悪役令嬢計画
「おはようございます。お嬢様。といってももう夜ですが。」
外を見ると月がキラキラと光輝く。
「‥ぁメアリー。そう、私また寝てしまったのね」
いくら幼い頃に戻ったとはいえさすがに眠りすぎだろう。
「本日の講座は体調不良としておきました。」
「そう、ありがとう。」
私は殿下の妃として色々なことを学んだ。でも講座を休むだなんて初めてだった。死ぬ前の私なら一日でも早く彼の側に立てるようにしたかったから。
「‥それで、何があったのですか」
ギロリと死んだ目で睨まれる。
「‥‥何って?」
思い当たる節しかないけれど、いきなり全て説明するのは混乱を招く。だから今ここで言うのは得策じゃな‥
「死に戻ったんだよ、ローズは」
何処からともなく爆弾発言が落とされた。
「なっ‥あ、アル!」
「やぁローズ、また会えたね」
にこりと少年は微笑む。
「あ、のね、メアリーこれは‥」
メアリーは目を見開き、静かに口を開いた。
「お久しぶりです、お嬢様の悪魔様。」
ペコリと礼をする。
「あぁ、君はローズのメイドか。うん、久しぶりだね。」
「‥二人は知り合いなの?」
良くわからない状況でおいていかれるのはしんどい。
「んーまぁそうだね。」
「そ、そう、」
「そんなことよりお嬢様。」
「ソンナコトヨリ‥」
私的には二人が知り合いなことについてもう少し知りたいけど‥
「死に戻った‥とはどういうことなんですか。」
じっと目を見つめられる。
月明かりに照らされたメアリーの瞳は紫色に光輝いていた。
「あ、のね。それは‥」
言うべきなのだろうか。自分が死ぬ前のことを。
メアリーを助けられなかったことを。
そして私は今から悪役として生きていくことを。
「‥‥お嬢様。」
そっと手を握られる。
「私は貴女の味方です。どんなことがあろうとも、この命、貴女に捧げるためにございますので。」
「そうだよ、ローズ。僕も君の味方なんだ。きっと、まだまだ君の味方は増える。君は優しくて強い子だから。」
二人に手を取られ真剣な瞳で見つめられる。
「‥っありがとう、二人とも。」
勇気を出して話をする。
「聞いてくれる、メアリー。私の話を。」
コクりとメアリーが頷くのを確認してゆっくりと話す。
‥‥私のかつての物語を。
「左様‥でしたか。」
全て話すとメアリーは優しく背中を擦ってくれた。
アルは頭を撫でてくれて、すごく安心した。
「‥‥それで、お嬢様は悪役になりたいのですか?」
改めて言われると変な感じがする。
「‥そう、ね。うん。そう。私は悪役になる。オリビアの物語にとって危険でしかない存在に、王子にとって無視できない存在に‥。そして彼らの物語をぐちゃぐちゃにしてやるの。それでね、言ってやりたいの。」
にこりと微笑みながら言う。
「私は悪役令嬢だから、加減を知らないの。ごめんなさいね。って」
あの人たちが作った悪役の私。
そのシナリオ通りに私は悪役になってあげる。
そしてあの人たちのせいで人生が狂った人の分まで私が復讐する。
「‥お嬢様。ならば、私は何処までもお供します。」
「‥!ありがとうメアリー。それじゃあ題して
『悪役令嬢の復讐劇』を完成させましょう!」
ビシッと光輝く月を指差してみる。
「結構そのまんまだねローズ。」
「‥‥別にいいでしょう。それより、気になったのだけどアルも死に戻りをしたの?」
ピクリとアルの動きが一瞬止まったように見えた。
「‥まぁ、ね、というか僕のことはいいの!」
「‥そ、そう。‥‥ねぇアル、貴方は私の味方よね。」
なんだか話をそらされてしまった。その話はしたくないのだろう。だから追求はやめることにした。
そして今一度確認をする。
「‥もちろん、ローズのお望みとあらば。」
手の甲にキスを落とされる。
「なっ」
「‥僕の命が終わる日まで。」
「‥?なんてアル?」
余りに小さな声で言うものだから聞き取ることが出来なかった。
「ううん、何でもないよ!それより、ローズこれからの計画を教えてくれない?」
「‥計画‥えぇそうね。じゃあ私の悪役計画、聞いてくれるかしら。」
にこりと微笑む。
「さすがローズ。完璧なシナリオだ。」
パチパチとアルは拍手をする。
「えぇ、さすがです。お嬢様。」
そう言いながらメアリーは先程アルが唇を落とした私の手の甲を布で擦り続ける。
‥ちょっと手の甲が熱くなってきた。
「‥あ、ありがとう二人とも。」
私が考えたシナリオ。大体でまとめると
1・悪役令嬢としての演技に磨きをかける
彼らの目を欺くためそれなりの演技は必要だ。
2・味方を増やす
味方をつけておけば自分の役が作りやすい。
3・力をつける
悪役たるもの自分で戦う力がないといけない。
4・商会を取り戻す
弟一家に好きにはさせない。ただでさえ彼らが商会を持ってから商会の株は下がっているのだから。
5・彼らの望む悪役を目指す
これが1番大事。物語を進めるためには彼らにとって悪役は必須だ
こんな感じ。
「‥だからまずすることは‥」
「お嬢様。」
メアリーが挙手をして言う。
「私はまず、西の国にいるエルフとの取引で、関係を良好に。あわよくば味方につけるのがよろしいと思います。彼らは情報能力に長けているのできっと役に立つかと。」
「西の‥」
弟一家が商会を引き継いでから父の商会の地位は下がり続けている。その中でも今すぐに縁を切られそうなのはエルフである。
‥しかしエルフと縁を切るのはまずい。
これは直感ではなく実際に私が未来で体験したある事実に基づくものだ。
「‥えぇそうね。それがいいわ。」
第一の目標。
エルフとの取引。
「‥悪役令嬢としての第一歩よ。」
そう私が言うとメアリーとアルはコクりと頷いた。