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正しい魔法の使い方 異世界でアイドルの推し活をする方法

作者: 国先 昂


「ねえ、聞いた?また偽者が出たって」

「聞いた聞いた。わざわざ胸にタトゥーを入れて、光魔法で光らせたらしいよ」

「でも、それって光るの自分だけじゃないの?」

「そうだって。王家に番紋偽った罪で、罰せられたらしいよ」

「怖い……そこまでして、王子殿下の番になりたいのかしら」

「なりたいんじゃない?偽者が後を絶たないって言うし、やっぱりあの美貌と体つきにやられる女子は多いわよ」

「え――。私はもっと、線が細い儚い感じの人が良い」

「あの、細マッチョが良いんじゃない。ま、なんにしろどこにいるのかしらね殿下の番様」

「これだけ探してもいないんじゃ、まだ生まれてなかったりして」

「そうかも……ね、せっかくだから番板見に行こう!」


 女子生徒が楽しそうに噂をしながら、教室を出ていく。


 私は伏せていた顔を上げると、こっそり口元から垂れていたヨダレを拭った。


 番紋か……


 この世界では魔力の強い人の胸元に番紋が現れる。紋は対になっており、同じ紋をもつ人はこの世で1人しかいない。そんな番紋をもつ人同士は相性も良く、結婚することが望ましいとされている。


 ちなみにどちらかの番が亡くなった場合、番紋は消え2度と浮き出ることはない。


 そんな番紋だが、お互いが番かどうか確かめる方法は簡単である。互いの両手を合わせ、「番紋」と唱えると胸の番紋が光るのである。


 番紋が発現すると、番板と呼ばれる掲示板に男性の名前と番紋が勝手に浮かび上がる。なぜ女性の名前は出ないのかやどうやって浮かび上がるのかなど原理は不明。昔聖女が神様に聞いたところ「その方が探すロマンがあって良いでしょ」らしい。本当だったら、神様本当にいらんことをするやつだな。ちなみに番板はいたるところにあり、この学校の玄関にも設置されている。

 

 ファンタジー盛りすぎじゃない?と思っている私は辺境伯家次女、クリスタ=ドミニオン花も恥じらう16歳である。


 なんと私には前世の記憶がある。


 前世で私は生粋のアイドルオタクだった。もらった給料全部推し活のために使うのもためらわないほどである。北海道から沖縄まで、果ては海外であってもチケットが取れれば飛んで行っていた。


 3度のメシより、推し活が好き!!


 そんな私が剣と魔法の世界に生まれ変わって魔法が使えてヒャッハーするかと思いきや、モンスターを魔法で殺すなど前世の倫理感が邪魔して全くできない。せっかく豊富な魔法量に恵まれているのに……と家族には言われたが、無理なものは無理である。


 私が何をしたいかって?

 そんなの一つに、決まってるじゃない。


 私はやっぱりアイドルの推し活がしたい!!


 ところがである。この世界にアイドルはいなかった。


 いないなら 作ってしまえ ホトトギス

                 作 クリスタ


 そう、今大切な計画が進行中なのである。

 

 その打ち合わせが昨日も深夜まで続いたため、先程の授業で睡眠学習を行っていたのだ。だから、番紋ごときに関わっている暇はない。


 教室に実行委員を務める先輩女子が駆け込んでくる。


「クリスタ、女子寮に緊急招集だって」

「分かりました。すぐに行きます。」


 こんな時間に緊急招集?

 

 ……これは、もしかして、もしかするかもしれない。


 女子寮に慌てて行くと、今回の計画のメインメンバーが集まっていた。


 まず会長、ビクトリア王太子殿下、18歳。生徒会長も務める、次期女王である。今回計画を立てた私が企画書を持ち直談判したところ、「面白そうだからやってみろ」と心良くゴーサインを出してくださった懐の大きな人物である。ちなみにスポンサーも務めている。


 副会長、メイリア公爵令嬢、18歳。生徒会会計も務める才女で、3度のご飯より筋肉が好き。(内緒)この計画でも運営を務めている。


 同じく副会長、サフィア伯爵令嬢、18歳。魔導具科に所属し、百年に一度の天才と呼ばれており、この計画に欠かせない魔導具作りのリーダーである。ちなみにマッドサイエンティストで、一度作り出すと倒れるまで作り続けるので要注意である。


 音楽部門実行委員、トリシャ伯爵令嬢、18歳。音楽科に所属し、メインボーカルの育成とピアニスト、ドラマーの育成を担っている。ちなみに推しは年下の可愛い男の子。(内緒)


 魔法部門実行委員、ミルティナ男爵令嬢、18歳。舞台に欠かせないスモークなどの舞台魔法のリーダーである。このメンバーの中では常識人。ただし魔法オタク。


 召喚部門実行委員、ルリリア男爵令嬢、18歳。当日行う召喚魔法の責任者である。推しはダンディーな叔父様。(内緒)今回は出演が難しく涙をのんだ人物である。


 ダンス部門実行委員、シンディー男爵令嬢、18歳。先程私を呼びに来てくれた人物である。推しはギャップのある男性。(内緒)


 そして私、クリスタが総合責任者を務めている。以上、8名が今回の企画のメインメンバーだった。


「クリスタが来たから、会を始めよう」

 いつものようにビクトリア会長の言葉で会が始まる。


「「「「「「「はい!」」」」」」」


「……ついに……ついに勧誘に成功した!!多少の無理はしたからな。後でそのしわ寄せはくるかもしれないが、大事の前には小事にはこだわっておれん」


 会長の言葉に皆の期待が膨らむ。


「と、言うことは……!!」


「王子を始め、8人全員からオッケーが出たぞ!!」


「「「「「「「キャー」」」」」」」


「やりましたね」

「はい、これで後は振り付けを教えたら完成です」


 皆で喜びを分かち合う。


「まあ、まだ3日ある。彼奴等は今回の魔法対決の主格だからな。運動神経も良いだろうし、すぐに振り付けは覚えられるだろう」


 この一ヶ月本当に長かった。どれだけ徹夜し議論を重ねたことか。それがあと少しで報われる。


「せっかく集まったからな、念の為最終確認をしておこう」


「運営ですが、女子寮生徒10名に当日の物販を頼んでいます。販売予定はイニシャル入りのタオルとうちわ、こちらは8人分各200個発注済みです。当日の8人の誘導も私と他3名の生徒で行う予定です。また当日着る衣装も既に届いています」

 

「魔導具だが、マイク、それからピアノの改造、ドラム、カメラ、スクリーン、トランシーバーの開発は完了している」


「メインボーカル1名、サブボーカル2名、ピアニスト1名、ドラマー1名いつでも演奏ができる状態に仕上がっています」


 本当はアイドルなら歌って踊れるが目標だったが、今回は短期間ということもあり、演奏組とダンス組に分けるしかなかった。


「闇魔法使い3名、光魔法使い10名、風魔法使い3名を当日は配置します。花の準備はどうなっていますか?」


「失礼しました。花も発注済みです」

 メイリア副会長が訂正する。


「召喚部門は7名手配済みです。最後の1名はクリスタさんで大丈夫ですか?」

 

「はい!もちろんです!」

 ここで私の有り余っている魔力を使わないでいつ使う。


「ダンス部門だが、これから直ぐに振り付けを教える作業にうつる。マンツーマンで教えられるよう、8人の男子生徒がすでに踊りをマスターしている。当日は、この8人に旗を振り召喚士を隠す役目を担ってもらおうと思う」


「よし、後は当日を迎えるばかりだな……。会場の都合で一発本番になる。各自最終調整を頼む!!」


「「「「「「「はい!」」」」」」」


「最後に総合責任者クリスタ、何か伝えておくことはあるか?」


「はい!皆様のおかげで私の夢が現実のものになろうとしています。今回の試みが成功すれば魔法や魔導具の活用法もまた変化するかもしれません。我々は先駆者です。批判もあるかもしれませんが、恐れずに前に進みましょう!!」


「「「「「「「はい!」」」」」」」


 これで後は本番を待つばかりである。何もトラブルが起きませんように……。

 


 と思っていたらお約束のように起きました!しかも前日の衣装合わせで!


 王子が金。騎士団長子息が赤。魔法騎士団長子息が青、その他、緑色、黄色、桃色、紫色、黒色と続く。


「クリスタ様、金、赤、青の上の衣装のサイズが合いません」


 衣装を担当してくれた女子生徒は泣かんばかりである。発注は一ヶ月前。その時のジャストサイズをファンの子たちに確認したから、間違いはなかったはず。


 ……おそらく四学園対抗魔法騎士団演習会に向けて、鍛えに鍛えまくった結果だろう。こうなれば、方法は、1つ。


「王子、上を脱いでください」


「は?」


「時間がないんです。早く!!」


 私の勢いにのまれたのか、王子はしぶしぶ上着を脱ぐ。


「シャツもです!!」


「……は?」


「いいから、早く!!」


 私は王子のシャツをひん剥くと、金の上着を着せた。前ボタンを開けてシャツを脱げばなんとか着られる。腹筋は見えるし、これはこれでセクシーで良いでしょう。顔を赤らめている衣装係に頷く。


「王子はこれで!次に、赤と青か……」


 赤は上半身裸で腰に巻かせる。青は袖を破り、前空きベストにする。


「どう?」


「「「「完璧です!」」」」


 衣装係のオッケーも貰えたので一安心!


「……いや、ちょっと待て、これはさすがにないだろう……」


 王子が恥ずかしそうに呟く。赤と青も同様に顔が赤い。


「何を今更言ってるんですか?あなたたち、演習場では暑いからといつも裸でしょう?それにそもそもサイズが合わないのもあなたたちが出るのを渋っていたからです。私たちがこの一ヶ月どれほど準備してきたと思ってるんですか!」


 この会にかける私たちの熱意をなめてもらっては困る。


「王太子命令だ、その服で出ろ」


 トラブルと聞いて会長も駆けつけてくれた。


「姉上、しかし……」


「……約束」


 王子とどんな約束をしたのか分からないが、王子はしょうがなさそうにこくりと頷いた。赤と青が驚いて呟く。

 

「王子!?」


「……悪いが、今回だけだ付き合ってくれ」


 その言葉に赤と青も頷いてくれた。


「トラブルはこれだけか?」

「今聞いてみます」

 私はドランシーバーで連絡を取る。


「クリスタです、何かトラブルがあれば教えてください」


「運営オーケー」

「魔導具も大丈夫」

「音楽部門はダンスと合わせたいんだけど……」

「衣装合わせが終わったので今から演習場に向かわせます」

「了解」

「魔法部門もオッケーです」

「召喚部門もオッケーです」

「魔法部門と召喚部門は明日が一発本番です。早く休んで明日に備えてください」

「了解」


「……それは何だ?」

 王子にトランシーバーについて聞かれるが、今はそれどころではない。


「明日が終わればご説明しますので、とりあえず音合わせに、演習場に行ってください」


「……だが、その魔道具は……」


「……さっきからうだうだうるさいのよ。早く演習場に行く!早く!!」


 私は王子達8人を演習場に追い立てた。


「いや、クリスタの手並みは素晴らしい。……きっと尻に敷かれるな」


 会長がポツリと呟くが、私はその言葉を聞くことなく、次の指示を出す。


「手が空いているメンバーで、会場準備の手伝いに参りましょう」


「「「「「はい!」」」」」


 今日もなかなか眠れそうにない。



 

 そして、いよいよやって来ました!

 四学園対抗魔法騎士団演習会!!


 今年は我が校が開催校で、開会式が演習場で開かれる。既にアリーナ場の演習場は本校生徒、保護者、残りの三校生徒保護者で埋め尽くされ満員御礼状態である。


「ただいまより、四学園対抗魔法騎士団演習会を始める。まずはオープニングを楽しんでくれ!!」


 会長の挨拶と共に闇魔法で客席以外の演習場が闇に包まれる。


「本年度代表、ゴールド エヴァン」

「レッド ロイド」

「ブルー ステファン」

 光魔法で1人ずつ照らしながら、自己紹介が終わる。


 さ、ここからが勝負だ。


 私を含めた召喚士8名と目隠し役の旗係8名は配置済みである。


 杖でテンポをとる。


 8人の声でカウントが入る。

「5、4、3、2、1、レッツ・ゴー」


 シンセサイザーもどきで曲が流れ出す。ドラムも派手に打ち鳴らす。もちろん選曲は私!前世の推しの曲である。


 少しハスキーな声のメロディー、8人の息の揃ったダンス。両方がマッチして会場は熱気に包まれていく。


 そしていよいよ1番のサビに入る。風魔法で花びらを飛ばし、幻想的な空間を作り出す。


 2番のメロディ―は1人1人のソロパートにした。

 

 魔道具でカメラとスクリーンを作ってもらったので、後ろの人にも見やすい仕様にしている。

 

 やはり王子は目を引く。腹筋も見えて色気もダダ漏れである。


 さ、いよいよラストのサビだ。魔力を全部杖に込め、魔法陣に注ぐ。

 

 我が国の守護神は水竜であるとされている。なのでやはり8人のバックに水にかかわる精霊召喚で最後の華を飾りたい!!


 曲が終わり、全員の動きが止まった。今だ!!

 

「いでよ、水の精霊!!」


 思いの丈を込めた召喚は無事に成功した!


 なんと水竜が上空に浮かび上がる。


 水竜?


 ま、縁起が良いから良いわね。


「娘、願いは何だ」


 願い、願いね……。やっぱりここは空に虹でしょう!!


「にじ……」


 と言いかけて、王子に口を覆われる。


「いと気高き水竜様。召喚に応じていただきありがとうございます。ここより南の地が水不足で困っております。そこに雨を降らせていただきたい」


「娘もそれで良いか?」


 王子が私を睨むので、私は口をふさがれたまましぶしぶ頷いた。


「分かった。この国に幸多からんことを!!」


 そう言い残すと、水竜は南の地へと飛び立って行った。その瞬間、


 うわー――!!!

 キャー!!!


 辺りは割れんばかりの大歓声に包まれた。

 

「ゴールド様!!」

「レッド様!!」

「ブルー様!!」

 仕込んでいた桜たちが、うちわとタオルを振り回す。


 よし。これで物販も完売間違いなしね。


 私たちは熱気に包まれた会場を後にした。


「やりましたね」

 

 私のもとにメインメンバーが集まる。私を含め全員が感極まって泣いていた。


「会長、後は会長の閉会式です。ソロなのでよろしくお願いします!」


「ああ、分かっている」


 閉会式は歌姫のイメージである。会長なら女王様と呼びたくなるだろう。

 

 前世は見る専門だったが、こうして運営に携わるのも本当に楽しかった。是非第二弾を開催したい。


 女子でキャッキャ盛り上がっているところに、王子がやってくる。


 どことなく不服そうな顔である。


「姉上……コレだろう」


 私を指さす。コレ扱いはひどくありませんか。


「ああ、おそらく間違いないぞ」


「……信じられません」


 王子は手で、顔を覆った。 


「何の話ですか?」


 訳が分からず、会長に確認する。


「ああ、大事の前の小事の方だ、クリスタちょっと来てくれるか?」


 私の大絶叫が響くまであと10秒。




 


 

 

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― 新着の感想 ―
続きが読みたいです。 テンポよく、めちゃくちゃ楽しく読ませていただきました〜
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