申します。本日は谷の剣者様にお目に掛かりたく尋ねて参りました」
「うん、おはよう。聞いてるよ、朝の体操をやるからちょっと待ってくれ」
(ちょっと来るのが早かったか?年寄りは朝が早いと読んだんだが)
そう言うと剣者は体操を始めた。
その姿にナガトは目を見張った。
(ラジオ体操じゃんか!)
横に行き一緒に体操を始めると、剣者の目が驚きの表情をする。
体操が終わると剣者はナガトを見る。
「第二はやらないのですか?」ナガトの小学校は第二までやっていたので良く覚えている。そのまま第二を続けた。
体操が終わると家の隣にある、小さい小屋の中に招かれた。
小さいテーブルの席に着くと夫人がお茶を持って来てくれた。お土産の自作の木彫りを渡す。
「自作品ですが」
仏一体と不動明王・制吒迦童子・矜羯羅童子を出す。
「ほう、円空仏か!作ったのかね?」
「岐阜のカルチャー教室で2年ほど仏像彫刻家に教わりました」
「迦楼羅炎が何とも良いね!オリジナルデザインかな?」
「お不動さまと童子はオリジナルですね」
「とても良く出来ている、とても嬉しいよ」
「三枝長門です」
「工藤渉だ」
「三枝だからは山梨県かな?」
「曽祖父までは竜王町ですね、私は東京の神田です」
「私は神奈川の秦野市に住んでいたが、生まれ育ちは湯島だよ」
「あー私は反対の方です」
「日本橋方面だね」
「そうです」
「なるほどセバスチャンが瀕死の状態から生還したあと、人が変わったようだっと言っていたが・・・入れ替わっているのかい?」
俺は工藤さんにこれまでの経緯を説明した。
「それは何とも難儀だね・・・」
「全く災難ですね。まぁ妻に先立たれ子供も居ない、天涯孤独の気楽な身だからまだ良いですけどね。若返ったのも良いのか悪いのか・・・」
工藤さんの話しは悲惨だった。別世界から来て?北海道で化け物と戦い、やられる瞬間にゆうこりんの手によりこっちに飛ばされたらしい。
その日は工藤さん宅に泊まり遅くまで話し込んだ。