Mission6:トワイライトは敵か味方か確認せよ!
マーズ家の医療部隊、それは衛生兵中でも特に優れた医療行為を施せると他方からも有名だ。
彼らは、他の衛生兵よりもレベルが違う。
由緒正しい騎士家系、マーズ家がこれまでのノウハウを生かし衛生兵という存在を初めて作った。
この世界の魔法は、主に魔道具としてのみ存在する。全てではないが大方科学=魔法だろう。
その為長期戦の強いられる戦いではヒーラーなど存在しない為、現地で医療行為を行える兵士が必要だとマーズ家は考えた。
鳴り物入りで発足させた部隊のため、給料は普通の騎士よりも格段に高い。
各地で引っ張りだこだった部隊は、王都ですらこの部隊には存在しない為その専門性から一目置かれていた。
だが父が病に倒れた今、残された息子達は頑なに戦場への要請を拒否している。
その為、騎士の派遣は愚か騎士団自体ほぼ機能しておらず、加えて高級どりの医療部隊は財政の圧迫をしているだけのただのお荷物と化していた。
彼らもまた、何もせずとも高給が手に入る為、この状況を嬉々として過ごし、実績も作らず日々の訓練も疎かにし、甘い蜜を吸い続けていた。
だからだろう、彼らが、突然の解雇に見舞われた後もどこからも声がかからなかったのは。
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「一足遅かったか・・・」
(やっぱり、皆解雇されてる)
予想した通りだった。早速軍資金を使ってフロリーを通し使用人一人を買収、事件日の出勤名簿を入手した。そこには非番の彼らが駆り出された記録が書かれていた。
そして、いざその訓練所や宿舎に向かうとそこはもぬけの殻になっていた。
どうやら兄弟が証拠隠滅の為、そして圧迫している財政の為、この機会だとばかりに皆を解雇させた様だ。
加えて、長年連れ立った部隊解体時、雇用主が他の騎士団の紹介状を用意するのが決まりだが、兄弟はそれもせず追い出したようだ。暴動の如く荒れた部屋を見て確信した。
(本当ばかね、医療部隊を辞めさせれば事件を葬れると思ったのだろうけど、私を甘く見過ぎだわ。まだ追求できる余地はある・・・。待っておきなさい。私が必ず真相を解明してみせる。)
アメリアは悪女らしく美しく、そして不敵に微笑み、次の作戦を想い巡らせその場を後にした。
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「フロリー、あなた髪をまとめるの上手ね。これで動きやすくなったわ。」
満足げに、束ねた髪を振って見せるとフロリーはため息をつきながら、いつものトレンドマークと言える奇抜な色のドレスをクローゼットへ片付けた。私は足を組んで深くソファに持たれると、お茶をゆっくりと楽しんだ。
「お嬢様、失礼ながら、お嬢様は騎士にでもなるおつもりですか?その風貌ですと、あまりに淑女とはかけ離れたお姿です。」
「そう?私はいつもながら気に入っているところよ。この乗馬服。背の高さも相まって、カッコよくないかしら?」
「かっこいいと言われるのがあまりお好きじゃなかったはずなのに。どうしてしまったのですか?あんなに買い集めた宝石やドレスもほとんど売ってしまわれて。貴重な調度品や絵画まで・・・父は大喜びですが、そんなにお売りになってしまっては この部屋が殺風景になってしまいます。」
「誰もこないのだから、別に殺風景でも困らないわよ。でも貴女が口酸っぱくそういうから周囲から分からないような断捨離しかしてないわ。」
断捨離?と首をかしげるフロリーを他所にあの一件で、私はこれまでのキーパーソン達について回顧した。叔父は正直、一度もまだ接点のない人物で、普段は屋敷にいるのかどうかすら分からない。
私が目覚め大騒ぎをした事、兄が医療部隊が解雇した事、商人を邸宅に呼び何も買わずトラブルになったことも全て報告を受けているはずなのに、未だなんの音沙汰もない。
ダンケルクやトリスタンには以前よりも反感を買ったようで、私を見る度舌打ちをされる。
話しかけはしないが、怪しい行動が目立つ様になってきた。
二人は何かを画策し、普段は予定もなくぐうたらな暮らしから夜はこぞって外出することも増えた。
方や、妹のトワイライトは、私を見れば何かと周囲を巻き込み嘲笑するようになる。とうとう彼女の本性が現れ始めた。その理由は私がMaria Roseの外箱を彼にわざわざ用意させた所から始まる。
あの日、明らかな無視と嫌悪を示されてから、私は小説で描かれているトワイライトと実際に見たトワイライトの印象が違う感じた。
私には一度も面会や心配の声をかけることもないが、兄弟とは仲良くお茶会を開くなど、兄と姉の態度の差がはっきりしている。
そして今回受けた嫌がらせも巧妙に私以外の人間には測られないようにしているが、当事者になるとその違いをしかと認識できるほど露骨だ。
(普通の人間ならその温度差に気がついた瞬間から、ダメージと恐怖がどんどん増幅していくだろうな。)
その違和感から、窓の外で行われるお茶会をそれとなく監視するようになり、私はあることに気がついた。
彼女が身につける物、手にする物、囲まれているもの全てが最上級品だということを。
この世界に来て、ブティックといい、ティーショップといい、フロリーにトレンド記事の強い新聞や読み物を用意してもらい、私は淑女の嗜好を徹底的に調査した。
淑女らが日常としていることもすべて。
それを調べる中で、令嬢の中でも人一倍「高級志向が高い」のが、妹トワイライトだと分かった。
希少性の高い調度品や、限定のお菓子、オーダーメイドのドレスと、全てがトレンド紙に掲載されているものばかりで、先取りしている物なんかもある。いかに彼女が’一級品’最高級品’に拘りを抱いているかを強く感じられる。
(トワイライトは現世で言うブランド志向の女性だ。)
ここまで徹底している彼女を見ると、小説に書かれている姿はほんの一面に過ぎないのではないかと思えてきた。
だから、少しでもその腹の底が知れたらと思い、私はある疑惑の一石を投じた。
ダニエルに、あえて一つ幻の一品と称される新作の出回らない人気ドレスメーカーMaria Roseの外箱を紛れ込ませたのだ。
すると、彼女はまんまと釣られ、予想以上の行動を見せた。
(おかげで彼女の本質を知ることができたわけだけど、また一つ考えなければならないことが増えたわね。)
彼女は味方ではなく敵だった。一番相手にしたくない程厄介な敵だ。
なぜなら原作で、彼女のために命を惜しまない人間が少なくとも6人はいる!
皆が攻略対象の強敵中の強敵だ。
「大丈夫ですか?お嬢様、やっぱり最近お疲れなんじゃ・・・」
「大丈夫よ。心配しないで。」
ここいらで、気分転換も兼ねて体を動かすに限ると、立ち上がる。
「それじゃぁ、私そろそろ行くね。ダニエル、あなたの父から仕入れた、最高の遊び相手で今日も一日過ごしてるから、貴女は私の部屋で見張りをしていてね!」
「はあああぁ・・・・またですかぁぁぁ」
フロリーのだらしないため息を聞かないフリをして、私は本棚の向かうと、颯爽と壁の中へ入っていく。
私はいつもの場所へと来ると、カカシのようにチグハグな風貌の傀儡が私を待ち構えていて、私を見るなりカタカタと動き出した。どうやら今日も鍛錬の準備はできているようだ。
ダニエルから買い付けたこの傀儡は、異国の兵士として実際に活躍した代物だ。農村地帯の魔物討伐で使われていた。
自動で相手の動きを察知して戦う魔法を施されていて、一線で使用されていたのもあって実践を詰めるいい人形だ。
改めて魔道具の素晴らしさを実感しつつ、衰弱したこの身体を鍛える毎日。
来たる日のために私も強くならなければいけないからこそ金策を得て一番投じた一品でもある。
’あの暴君騎士と鉢合わせるその日までに、隙を見て逃げ果せる脚力をつけなければ・・・!’
私は、彼に見たてたその傀儡と日夜汗を流し続けた。