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第二章 あやめ(菖蒲)の旗 頁三

第二章「あやめ(菖蒲)の旗」その二十一


 十兵衛は、同僚の善景とともに城の庭に出て、剣の稽古をしていた。

 ほんとうなら、輝虎と稽古をしたかったが、いかんせん、今しがたその奥方とともにどこかへと風とともに行ってしまったではないか。

 で、仕方なく、善景に稽古の相手をしてもらっている。が、これもまたいかんせん、手ごたえがない。善景はどちらかといえば内政向けの男で、剣や槍でひと働きともなると、どうにも頼りない。

「ま、参った」

 と、木刀を二振り三振りしたところで、早々にもろ手を上げる始末。

「へっ?」

 このあっけなさに、さすがの十兵衛もきょとんとしてしまい。結局のところ、十兵衛の稽古、というより、善影への剣術指南になってしまった。

 家中で十兵衛と対等に木刀を振り回せるのは、主の輝虎ただひとり。他のものは、誰一人として十兵衛と稽古をしたがらなかった。もしうかつに相手をしようものなら……、次の戦に出ることができなくなってしまうからだった。

「あのう、善影殿。本気で打ってほしいのだが……」

「わかっている、わかっているのだが」

 もちろん、善影が内政向けとはいえ、いざというときには戦に出ねばならない。それが、十兵衛にのめされ出られなくなるなどということがあっては、武士の面子にかかわり、さすがにまずいし。親父の晴景になんと言われることやら。

 それでも気の強いところはあって。その昔、十兵衛に説教をくれたことがある。輝虎に対しあれこれと不満たらたらな十兵衛に向かい、「そんなに不満があるなら反逆でもしてみろ」と、怖い事を言い十兵衛を黙らせた。「殿とおひい様の首をはね、津川家の旗を立てよ」と。

 このあたり、やはり善景もまた武士なのであるということでもあり。それでいて根が善良に出来ている、ということを示すエピソードにもなっている。

 それはともかくとして、これでは稽古にならぬと十兵衛は濡れ縁に腰をかけ。空を眺めた。やけに雲の流れが早かった。

「はあ。さてさて」

 つまらん、と言ってやりたかったが、さすがに善景が年上だということを考え、口に出しては言わなかった。

「やはり、おぬしの相手は殿でなければつとまらぬな」

 と、苦笑する善景。まったくだ、と心の中でうそぶく十兵衛。我ながら強くなってしまった、で、稽古をつけた輝虎もまた強くなってしまった。

 それはいいのだが、そのおかげで、この間のような軽率な振る舞いをしてしまうのがある種の悩みどころでもあった。

―大将としての自覚をもっともってほしいものだ。―

 と、たびたび思う。今お雪とともに出かけているのだって、ほんとうなら慎むべきであり、どうしても行くというのなら、警護のためのお供をつけねばならないのに。

 ふと、善景がうわの空になっていることに気付いた。はぁ、とため息をつき、問いただす。

「奥方の腹におわす『やや』が気がかりでござるか」

「ん、んん、まあ」

 やはりうわの空で応える善景。めでたいことに、善景の妻お八重は腹に子をみごもっていて、そのことで頭が一杯のようだ。晴景など、そのことに有頂天になり。涙を流し嫁に「でかした」といい、何度も孫の顔をはようみたいと繰り返していた。

 十兵衛はなぜかやるせない気持ちになって、ふたたび空を見上げた。やはり、雲は早く流れていた。




第二章「あやめ(菖蒲)の旗」その二十二


 やけに早く流れる雲。

 お雪と一緒に郷の川原まで下りたときの帰り、輝虎自身もそれを感じていた。

―また戦があるか。―

 十七での初陣以来、幾たびもの戦場を駆け巡り。その気配を感じられるようになり。武士としての本能が、血を騒がせる。

 これからももっともっとたくさんの戦があり。それに馳せ参じなければならない。

 輝虎は、中村家成の家来であり、娘婿であるのだから。家成が戦をすると決めれば、それに対し断る権利をもちあわせていない。お雪を妻にしたことと同様に。

 輝虎の権利、それは先祖代々受け継がれてきた大高の小城一つと、その領土の保有。その権利のために、家成の命令に従う義務がある。

 だからこそ、義のために戦わねばならない。だからこそ、命を賭けてきた。そのために、多数の家来をなくして。

 その中で、気にかかることがある。

―もしおれが死ねば、お雪はどうなる。―

 あのきれいな黒髪をおろし、尼になって亡き夫の菩提を弔うか。まだ十八の若さで……。

 それとも、一度出戻りをして、他のもののもとへ嫁ぐのか。そういう事例はたくさんある。未亡人となった女性が、またよそへ嫁ぎ、そこで新たな生活を始める。

 家と家を繋ぐ道具として。いわゆる、政略結婚で。そこで更なる仕合わせをつかめれば、それはそれでよいかもしれない。しかし、更なる不幸に見舞われぬとも限らない。

 そう思うと、ただならぬものを感じた。お雪が、他の男のものになるなど。決して許したくはないことだった。

 輝虎はお雪しか知らない。お雪も、輝虎しか知らない。

―死ねぬ。―

 武士たるものの考えることではない、しかし、死ねば死に切れぬ思いをすることはまず、間違いない。

 だが、さきほど述べたように、戦にゆくのを断ることはできない。

 ならどうする。

 勝たねばならない。

 鬼神のごとく戦い、己を討とうとするものを、討たねばならない。いや、討たれる前に討たねばならない。

 そのために、強くなろうとしたのではないか。そのために、前の戦で才木長久の首をもとめたのではないか。

 なら、次にもとめるは誰の首か。

 綾山常光。

 その名が浮かんだ。

 中村家成と双璧をなすこの大豪族のもとに、多数の小豪族が駆け込み庇護を求めているという。となれば、このままいけば戦は免れない。

 それくらいのことは、輝虎にもわかる。

 わかるだけに、これからますますの武者働きをせねばならないと、強く心に誓ったのだった。

  



第二章「あやめ(菖蒲)の旗」その二十三


 早く流れる雲は、それを見た人の心を逸らせるだけはやらせて、夜の帳に飲み込まれて。月の輪にわずかばかり白いところを照らされて。

 それもまた、流れていて。

 月は雲の幕の向こう、うっすらとその身を夜空にさらす。

 十兵衛は鞘に納まる刀を肩に担いで、その夜空を眺めながら。我が館(といってもそれほど大きくはないが)の庭で、夜風が恋しいとばかりに、その身をなでさせる。

 いや、なにもこれと言った理由は、あるにはあるのだが。手燭も持たず月明かりのみを頼りに、庭に出た。

 母の言葉が、今も鼓膜をついている。

「そなたは津川の家を絶やすのか」

 昼間見た、善景のぼうっとした顔が思い出され。ため息をつき、ついには館を出た。どこに行くでもない、城に続く郷の小道をただうろうろとする。

 目が暗さに慣れて、月明かりもあって、特に不便はなかった。

 十兵衛、いまだに嫁はない。

 手ごろな大きさの岩を見つけ、そこに腰掛ける。肩に担ぐ刀の鞘の重みが、のしかかる。母の言葉がそのままのしかかっているようだった。

―だがなあ、母者よ。おれは嫁などほしゅうない。―

 男色というわけではない。しかし、女にさほど興味もない。それでも、胸につかえるもの。

 自分のわがままで母と、亡き父を困らせているのはわかるが。

 母は言う。晴景殿が妬ましゅうてならぬ、と。孫の顔が見たいという、親としての心。十兵衛は、いまだにそれをかなえられないでいる。

 さてはてと、考えをめぐらせている時。草のざわめき。

 とっさに刀を鞘から抜いて、身構える。

 何奴? と、息を殺し草をざわめかせるものの気配を探れば。

「十兵衛か」

 と呼ぶ、女の声。

「な、なに? その声は」

 と、姿を現したのは、お凛だった。

 間違いない。幼馴染みであり大高家の侍女であるお凛が、今目の前にいる。しかし、奉公の身で勝手に城を抜け出すなど、下手をすれば打ち首である。

「ど、どうして。お凛おぬしなにをしている」

「そういうあんたこそ、なにをしているのよ」

 お互いが驚いていた。まさかこんなところで、と闇夜の中からぼうっと浮き出る顔にある目を見開いて。十兵衛は刀をそのまま、お凛に向ける。

 こやつまさか「くノ一」か、と思ったが。そのあとあっさりと鞘に収めて、それにお凛のほうが呆気に取られていた。

「あんた、なにしてるの」

「ん、いや。おぬしがくノ一など、ありえぬと思ってなあ」

「そりゃどういう意味よ」

「自分で考えろ」

「まったく。疑いもしないなんて、そっちの方が余計にタチが悪いわ」

「なら疑ってほしいか。おれがおぬしを城までしょっぴけば、打ち首までもいかずとも、十叩きくらいはいくぞ」

「い、いや……」

「そうだろう」

 と、くくっと笑った。ばったりと会った幼馴染みの侍女をからかって面白がっているようだ。昔こそ喧嘩で負けたこともあるが、今はどうか。

 だが、そんなのんきなことなどすぐに頭から引っ込めて。お凛のふくれっつらなど、目に入らない。

「まったく、家来と侍女がそろってこんな夜中になにをしているのだろうな」

「……」

 お凛はなにも言わない。こんなことは、あってはならないことだ。領土統治という面で、秩序に関わる問題である。こんな時代に、自由に夜外に出歩く自由を皆に与えれば、暗殺者さんいらっしゃい、とばかりに我が身を危険にさらすことにもなる。

 もっとも、大高の郷を納める大高家の殿様はどちらかというとのんき者が多いから、それほど厳戒態勢がしかれているわけではないようだ。それはふたりをみればわかる。

 ふと見れば、お凛はため息をついた。なにか悩みでもあるのだろうか。この元気すぎるほど元気な侍女が。と思えば、おもむろに、口を開いた。

「ねえ十兵衛」

「ん?」

「あたしを嫁にしない?」

 その言葉に、十兵衛は一瞬石になってしまっていた。 




第二章「あやめ(菖蒲)の旗」その二十四


「はあ?」

「……」

 お凛は自分のいったことの恥ずかしさに耐えかねているのか、諸手を握り締めている。暗くてよくわからぬが、顔は真っ赤だった。

「突然なんだ」

「だ、だから。あんたの嫁になら、なってやってもいいって、言ってるのよ」

「冗談だろ」

「冗談ではない」

 身もだえするお凛に対し、十兵衛は平然と返している。それが、さらに身をもだえさせる。

 どうして、と。お凛は心の中で繰り返す。必死になって勇気をふりしぼっていったのに、相手はそ知らぬ顔。それが、己にただならぬものを感じさせていた。

 自分にいわれても、なんともないのだろうか。そう思うと、女としての恥辱を覚えてしまう。そりゃお転婆で、それほど美人というわけでもないが。

「母者か」

 十兵衛の声を聞き、お凛の動きがぴたりと止まる。どうやら図星のようだ。

「なるほどな。母者は孫をほしがっていた。津川の家を恋しがっておった。だから、だれぞよき娘をと思ったのだろうが。よりにもよっておぬしをか」

 普通、侍女は皆殿様のもので、家来が勝手に嫁にしてよいものではない。それこそ、輝虎がお凛を欲しがれば、そのままその身を差し出さねばならない。が、このような小さな家はそれが徹底されているわけではなく。

 だれぞの嫁になって、いとまをもらった(やめること)侍女も何人かいる。

 それ以上に、輝虎はお雪以外はまったく望んでいないので。侍女が夜伽をするということもない。こういえば、輝虎とお雪は純愛で結ばれているともいえるが。実際のところはそんな生半な言葉ではすまず、それこそ死活問題でもあった。

 もし輝虎がお凛をはじめとする侍女に手を出せば、どうなるか。主君の家成の娘をめとりながら、不埒千万と。取り潰しの良い口実を与えてしまうのだ。

 お雪は、輝虎の首輪として嫁がされたのだから。

 それはともかくとして、十兵衛は母がお凛に、我が家に嫁に来ないかなどと話していたことに呆気にとられていた。そりゃ確かに幼馴染みで他の郷の娘よりも知ってはいるが……。

「母者にも困ったものだ」

「どういうことよ」

「おれは、嫁など要らぬ」

「十兵衛……」

「それより、どうして城を出た。見つかって打ち首をくらっても文句はいえぬぞ」   

「そ、それは……」

 十兵衛は後に続いた言葉を聞いて、頭を抱えた。

「よ、夜這い? おれのもとに夜這いにゆけ、と。母者がそう申したのか」

「……」

 お凛、なにも言わない。なにも言えない。羞恥心と恥辱がないまぜになって、身を震わせる。

「あれは甲斐性なしだから、女の方からゆかねばなるまいと、そう言われて。あとのことは、輝虎様に言ってなんとかするとか」

「それで、首を縦に振ったのか。ばかな」

 こんなばかな話しがあってなるか、と十兵衛は首を横に振った。どこに息子の幼馴染の女に、我が息子に夜這いをせよなどと言う母親があるか。 

 それほどまでに、嫁が欲しかったのか。しかも、お凛はそれを引き受けた。

 血を残す。それは武家に生まれたものにとって、なによりも代えがたいものだった。その執念に、お凛は飲み込まれてしまったのかもしれなかった。下手をすれば、十兵衛も飲み込まれる気持ちだった。

「とにかく城にもどれ。母者からはおれのほうから言っておく」

「それは」

「言ったはずだ。おれは嫁など要らぬ」

 そう言いながら、襟元から見える白い肌が気になっていた。人並みに持ち合わせるものは持ち合わせているのだろうが。振り払うように、お凛を追い返そうとすると。

「馬鹿!」

 と、叫ばれた。

「なにが馬鹿だ」

「せっかく嫁になってやるというのに」

「いらぬ。それにおれが馬鹿なのは前からわかっていたことだろう、今さらなにをいうか」

「だからあんたは馬鹿十兵衛なのよ!」

 捨て台詞をはき、たたたと、小走りに城に帰ってゆくお凛。その闇に飲み込まれる後姿を眺めながら、十兵衛も岐路に着く。

 やはり、昼間善景を見たときと同じ、やるせない気持ちになっていた。しかし、その雲の流れる早さを思えば、と思うと、我知らず首を横に振っていた。 




第二章「あやめ(菖蒲)の旗」その二十五


 風が吹いている。だが、風は雨雲を蹴散らせられず雨のつぶてを弾のように兵たちにぶつけている。

 皆、兜や陣笠からしたたりおちる雨粒に目を射られ何度も目を閉じていた。中には、槍で突かれ刀で着られて、永遠に目を閉じているものもあった。

 足元は雨でぬかるみ、ふんばりがきかず。馬も役に立たない。

 輝虎はやむなしと馬を降りて、徒歩立ちになり槍を振るった。輝虎のみならず、味方も敵も、足を泥まみれにしながら徒歩立ちで戦っていた。

 ふと見れば。菖蒲あやめの旗がひとつ、雨に濡れて、倒れ、それをたくさんの兵たちの足で踏まれて、泥まみれになっている。

 我知らず舌打ちをして、突っかかる敵兵を槍で突く。

「こりゃたまりませんな」

 後ろから僚友の久遠実成が叫んだ。振り向けば、兜のまひざしからしたたり落ちる雨粒越しにその姿が見えた。実成は槍を折られて、太刀を手に戦っていた。

 泥沼の戦い。そのままの言葉のことが、今ここで起こっている。

 ついに起こってしまった綾山常光との戦。

 避けられないと誰もが思ったことだった。

 家成は常光への怒りに任せて、家来たちを総動員して、綾山領飯歌の城へと攻め込んだものの。

 待ち受ける綾山の軍と真っ向からぶつかった。それと同時に、雨が落ちてきた。

 雨に打たれ、体力の消耗も著しく。それでも、戦わねば、死ぬ。

 歯を食いしばり、輝虎はひたすら敵兵に槍を見舞う。

 顔には雨粒とともに、突いたものの血がとびちる。雨粒を血で落とし、それから血で雨粒を落とす。それを何度繰り返したか。

―ご武運をお祈りいたしております。―

 という、お雪の言葉が脳裏をかすめる。

 一緒に鞠をついた手で、刀槍を握って。

「ぎゃっ」 

 という、声にもならぬ声。

 見れば、自分より少し年下のような、まだあどけなさの残る少年の兵を、おのれの槍で突いていた。

 その槍を抜けば、待ってましたとばかりに、今度は自分たちの家来が一斉に飛びかかり、同じように槍で突いて、ハリネズミにする。

 いつだったか、お雪と初めてのくちづけをしたとき。

「初陣首など取らせはさせぬさ」

 と言った。

 しかし、ともすれば、その言葉に反して。この少年兵のようになっていたかもしれないのだ。

 少年兵は物言わぬ屍となって、その首は誰かの手に掴まれていた。

 だが哀れにも思うこともなく、感傷になどひたることもなく、またふたたび槍を振るっていた。




第二章「あやめ(菖蒲)の旗」その二十六


 常光は言う。

「いずれは、中村家成と雌雄を決せねばならぬ」

 その言葉に、家来たちや、庇護を受けている小豪族たちは固唾を呑んだ。いよいよ、戦が始まるのだ、と。もう常光は、そのつもりでいるのだ、と。

「どうせ避けられぬ戦だ。なら、わざわざこちらから正直に仕掛けることはせずに、向こうから来てもらおう」

 と、家成を挑発する手紙を送りつけ。

 その思惑通り、相手は挑発に乗った。

 それを知ったとき、家来や小豪族たちは、黒雲がこちらにやってくるかのごとく、顔色を失い恐怖した。中村家成の軍勢の強さは、四方に響き。小豪族たちの中には、その強さを身を持って思い知らされているものもある。

 だが、常光は動じない。

「ならばこそ、勝機はわれらにあるぞ」

 と、全軍を鼓舞した。

 挑発に気付き、笑って済まされれば、常光も多少は頭を抱えたろうが。それはなく。見事なまでに、おのれの思い描いたとおりに相手が動いてくれた。

 どしゃ降りで、両軍ともに泥沼の死闘を演じる中。雨粒が叩き付けるのもかまわず、常光は采配を振るった。さすがに馬は役に立たぬが、己の足で立ち、自軍を指揮する。

 だが、戦況はかんばしくないようだ。次から次へと、押されているという知らせがひっきりなしにやってくるばかり。

―やはり中村家成の軍は強い。殿は道を誤まられた。―

 常光のそばにいて、一緒に知らせを聞く家来たちは、主の開戦の意をひそかに呪った。しかし、常光は動じない。いやそれとも、これも作戦のうちか。

 口元を引き締め、しきりと何かを待っているようだった。

「中村家成の娘婿、大高輝虎の軍の勢い凄まじく。次々と陣を突破されております」

 その知らせが来たとき、家来たちはみな思わず、おお、っと声を上げた。家成の娘婿のことは、以前からうわさされていたことで。あの才木長久も、その娘婿に滅亡のきっかけを与えられてしまったではないか。

「殿、ここはひとまず退き。またあとで陣を立て直すしかないのでは」

 誰かが言った。しかし、常光は聞かない。

「待て。まだ堪えよ」

「しかし、何を待つのですか」

「わしに考えがある。それまで動くな。動けば負けとこころえよ」

「とは?」

「わからぬか、その輝虎という若武者の強さは最初からわかっておったことだ。それよりも、万事わしの言うとおりにせよ」

「ははっ……」

 納得しきれず、やはりわからないような家来をあえて無視し、常光は仁王立ちのまま。采配を握る手に力がこもる。

 家来たちは、ただ呆然としている。雨に打たれ、そんな中で自軍が押されているといういやな知らせを聞かされて。

 それなのに、まったく引こうともしない常光の指揮はどうであろうか。皆、恐ろしさのあまり狂われたかとまで思うものもあった。

 常光自身、なにも思わないでもない。家来を犠牲にしているのだ。こうしているあいだにも、次々と犠牲が出ている。しかし、犠牲が出るのは承知の上だった。

 犠牲を出さずに済む方法など皆無である。戦を起こすということは、そういうことなのだ。

―なに、本当に負けたときは、わしもそやつらのもとにゆくさ。―

 と、自分に言い聞かせて。

 そんな中で。

「ついに田尾和孝殿の陣が破られました」

 という知らせ。田尾和孝という家来の敷く陣は、ここよりそう遠くないどころか、目と鼻の先ではないか。

 いよいよ本陣に迫られようかというところまで、敵は来ている。

「よし引け」

 と、やっとその待ち焦がれた下知(命令)が飛んだ。だが。

「敵に背中を見せて走るな。ゆっくりとじわじわと、後ろに下がるのだ。逆らうものは斬る、よいな」

 という下知までも一緒に飛んだ。何故だと思いながらも、逆らえば斬ると言われれば、それに従うしかなく。常光の配下のものたちは、敵にも、主にも、ひそかな怨みを抱きながら下知に従うしかなかった。




第二章「あやめ(菖蒲)の旗」その二十七


 おかしい。

 輝虎は槍を振るい敵を打ち破りながら、そんなことを考えた。

 押しても押しても敵は動かない。頑強に壁のように立ちはだかり、前進を阻む。

 これは正直堪える。

 今まですこし強さを見せれば、すぐに敵は逃げ出したのに。それはなく。防戦一方ながらも、まるで足を地に植えつけているかのように、まさに壁のように立ち塞がるではないか。

 気がつけば味方を置いてけぼりにして、自分たちが一番前だ。この泥沼の中でもそれだけ強いということなのだろが、素直に喜べない。

 打ち破っても打ち破っても、果てがない。まるで無限回廊の中にさ迷いこんだような、虚無感と脱力感を感じずにはいられなかった。

 自身はもとより、家来たちや、実成ら同僚たちの疲労はいかばかりか。

 なのに、家成は仮の宿とする寺社にこもり。そこで号令を飛ばすばかり。家来だけに命を賭けさせて、自分は安全な場所にいる。

 主に不平不満を抱いてはいけないのだが、釈然としない。

―あのお方はそのようなお方であったか。―

 虎と恐れられたほどの猛将が、雨を嫌がって外に出ない。そんなことがかつてあっただろうか。いついかなるときも、悠然と騎乗にて家来たちを指揮し、鼓舞していたはずなのに。

 才木長久を破ってからというもの、なにかが変わりつつあるようだった。

「お、やっと引きはじめたか」

 十兵衛の声がする。十兵衛も敵の粘り強さにへきえきしていた、そこで敵が退却をはじめ、やっと勝機が見えてきた。輝虎と十兵衛のみならず、ここで戦っているものたち皆がそう思った。

 だが、しかし。

 おかしい。

 敵が引きはじめても、その違和感は変わらない。

 少しだけ壁が揺れた。でもそれだけで、壁が消えたわけではない。それどころか。

 知らずに手をつかまれて、引き摺り寄せられているような気がするのは、気のせいだろうか。

 これは、おかしい。おかしすぎる。

「待て、深追いをするな」

 思わず叫ぶ。十兵衛はそんな輝虎を珍しそうに見ている。いつもならここで勢いに任せて突っ込む主が、待てとは。

 十兵衛もまた、異変に気付いたようだ。

「輝虎殿。何をしておる」

 僚友の実成が追いつき、留まる輝虎のもとまで来る。

「実成殿、おかしいとは思わぬか」

「おかしい?」

「そうです。おかしい、何かがおかしい。あんなに粘っていたのが、とたんに引き始めた。それはよい。問題はその引き方です。まるで、手をつかんで引きずりこむような……」

「……?」

「それがしもよく言えないのですが、ここは深追いをせぬ方がよいのでは」

 よくわからぬが、輝虎がそう言うなら、そうしたほうがよさそうだ。ふとそう思いかけたが。そこでぶつけられる怒号。

「おぬしたち、そこで何をしておる。敵は引いておるぞ。なのになぜ追わぬ。追って完膚なきまでに叩こうとせぬのか」

 須木屋主水だった。主水もこのどしゃ降りの中に身を置いて戦ってはいたが、ずっと後ろの方で、前に着いてゆくだけだった。それが、敵の後退に気を良くして、やっと前に出てきたようだ。

「しかし、その引きようがおかしいのです」

「輝虎殿よ、臆したか、もったいなくもお屋形様よりおひい様をいただいた身でありながら。何故にこの機を自ら見逃そうとする」

「主水殿、言わんとすることはわかりますが。輝虎殿の言うことも一理あります。敵は戦上手といわれた綾山常光でござる、何か策があるのでは?」

 策、そうだ策だ。さっきから感じている違和感、それは相手がなんらかの策を構えているのではないかということ、それがあるのではないか。

 頑強に立ちはだかりながら、しかも手をつかんで引き摺り寄せるようなゆっくりとした退却。

 そこには、策というものがあるのではないか。もしこのまま進めば、その策にはまってしまうのではないか。

「ばかばかしい。それこそ臆病というものじゃ。いやよいのじゃ、そのことお屋形様にとくとお伝えするまでのことよ」

 主水の言葉が終わるか終わらぬかのところで、そばで聞き耳を立てていた十兵衛が、ずかずかと主水のもとまでゆこうとする。それを善景があわてて止める。

 そのあいだにも、敵はゆっくりと引いている。

 その時、雨がやみ、雲間から陽がのぞく。主水はそれを見逃さなかった。

「あれを見よ、ご神仏も行けと申しておるぞ。この吉兆にもかかわらず、それでも行かぬと申すのか」

 実成はこの天候の変わりようを、うらめしく思わずにはいられなかった。なんということだ、と。心の中でつぶやいた。




第二章「あやめ(菖蒲)の旗」その二十八

 

「見よ、空を見よ、ご神仏が我らを見守っておられるぞ」

 常光は采配を天にかざし、声高に叫んだ。そのあと、おお、という歓声。

 灰色の景色の中、雲間を貫き通す陽の光。

 雨も完全にやんだ。

「勝利は我らにありと、ここで中村家成の魔軍を破れと、ご神仏が申されておるぞ。臆するな、討たれたものの仇を討ちたくはないのか、ここで負けてなにもかもを中村家成に奪われてしまうのか。いやであろう。ならば戦うしかないのだと、そうご神仏は申されておるのだ」

 この天候の変わりようを常光は吉兆ととらえ、ゆっくりと引きながら、自軍を鼓舞する。家来たちとともに雨に打たれながら、采配を振るった甲斐があった。

 もし屋根のあるところでくつろぎながら自軍を指揮していれば、すぐにそのことに気付くことなかっただろう。

 家来たちは、常光の意をくんでくれたようで。あれは吉兆ぞと、皆が言葉をかわしあい。ひとたび落ちた戦意を取り戻す。

 天候の変わりよう一つで、こうまで人の心も変わるものか。

―ご神仏の加護は我にあるぞ。―

 という確信的なものが、常光自身にもこみあげてくる。

 やがて雑木林がみえてきた。ふと、まだ元服もせぬ幼い日に、この林やその周辺で遊んだころの記憶が頭をよぎる。だが今は懐かしさを噛み締めるようなゆとりは、ない。

 すかさず軍の大部分をその林の中に押し込め、自らはさきほどと同じ、わずかばかりの手勢とともに林のわきをゆっくりと、引く。

「殿、気は確かでござるか」

「ああ、確かだ。確かだからこそ、さ」

 と、主を気遣う家来に微笑みかける。さきほど大高輝虎に自陣を破られた田尾和孝だった。退却の下知のとき、ほうほうの体で常光のもとまで逃げてしまって。それをひどく気に病んでいるようだった。

 にもかかわらず、常光はとがめるどころか他の家来と同じようにこれからどうするのかを和孝に話してくれて。是非そのお役目をそれがしに、と何度繰り返したことか。だが、その役目は常光自身が引き受けるという。

「なに、一番良い方法をとっているだけのことさ」

「……」

 笑顔の主に、和孝はなにも言えなかった。

 そうすれば、勢いに乗った中村家成の『魔軍』が追いついてくるではないか。勢いに乗るといっても、雨がやみ陽がのぞくといっても、まだ足元はよくなく。皆徒歩立ちで追いかけてきている。

「それゆけ、綾山常光はあれにあるぞ、もう一息ぞ」

 と、主水は大股で駆けながら叫ぶ。

 輝虎はうるさそうにしながら、槍を握り締めて同じように駆けている。どしゃ降りのなかの戦いで疲労がたまりにたまっていたが、休むことも出来ない。それは、皆同じだった。

 ただひとり、主水だけが鼻息を荒くしている。

 疲れのせいか、ほとんどの者たちがただ身体の覚えている動きをしているに過ぎない状態で。そんな中では、警戒心も薄れてしまっていて。

 そのまま、雑木林のわきを通り過ぎようとしていた。

 常光は、やった、と叫びたいのを堪えて。采配を天にかざした。

 そうすれば、わっ、というときの声。

 今こそ『魔軍』を打ち破らんと、雑木林から吐き出されるようにして大勢の兵たちが群がり出て、中村家成の軍勢のわきを突いた。




第二章「あやめ(菖蒲)の旗」その二十九


「これは」

 という主水の声がしたあと、それからの主水の姿を見たものはなかった。

 あろうことか、進軍を強く主張した主水が突然の不意打ちにたまげて、真っ先に逃げ出してしまっていたのだ。

「ばかな」

 という、実成の言葉。あれだけ進軍を強く主張しながら、この様はどうであろうか。これこそ家成にとくと伝えて、責任を負うべきではないか。

 だが今はそれどころではない。

 ひっかかってしまったのだ。

 常光はみずからをおとりとして、敵をおびき寄せたのだ。そこまでは思い至らなかったが、案の定、策にまんまとひっかかってしまったのだ。

 綾山領内に深く入り込み、行く先に林があるなど知るわけもない。逆に、常光にはここら辺の地理は明るい。

 引きながら、引く先にある林に軍を潜ませて。自らをおとりとして、敵をひきつける。

 ひたすら常光を追うことばかりだったため、林に待ち伏せがあるかもしれないという警戒を怠り、その隙を突かれた。

「あの糞爺ぃ」

 十兵衛は叫びながら槍を振るう。だが、どれだけ叫んだところで意味など無く。

 迫り来る敵兵を槍で突く以外にすることはなかった。でも、それもいつまで続くことか。

 輝虎も槍を振るう。ひたすら敵兵を突く。

「よし、我らも行くぞ」

 という常光の声。家来たちは皆、歓声を上げて乱戦の中へと突っ込んでゆく。もう常光に抱いた怨嗟などなくなっている。それどころか、常光の策が当たったことに歓喜し、勝利を確信していた。

 形勢は一気に逆転した。いや、最初からそうなる手はずだった。

「主水などのばかさと無恥のために」

 輝虎は主水をののしったが、どうしようもない。

 いやな予感は当たった、それも最悪のかたちで。だからといって、自分たちまでが無様に逃げられようか。

「踏みとどまれ。踏みとどまって、戦うのだ」

 と、槍を振るい戦った。

 だがその声も、刀槍の弾く音や叫び声に掻き消されて。どのくらいまで届いていることやら。もはや四方が敵である。

 逃げたところで、逃げ切れるかどうか。

―こんなことで、死ぬのか。―

 戦いながら、やり切れぬ思いがこみあげてくる。

―お雪……。―

 先日、死ねぬと思った。おれが死ねばどうなる、それを思うと、死ねぬと思わずにはいられなかった。それが、今はどうか。

「あっ」

 という、聞き覚えのある声がした。それは善景であった。見れば、足に槍が刺さっているではないか。

「善景!!」

 輝虎は慌てて駆け寄り、善景の足を突いたものを、突き返す。だが足を突かれた善景は立つことも出来ず、尻餅をついてしまった。その間にも、敵は続々と迫り首を狙ってくる。

「殿、それがしのことは捨ておいてくだされ。でなければ殿が」

「馬鹿なことを申すな、おぬしには子が生まれるではないか!」

「しかし」

「生きて帰って、子の顔を見たくはないのか。八重を、子を腹に宿したまま後家にしたいのか」

「……」

 善景はなにも言えなかった。

 己の弱さはよく知っているが、その弱さのため、主に手をかけさせようとは。それだけではない、妻と子のことを気にかけてまでいてくれようとは。

「お雪が子を産めば、おぬしから父としての心得を学ばねばならぬ。それまで死ぬことは許さん」

 足の痛みを感じながら、善景の目に涙が浮かぶ。輝虎の、家来を想う気持ちは嬉しいが。

 しかし、この有様では。

 迫り来る敵を、善景をかばいながら槍で突き倒すも、現実問題としていつまでもつのか。

 そんな輝虎の姿を見て、善景はそっと脇差を抜いて。

 己の首を突いた。




第二章「あやめ(菖蒲)の旗」その三十


 戦いながら輝虎が目にしたものは。己の喉を脇差で突いて、息絶えた善景であった。

「善景!!」

 我知らず叫んだ。しかし、駆け寄ることも出来ず、ひたすら槍を振るうことしか出来なかった。

―ばかな、なぜそんなことを。― 

 こうして守っていたのに。

 足手まといになるのを嫌がったのか、そんなことなどちっとも思っていないのに。ほんとうに、善景から父としての心得を学ぼうと思っていたのに。

 目に涙が浮かび、視界がかすむ。

 こんなばかばかしいことのために、大事な家来を失うことになろうとは。

 なにがご神仏なものか、あれは天魔が我らを誘い出していたのではないか。

 だが、どうしたところで善景が生き返るわけでも無く。こうなった以上は、彼の遺志を酌むしかないだろう。

 その時。

「そこにおわすは大高輝虎殿とお見受けするが、いかがか」

 と、呼ぶ声。それは田尾和孝だった。

 輝虎に陣を破られ、そのことに自責の念をもっていた和孝は、汚名返上と輝虎を捜し求め。ついにそれらしき若武者を見つけ出したのだ。

 歯を食いしばって、己を呼ぶ声に振り向く。槍を持った武者がひとり、輝虎に突っかかってくる。

「その通り、大高輝虎である。我が首を取って手柄を立てたいと申すか」

「左様」

 その言葉が終わるか終わらぬかのあいだに、和孝の槍が突き出され。輝虎はそれをすんでのところで、己の槍で払いのける。

 それから、激しい槍での打ち合いとなった。

 上から、右から、左から、隙あらばすかさずと槍の穂先を振りかざして打ち出し。そのたびにとめられ、かえされ。

 この乱戦の中はじまった一騎打ちに、気がつけば周りのものは皆戦いの手を休め、両将の勝敗の行方を見守っていた。

 異変に気付いた実成は、敵を切り伏せながらその方へと行く。そうすれば、輝虎が誰かと一騎打ちをしているではないか。

「て、……」

 輝虎殿と呼びかけて、とめた。その輝虎の形相に怖気おぞけを感じたのだ、のみならず、どうしてそうなのか。それは、かたわらにある善景とかいう家来の遺体を見てわかった。

―哀れなるかな、このようなことで果てようとは。―

 と、密かに胸のうちで追悼の意を表し、他のものとともに一騎打ちを見守ろうとすれば。向こう側に、善景のもとへと行こうとする年老いた武者を、必死になって後ろから羽交い絞めにしてとめる若い武者の姿があった。

―あれは、晴景に、十兵衛か。―

 晴景は哀れになるくらい狼狽している。十兵衛が必死に止めているにもかかわらず、死んだ息子のもとへ行くためそれをなんとか振りほどこうとしていた。

「善景、善景、善景」

 と、涙と鼻水をたらしながら何度も息子の名を呼んでいる。だが若い十兵衛に後ろから羽交い絞めにされて、動けない。

「落ち着かれよ、落ち着かれよ。今行ってもどうにもならぬ、せめて一騎打ちが終わってからにしなされ」

 十兵衛は必死に止めている。晴景の哀しみがわからないわけではない、十兵衛も、初陣の折父を亡くしている。父も、同僚の善景も、輝虎のために死んだのだ。

 晴景をとめながらも、涙が流れ落ちるのをとめられなかった。 

 そうこうしているうちに、輝虎と和孝の周りを人が囲んで。その周辺のみ、休戦状態となって。ひと打ちのたびに、おお、という声が上がる。

 そして、ひと際大きな歓声。

 和孝はその巧みな槍さばきで、輝虎の槍を弾き飛ばしたのだ。

「いかん」

 実成は思わず叫んでしまった。

 すかさず和孝は槍を構えなおし、とどめを刺すためのひと突きを繰り出す。

 槍を弾き飛ばされ無手になってしまった輝虎は、和孝ではなくその槍を見据え。

 上手く身をかわし、その長柄をひっつかむ。

「むっ」

 悪あがきを、と思いながらつかまれた槍を力任せに戻そうとすれば。輝虎は足を踏みしめ引かれるほうへと、つかんだ槍を押した。

 てっきり槍を奪おうとして力任せに引っ張るものと思い込んでいた和孝は、突然のことにバランスを崩し。すかさず輝虎は槍を放し、バランスを崩した和孝の胸元へと飛び込みながら、太刀を抜き。その太刀を振り上げる。

 和孝は後ろへと転びそうになりながら、振り上げられた太刀を見上げた。それが、最後に見たものだった。太刀の向こう、空を覆う灰色の雲が流れて、その雲間からお天道様が顔を覗かせていた。

 それから、輝虎の太刀は、和孝の兜を割り。さらにそのあごまでを割った。


続く

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