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メイドのメアリー

「ローズ様!起きていらっしゃるのでしょう!扉に鍵をかけるなどどういうおつもりですか!すぐにお空けになって下さい!!」

‥少し寝てしまったらしい。ドンドンと扉を叩く音が部屋に響く。

「‥すぐ開けるわ」

仕方がないと扉の鍵を開ける。その途端バタンと音を立て扉が勢い良く開かれる。

「侍女である私を閉め出すなど何事ですか!!!」

怒り狂っているのだろう、青筋を立て顔を真っ赤にして女は叫ぶ。

「‥スート。さっきの話もう忘れたのかしら?」

女はびくりと肩を震わすがすぐに平気な顔をして見せる。

「‥っ申し訳ありませんローズ様。至急、貴女に知らせたいことがございまして。」

ニタリと女は笑う。

「貴女がお屋敷から連れてきたメアリーとか言う女はあなた様に嫌気が差したとかで‥つい先程屋敷へ戻ってしまいました。」

「‥‥メアリーが‥?」

「えぇ、そうです。貴女様から離れたかったのでしょう。貴女はすごくあの女を気に入っておられましたがあちらはそうは思ってなかったご様子。しかし‥‥」

スートは楽しそうに話す。

「貴女がもっと力をつけ妃としてふさわしくなればあの女も自分が犯した過ちに気付き、戻ってくるかも知れませんね」

‥‥前の私にも同じ様なこと言った。

弟一家に奴隷のように扱われてもメアリーだけは私を守ろうとしてくれた。彼女は私の味方だった。

‥彼女に帰ってきてほしかった。私が王子の妃となればまた彼女に会えると、そう言われた。だから、

「‥‥結局帰っては来なかったけれど。」

ボソリと呟く。私は彼女を信じるべきだったのだ。

彼女は私の味方だと。そうすれば彼女が死ぬことはなかったんだから。

「‥‥そう、スートわかったわ。」

そう言うとスートは嬉しそうに目を輝かせた。

「えぇ!そうですよローズ様!貴女はとにかく我々に従っていればいいのです!きっと、素敵な妃になれますよ!」

(計画通り‥‥とでも思っているのでしょうね。)

私を手元に置いておけば勝手に利益は生まれてくる。まさに道具だ。それをわかっていても私は大人しく言うことを聞いていた。

でもそれは死ぬ前の話。今の私は悪役なんだから。

「メアリーを呼び戻して頂戴。」

「‥‥は、今なんと‥?」

予想外のことを言われたからか、スートは間抜けな顔をさらし、そう一言言うことしかできなかった。

「‥二度も言わせないで。ここにメアリーを呼べと言っているの。私のメイドが自分勝手な行動をするなんて、主として注意しなくてはいけないでしょう?」

にこりと笑って見せる。





「お呼びですか、お嬢様」

‥‥これは生きていると判断していいのか。

そう思うほどに目が死んでいるが、思い出してみればこれが彼女のアイデンティティであったような気もする。綺麗な白い髪は肩まで伸ばされていてさらさらと揺れる

‥‥目は死んでいるが。

まぁそんなことは置いておいて‥‥

「メアリー。私をおいて屋敷へ帰るとはどういうことなのかしら。」

スートに言って二人きりにしてもらった為、部屋はひどく静かだ。だからこそ‥だ。

(‥なぜ無言なのメアリー!)

一言それは違うと言えばいいはずなのに。部屋は沈黙に包まれ、居たたまれない。

‥まさか、本当に私が嫌になったのか。

そんな考えが頭をよぎる。

「‥お嬢様」

突然、メアリーが口を開く。

「私はお嬢様のメイドです。」

「???ぇ‥ええ、そうね」

急に当たり前のことを言われるのだから返事に少し戸惑った。

「お嬢様のメイドである私はお嬢様のお側を離れることはございません。大方あの女に何か言われたのでしょうが全て戯れ言でごさいましょう。無視しましょう。えぇそうしましょう。」

「‥そう、ね。」

後半勢いがすごかったがそれは置いておくとしよう。


「‥‥お嬢様に私は必要でございますか」

ポツリと呟く。

「え、何を言って‥‥」

「先程、侍女長の女に言われました。お嬢様は私が気に入らないので、お屋敷に戻すと。」

‥‥は?あの女、言っていることがまるっきり違う。あんな女に踊らされていたのかと苛立ちを隠しきれなかった。

「そんなわけない、必要に決まっているわ!いいえ違うわね、貴女に側にいて欲しいの、メアリー。」

一世一代の告白のように言う。

「強制じゃない、貴女に命令もしない。これは私のわがままだわ。」

失いたくない。小さな頃から私の側にいてくれた大切な人だ。


(「数年前、貴女の世話をしていたメイド、メアリー‥だったかしら?‥四肢をもいで殺したのは貴女でしょう?」」)


メアリーは死ぬ。私のせいで。

自然と涙が溢れる。

「‥‥お嬢様‥?」

「ごめんなさい、メアリー。」

ポスリと頭に手が置かれ、それが優しく動く。子供をなだめるように。丁寧に優しく。温かった。

「私はお嬢様のメイドです。なので、お側にいたいです。これからも。」

メアリーにとってこれが呪いになってしまったかもしれない。

私のわがままで彼女をメイドとして縛り付けてしまったかもしれない。

「ごめんねメアリー。貴女の、運命を‥変えてしまって‥」

言葉を紡いでいくがだんだんと意識が遠退いていく。

体はまだ幼いからか、突然の睡魔に襲われた。

「‥‥死なない‥で‥」

もう誰も傷ついてほしくない。





すぅすぅと寝息を立てて寝ている。

「お嬢様‥」

ゆっくりと頭を撫でる。

貴女はきっと覚えていない。

でも私が今生きているのは貴女のお陰なんです。

だから私は貴女の為なら。

「この命を貴女に捧げます。」

業を背負うには余りに幼過ぎますよ。ローズ様。

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