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はじめまして

「おかえり、ローズ。」

「‥ただいま戻りました、エリック様。」

何処か虚ろな瞳。瞳に私は写ってない。

正直あんな出ていきかたをしたものだから少し気まずい。

それにさっきの話を聞いたら尚更‥

「‥ローズ。」

「っはい‥!」

殿下の手が肩にそっと触れる。

考え事をしていたものだから思わず過剰に反応して肩が大きくはねた。

すると殿下の口は緩やかに弧を描く。

見たこともない、何処か怖さを感じる笑顔、

「‥エリック‥様‥?」

「‥君は一度、東に帰った方がいい。君の家族も心配してる。‥‥そう、陛下から君に伝えろと言われたんだ。」

カタコトな言葉が紡がれるにつれだんだんと笑顔が崩れて今にも泣いてしまいそうな幼い顔が現れる。

「‥‥え、あの」

「ローズ、僕、は‥」

ぎりっと肩に置かれた手に力が込められる。

「っ‥‥ど、どうされたのですか?殿下‥‥?」

ぴくりと殿下は反応し、力を緩める。

次に見た彼の顔は昔のように優しく笑顔だった。

「‥‥ごめん。もう、大丈夫。」




つい最近聞いた。

僕の母が死んだこと。

病気だったと。

そして一人残された彼は今も北の国で生きていること。

ほんとはローズに行ってほしくなかった。

きっとローズも彼を好きになる。

何もない僕より、何もかもある彼の方がずっといい。

でもね、ローズ僕は君じゃないと駄目だったんだ。

エリック・オルモードが唯一エリックでいられるのはもう、ローズの前だけだったんだ。

「『殿下‥?』」

ねぇ、ローズお願い。僕を殿下と呼ばないで。

僕を僕のままでいさせて。

君だけなんだ。君だけが、僕をエリックでいさせてくれる。僕は、僕は



淡い光がエリックを包む。


‥‥‥‥僕は誰だっけ。

「『殿下。』」

優しい声が聞こえる。

あぁ、そうだ、僕はこの国の王になるんだ。

「『殿下、愛しています』」

‥‥そうだね、ぼくも君を愛しているよ。








「戻りたくないわ。」

だって東には私をさんざんいじめた弟一家がいる。

「‥‥それはそうですが、お嬢様、陛下の命ですので無視するわけには」

「分かってるわよ」

正直、殿下の様子が気になる。

それにこのタイミングで帰らせるのはどこか怪しい。

それにしても、彼らしくないカタコトの物言い。まるで、そう、まるで‥‥

「あ」

ぁぁぁぁぁぁ!!!

そうだ、私がもう一人‥‥、一匹‥?味方にしたい人がいる!

「不味い、時間がないかもしれない‥‥!メアリー急いで東に行くわ!!」

「はい、お嬢様。」


死に戻りの前、出会った彼。

「まっててノア、貴方をオリビアに買わせたりしないわ‥‥っ!」


またゴトゴトと揺れ動く馬車に体を預ける。

正直馬車は体を痛めそうであまり好きではないのだが‥‥

小型の魔法具を取り出し問いかける。

「‥‥エルマーさん、今お時間大丈夫ですか?」

「『‥ええ、‥ロー、ズ様大丈夫ですよ。』」

良かったちゃんと繋がった。

エルマーさん達エルフは情報能力に長けている。

伊達に長生きしていない。大抵のことなら何でもわかる。それが情報通のエルフなのだ。

「‥‥東の国で人身売買が行われているはずなんです。私はそこでまた一人味方を増やしたい。」

そう言うとメアリーがじろりとこちらをにらむ。

「‥‥この人は‥‥いったいどれだけの人をたぶらかすおつもりで‥」

ぶつぶつと何かを言っているが今は無視だ。

「『‥人身売買ですか‥近年の人身売買では私達エルフや獣人などといった者も犠牲になっています。‥今年何人かの同胞が消えました。しかし十分な証拠がない上、私達が行っても商品が自ら出向くようなもの。彼らを人質に取られてしまえば我々は身動きがとれません。‥‥ローズ様。私が知ってる拠点をお教えしましょう。‥そして出来れば、私達の同胞を助けてくれませんか‥‥?』」

「‥‥!勿論よ、エルマーさん!私が出来ることなら必ず。」

元々私はノアを助け出しに行くのだし、もういっそ全員助けましょう!!

ぐっと胸の辺りで握りこぶしを作る。

するとメアリーは不満そうに口を開く。

「‥私は反対です。そのような危険なことお嬢様にさせるわけにはいきません。」

「‥メアリー?」

人身売買‥その単語を聞いたときからメアリーの様子が可笑しい。

「‥‥メアリー、大丈夫よ。でももしもの時は私のこと守ってくれる?」

「‥‥‥承知いたしました」

‥うーん不満そうだな‥



『ある酒場のマスターにこう言ってください。  

「この店以外から取り寄せた特上のワインを一つ。今夜月が落ちる頃に。」

言われたおりに言うとマスターは驚いたように目を見開いたがすぐにコクりと頷き案内してくれた。

酒場の地下。

とても広い空間が広がる。

「ようこそおいでくださいました。」

仮面の男が愉快そうに告げる。

いかにも、という感じだ。

こんな子供でもすんなり通してくれる。

そもそも合言葉を知っている時点でお客様である。

年齢というのは彼らには関係のないことなのだろう。

「この会場ではお客様がたには仮面を被っていただきます。」

すっと赤色の仮面が渡される。

身バレ防止のためなのか、目元のみを覆い隠す仮面だ。

「‥どうも。メアリー行くわよ。‥‥メアリー??」

メアリーの顔色が悪い。胸の辺りに仮面を抱き止めている。

「メアリー‥‥?どうしたの?」

「‥‥?‥‥!あなた、もしかしてっ‥」

仮面の男が驚いたように言う。

「‥!行きましょう、お嬢様。」

メアリーは強引に私の手を引っ張る。

「っメアリー‥‥!?」



「‥‥あれは」

8年前。このオークション会場最高額で売れたはずの奴隷。紫色の瞳。どこかけだるけな表情。

そしてあの魔力‥‥!

「‥‥見つけた‥っ!ついに見つけた‥‥!

生き残りは他にいないと言われる伝説の種族‥!

‥‥『鬼神族』‥!!」



「メアリー。」

止まることなくメアリーは進む。

「‥‥メアリー。」

今度は声のトーンを落とし、問いかける。

ピタリとメアリーが止まる。

「‥‥お嬢様‥‥わた、しは‥」

気まずそうにこちらを見る。

「いいわ、何も言わなくて。メアリーが話したいって思えたら、その時でいい。」

そう言うとメアリーはゆっくりと頷いた。

その時。




「あれぇ、もしかしてお姉様??」

冷汗が流れ落ちるのを感じる。

「‥オリビア‥」

そうだ。五年前オリビアはノアを買ったと言っていた。

この場にいても可笑しいことではない。

逆に言えば今日この日ノアは買われるのだろう。


運がいいのか、悪いのか。


「お姉様、元気にしてましたぁ?」

ホワホワとした口調。

オリビアは静かに仮面をはずす。

そして、青色の瞳と目が合う。

‥‥彼女はこの時もう既に天使の祝福を受けたんだ。

「‥‥貴女、その目‥」

「あっ、気づいちゃいました?そうなんです、オリビア、天使様に愛されたんです。すごく驚きましたぁ。」

キラキラと瞳が揺れる。

「‥お姉様の瞳。良く見せて下さい。」

そっとオリビアの手が私のアゴを掴む。

ぐいっと寄せられ鼻と鼻が触れそうな距離。

「っオリビア‥?」

そろりと仮面が外される。

オリビアはふわりと笑う。


「‥‥やっぱり、君は青色の方が似合うよ。」

目の前の相手からは想像ができないほど静かな低音が聞こえた。


瞳に手がゆるりと伸ばされる。

その瞬間。

ドンと音がして、オリビアが吹っ飛ぶ。

赤い目をギラつかせて唸るように言う。

「‥‥君ホントにこりないね。メアリー、ローズを連れてにげてくれない?」

「っアル‥‥!」

はっとしたように手が握られる。

「‥‥はい。お嬢様、逃げましょう‥‥!あれはっ‥」



言葉が途切れた。


私の目の前からメアリーが消えた。


少し遅れてまた鈍い音がする。


そろりと右を見ると血だらけのメアリーが倒れている。

「‥メ、アリー?」

ぐったりとして動かないメアリー。

「あーあ、また邪魔が入る。ほんとこのメイドもこいつも邪魔だなぁ」

ぐいぐいと足で何かをいじるオリビア。

(‥‥!あれ、は、)

「っアル‥‥!??」

血だらけのアルが倒れていた。

意識を失ったようでピクリともしない。

(あれは‥‥あんなのはオリビアじゃない‥!)

オリビアらしきものは淡々と話す。

コツコツと足音が近づく。

「‥あなた、誰。オリビアじゃないわね。」

そう言うとオリビアの様なものは嬉しそうに微笑む。

「‥ご名答!オレっちはオリビアじゃない。」

パチンと指を鳴らすとパタリとオリビアが倒れる。

「オレっちはランポ。人間が良く言う所の天使さ。」

オリビアの後ろから現れた男。

17才くらいだろうか‥

金髪の長髪を後ろで束ね、青い瞳を輝かせる。

チリンと耳元の鈴が鳴り、人の良さそうな笑みを浮かべる。

「‥ローズ、その身体オレっちにちょーだい?」


そしてアルの話を思い出す。

そうだ天使が死ぬための条件。

『愛するものの体で死ぬ。』

閃く。

こいつはオリビアの身体で死ぬつもりだ。

「‥させない。私の物語に途中退場は許せないわ。」

「‥?なにいってんの?」

『‥‥拘束‥!』

黒い影が天使の体を拘束する。

「‥ふーん、オレっちと殺ろうっての?」

青い瞳が弧を描く。

その瞬間背中に衝撃が走り、呼吸器が悲鳴を上げた。

「っがは‥な‥」

気がついたら私は天使に床に縫い付けられるように首と手を押さえつけられていた。

それに馬乗りになられているせいで全く動けない。

「かぁわいい。ローズ」

だんだんと首元の手に力が込められている。

反抗するように声を絞り出した。

「貴方‥‥オリビアの体で死ぬつもりなんでしょ?」

ピタリと天使の動きが止まる。


やっぱりそうだ。


「‥私がオリビアを殺してしまったら、貴方は死ぬ術が失くなるものね。‥‥だからメアリーもアルも傷付けたの‥‥?」

そんなのは許さない。

大切な人を傷付けたこと、後悔させてやる‥!

「っはは!!なにそれ!やっぱローズって面白い子だねぇ‥‥!」

首から離された手がそろりと頬を撫でる。

「‥オレっちが欲しいのはローズだよ。‥それ以外、何も要らない。ねぇローズ、オレっちのものになってよ。」

再び瞳に手が伸ばされる。

「っやめ‥!」

馬乗りになられているので全く動けない。

「っ、アル‥‥!アル助けて!!」

懸命にアルの名を叫ぶ。

依然、アルは地面に伏したままだ。

‥‥やっぱり、私は弱いのだと痛感する。

「っはなして、離してよっ!!」


「‥‥触るな。僕の愛し子だ。」


地を這うような声が響く。

「っアルっ!」

良かった目が覚めたんだ。

そうほっとしたのもつかの間。


アルの瞳を見て息を飲む。


‥‥あれは本当にアルなの?

血だらけで殺意しかない瞳。

飢えた獣のような風体。

「‥‥あ‥る‥‥?」


「‥‥あれれ、もう起きちゃった?‥可笑しいなぁ、オレっち結構本気で殴ったんだけど‥ま、いいや、もっかい死んどこ?悪魔くん?」

にたりと笑うと天使はおもむろに手を伸ばす。

『貫け‥!』

キラキラと光るツタがアル目掛けてもうスピードで伸びていく。

「っアル!逃げ‥‥!」

びしゃり。

床は真っ赤に染まった。

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