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愛の呪い

パーティー会場が静まり返る。

「それはどういう‥」

私が口を開くや否や彼女は声高に叫ぶ。

「今この場においてわたくしオリビア・ビューランドは南の国第一王子のエリック様と婚約のお知らせを致しますわ!」

会場がざわざわとうるさくなる。そして所々から不審がる声が聞こえた。それはそうだ。突然婚約破棄した上、妹であるオリビアを妃として迎え入れるのだから。

あちこちから不安と揺らぎの声がする。

「っ‥オリビア、君‥」

王子が焦ったようにオリビアをなだめる。でも彼女はこの程度どうってことないという顔でにこりと笑って私に近づく。

「‥ねぇお姉様。ずっとずっと大嫌いよ。」

ふわりと淡い光がオリビアに纏う。

『貴女に口を開く権利はないわ。』

そう呟く彼女の笑顔は花のように可憐で綺麗だった。

彼女はまた声高に叫ぶ。

「そしてこの場においてわたくしから一つ、皆様にお話したいことがござます。わたくしの姉ローズは‥‥大罪人ですわ!」

突然何を言うのかと目を丸くする。そしてキッと睨み付ける。

「まぁ、怖いっ!皆様、お姉様の瞳をご覧になって‥悪魔に愛された深紅の瞳‥一体その力で何人の人を殺めたのかしら‥」

「何を‥」

戯れ言を‥と口を開こうとするが口が動かない。 これは‥‥

(‥まさか魔法‥‥?!)

彼女はニタリと笑う。

「わたくしオリビアがこの悪魔を断罪致しましょう!」

青色の瞳はキラキラと揺れる。

「まず始めに‥貴女は自分が殺めた人数を覚えていらっしゃるの?」

心臓がどくりと音を立てる。

違う、私のせいじゃないと、必死に取り繕う。

私は幼い頃から自問自答を繰り返していた。

母を殺したのは私だ。私さえいなければ、父と母は今でも笑いあっていただろうに。そんな自負はいつからか呪いに変わった。


お前のせいだ。お前のせいで死んだ。何もかもお前のせいだ。何で生きてる?なぜ生きようとする?

いつもいつも声が聞こえる。そしていつも死のうとすると、優しい声がするのだ。

『君のせいじゃない。お願い生きて。』と。

悪魔に愛されてるはずなのに天使のように優しく甘い言葉を紡がれる。そして私はいつも生きることに決めてしまう。下らない人生だと思いながらも。


ふわりとなぜか魔法が解た。私は口を開く。

「‥‥ろしてない。」

「‥‥っ、何で喋れてっ」

「私はっ‥誰も殺してなんかないっ!」

ギラギラと赤い瞳が揺れ動く。

青い瞳は大きく見開かれその後、静かに細められた。

「嘘つきね、お姉様。」

彼女はすぅと息を吸い込んで大声で告げる。

「まぁなんて恐ろしいの!もはや自分が殺した人数を数えられないほど殺しているだなんて!!

ねぇお姉様最近王都でおこる行方不明事件はご存知?いや、知らないはずないわよねぇ?だって貴女が犯人だもの!」

「っ何を!」

「それだけじゃない!この人は自分のメイドを殺し、実の父さえ手にかけた女なのです!」

‥今、この女はなんと言った?

「メイド‥?父‥?なんでっどういう」

オリビアは哀れむような視線を向ける。

「また嘘をつくのですねお姉様。

数年前、貴女の世話をしていたメイド、メアリー‥だったかしら?‥四肢をもいで殺したのは貴女でしょう?」

何を‥何の話を‥だってだって彼女は私が嫌になったから出ていったのでしょう?

嫌に冷えた汗が頬を伝う。

「それに貴女の実の父親‥‥あの人は北の国の魔法長にまで上り詰めたの。そんな彼が自分の脅威になることを恐れて殺すだなんて。」

‥‥死んだ‥?父もメアリーも全員?どうして。

自分にふりかかっている容疑より死の知らせの方がショックだった。

「ふふっ‥反論なんてできないでしょう?お姉様。だってぜーんぶ貴女のせいですものね?」


あぁ‥‥そうだ、私のせいだ。私が生きてるから、呪われてるから、皆死んじゃう。

私さえいなければ‥‥


オリビアを守るように囲む騎士の腰には剣がかけられている。騎士に向けゆっくりと手を伸ばし魔法をかける。

『‥拘束。』

地面からゆるりと影が飛び出し、騎士達の体を縛り付ける。

「っな‥!なにをっお姉様!」

そしてスルリと騎士から剣を奪い取り、眺める。

‥死んだら全部終わり。だから、

そっと首に剣を当てる。

‥‥来世は誰も不幸にしませんように。

ぐっと手に力を込める。

その瞬間ふわり、と薔薇の香りが辺りに漂う

「だめだよ、ローズ。」

ワインのように深く赤瞳の少年と目が合う。

9歳ほどの見た目とは裏腹にとてつもない威圧を感じる。

「‥貴方は?」

少年はニコリと笑い、その口元から鋭い歯を除かせた。

「‥ねぇ君たちがローズをいじめたの?」

少年は問う。

その時会場は呼吸ができないほどの静寂と凍てつくほどの寒さで包まれた。

「‥僕の愛し子を、僕のローズを?

      ‥君らごときが?」

少年はいくつもの黒い塊を作り先を尖らせオリビア達の方へ向けた。

「‥痴れ者どもが、あの世で後悔しろ。」

少年が手を振りかざす瞬間、

「っやめて!!!!」

自分でも信じられないほどの大声が出て喉を痛めた。

「っけほ‥‥もう、やめて、」

「っなんで!僕はローズのためにっ!」

「貴方、私の悪魔なんでしょ‥?」

少年は目を見開き、ばつが悪そうに頭をかいた。

「‥‥うん。僕は君に祝福をあげた。」

‥なにが祝福だ、なにが愛しただ。

「‥もういい、はやくどこかにいって、私なんて放っておいてよ。」

そう言うと悪魔は今にも泣きそうな声で言う。

「ごめん、僕のことは嫌いでいていいから、だから守らせてよ。君のこと。」


あぁこの人はどこまでいっても悪魔だ。自己中心的で下らない思想を持っているのだろう。

「‥‥それでも。私は‥‥もういいわ。どっか行って。二度と、私に貴方の顔を見せないで。」

「‥‥」

少年は優しい笑みを浮かべそれから私の頬を撫でて言った。

「‥愛してしまってごめんね。」

その瞬間会場中の圧がなくなり、騎士もオリビアも自由に動けるようになった。

ただ一人、私だけがその場にうずくまることしか出来なかった。


あの囁きは自分を助けるものではない。

自分をこの世に縛り付ける呪いだ。

小さく鼻で笑う。


「っ!はやくこの女を捕えなさい!!!何をしてるの!はやく!」

オリビアが狂ったように叫ぶ。そして手に魔法抑制の枷をつけられる。大人数で床に押さえつけられ肺が圧迫し呼吸がうまくできない。

だんだんと意識が遠退いていく中、私は安堵した。

これであの少年が捕まることはない。と。

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