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北と私とお父様

私の顔に青筋が浮かぶのがわかる。

「‥何故とお聞きしても?」

「我の国の兵ならば魔物ごときすぐに殲滅させられるだろう。それに魔法石もタダではない。西の国に渡しエルフどもがそのまま売りさばくやもしれんしな。」

「‥それが、陛下のお考えですか?」

陛下の言うことは最もだ。今まであまり関わりがなかったエルフとの貿易に、不確かな魔物の話。

彼が王であるならば確かにこの取引に応じるには少し危うい。でも、今ここで諦めたら絶対に後悔する。

私が知っている未来。

‥‥多くの人が死ぬ未来。

そしてそれには貴方も含まれるのよ。



追悼式が行われた。何でも北の国の王がしんだらしい。魔物の氾濫。そこに現れた三匹の竜。

赤、青、黒の竜が北へと攻めいる。

それを国王陛下は一人で止めた。

両腕が焼け焦げ血がだらだらと流れ落ちる。

国王の周りは一面が赤に染まっていたという。

そして王は立ったまま絶命した。

命に代えても市民を守る。

流石は国王と誰もが崇めた。

‥‥栄光も名誉も、死んでしまえばもう届かないというのに。



国王陛下。貴方も被害者の一人になる。

それを知ってるのは私だけ。

だから‥‥

「恐れながら国王陛下。貴方はあまりに軽視しています。」

「‥‥なに‥?」

付近の温度が一気に下がるのを感じる。

「魔物の氾濫‥‥それはあまりにも未知数でございます。自国の兵を信用しすぎるのはいかがなものかと。」

「‥お前は我の兵が弱いと申すのか‥?」

息をするのも憚られる。

でもここで引いたらダメ。私は皆を助けたい。

それに私はっ‥私は、悪役令嬢なんだから!

キッと王を見つめる。

「‥いいえ、その様なこと私の口からはとても‥」

わざとらしそうに口元に手をゆっくりとあて、にこりと笑って余裕の表情を作る。

「ただ一つ心に問うて欲しいのです。‥‥貴方一人でこの国は守れるのか。と。」

‥‥不敬だ。あまりにも不敬だ。死刑かも知れない。

両目をぐっと瞑り祈る。

‥‥どうか死刑は免れます様に。

「‥‥くくっふはははは!!」

突然の笑い声に肩を震わす。

「ふっはは‥‥!そうだな、お前の言う通り、我一人では無理であろうな。もしかすると兵を使っても勝てん敵が現れるやも知れん。」

国王は愉快そうに笑った。

「現れるかも、じゃなくて現れるよ、国王陛下さま?」

辺りに薔薇の香りを漂わせる。

「‥っ!アル!?」

突然現れたアルに驚いて叫んだ。

アルはこちらを見てにこりと笑うとすぐに口を開いた。

「国王陛下。君に一つだけ教えて上げる。魔物の氾濫で君は死ぬよ。何せ竜が3匹も現れるから。

君の国の兵では勝てない。僕が言うんだもん。これはきっと現実になるよ。」 

と無邪気な笑みを浮かべるアル。

「‥貴殿は‥成る程な。はっはっは!‥‥いいだろう、お前のその心意気と彼の言葉を信じ取引をしよう。」

「っほ、本当ですか!!」

声のトーンが上がる。取引が成立した。

これ以上に嬉しいことはない。

「‥‥だか、お前の利益はどこにある?それどころか南の国にも利益はないように思うが‥‥」

不思議そうに首をかしげられる。

そして私はひとりでに舞い上がりふわふわとした気持ちで答える。

「‥‥私は死者を出したくないのです。北と西が手を結んだことで死者は減ることとなるでしょう。これは私にとってものすごい利益なのです!」

「‥‥自国の国の民ではないのになぜそこまで肩入れする?」

「‥救える命は救う。これが私の悪役をする上での心得なのです。」

‥‥ただ黙って見ることしか出来なかったときとは違う。

私には味方がいる。

「‥あく、やく‥というのは良く分からんがそうしてはしゃいでいるところを見ると年相応のように見える。」

‥‥はしゃいでいたのか。私は。

恥ずかしいと少し自分を律する。

「‥お、お見苦しい所をお見せしました。」

「よいよい。子供はそれくらいが普通なのだ。

お前はちと大人びているがな。‥して悪魔よ。魔物の氾濫、この裏には何が隠されている?」

‥アルが悪魔などとは一言も言ってないのに何故分かるのだろうか。

凄いと感嘆の声を漏らす。

「‥知らないよ。きっと愉悦の神が暇潰しとして与えた試練だろう。」

と冷たくアルは言い払う。

「‥愉悦の神か‥これはまた大変なことになったものだ‥‥直ぐにでも魔法石を用意し西の国との取引をしよう。守れる手段は早く準備しておくべきであろう。異論はあるか!」

陛下がそう叫ぶと周りの者はざっと頭を下げ異論などないと、王宮が静まり返った。

「‥‥よし。ならば動けるものは今すぐに行動をしろ!魔物の氾濫が早まるとまずい、極力急ぐのだ!」

皆はあっという間に動き始めた。


辺りが静まり返った頃、王が口を開く。

「ローズよ、暫く我が国に泊まったらどうだ?視察も兼ねているのだろう?丁度よいではないか。」

「‥お気持ちはありがたいですが‥私が‥というか私に会いたくない方がいると思うので‥」

正直帰りたくもないが、ここにいて父と会うのはまずい。せっかく取引を終えたのにここで死んでは意味がない。

「‥そう、か‥まぁよい。また来るがいい。」

そう陛下に言われお辞儀をした瞬間。

部屋の扉が大きな音を立てて開く。

「陛下、皆の者はどうされたのですか?私は何も聞いておりませんが。」


こつこつと靴の音が響く。


「‥ふぅまずはその体についた血を落としたらどうだ。」

「これは私の血ではありませんのでご安心を。」

「‥‥お前が怪我をしたことがあるのか。」

呆れたように王が言う。


懐かしい香り。覚えてるはずもないのに。

‥‥駄目だ。見るな。顔を上げるな。

このまま、すぐに部屋から出ないと。

‥‥でないと‥




「ライム・ヴェルナー。王の前で血まみれなのはお前くらいだぞ。」

‥‥‥‥私は貴方から全て奪ってしまったのだから。

‥‥殺されてもしかたないわ。


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