Mission5:誰にもバレずに金策を立てよ!後編
私は合図をすると彼は頷き、懐中時計を閉じ、ドームが焼失すると、いきなり彼は私に向かって怒声をあげた。
「一体どういうことです?!ここまで来させておいて何も買わないだと?!」
「ふん!私が、他の令嬢と同じ品で満足すると思ったら、大間違いよ!!この役ただず!!!」
私は下に絨毯が引かれているのを確認し、側にあった花瓶をなぎ払い、わざと音を立てされに大袈裟なほど悲鳴を上げるダニエル。フロリーも「おやめください!」と名演技だ。
「なんて傲慢で横暴な令嬢なんだ!この最高級品にケチをつけるとは!!二度とここには来るまい!後悔しても遅いですぞ!」
「はっ、貴方みたいな、センスもかけらのない商人なんてこっちもまっぴらごめんよ!!!」
さらに物音を立てて、全員慌ただしくアメリアの部屋を撤退させる。
その騒動に慌ててドアの前から離れた兄妹。
使用人など皆が呆気にとられながら、不貞腐れて出ていく商人たちと大荷物を抱えた従者を眺めていると、妹トワイライトは慌てて使用人を呼びつけ、持ち帰られていく荷物を全ての数を数えるよう指示をした。その指示に皆が一斉に取り組み始めた。だが。
「トワイライトお嬢様!アメリア嬢は本当にどれ一つとして商品を買っていません。持ち出された荷物が何ひとつ減っておりません!」
「はははっなんだぁ!? あいつ、結局ケチつけて何も買わなかったのか?!」
兄弟はアメリアの奇行にいつものように馬鹿にして笑う。
さっきまでの計画がおじゃんになったにもかかわらず、二人は腹を抱えて笑っている。
そんな二人とは別に、トワイライトは一人驚愕していた。
このバカ兄弟には分からないが、あの品の中にはあれがある事を彼女は知っていたからだ。
’そんなはずはないわ。あのブティックの箱の中に、滅多に出回らない(Maria Rose)のラベルもあった。あの価値を知っている人なら、絶対買わないはずないのに!
私に嫉妬しながら憧れているアメリアお姉様ならMaria Rose知らないはずない。
クソ、いつもみたいに後で泣き落としで手に入れようと考えていたのに!
周囲を巻き込み私が「欲しい」と言ってしまえば、妹の言うことを聞かないわがままを通す意地悪な姉と皆がアメリアを非難する。この方法が一番高価なMaria Roseを手に入れる方法だったのに!!!’
トワイライトは慌てて商人を捕まえた。
「あ、貴方!Maria Roseの商品も扱っていたわよね!あれを、姉が買わないはずがないわ!本当にひとつも買わなかったの?」
呼び止められたダニエルは、慌てて演技をする。アメリアから事前に伝えられていた通りのセルフで。
「私もマリアローゼの品を見て、一蹴する令嬢は初めて見ましたよ。ご令嬢相手に商人の命にかけて用意した逸品を趣味に合わないとあのように突き返されるとは。」
’どこまで愚かな姉なの?!あのドレスに袖を通すだけでどんな人でも社交界の主役になれるという逸品を。コネクションがないとまず拝めない貴重な品なのに、これを逃したら・・・’
「な、ならば私が買うわ!いくらでも私が出す、どんなデザインだって構わない!!Maria Roseの品で私が似合わないはずないもの!あのドレスを私に売って頂戴!!お願い!」
その懇願する姿は、いつもの美しく謙虚で慎ましやかなトワイライトとはまるで似ても似つかない姿だった。
「お離しください。私は一度返された品をもう二度と同じ相手に(屋敷の人間に)差し出すつもりはありませんので。」
ダニエルは、彼女に強く握られた腕を思いっきり振り解いた。その拍子で床に倒れ込んだが、トワライトはそれでも縋り付いて離さない。髪は乱れ、その顔は鬼気迫るものがある。
「いくらなの?いくらなら見せてくれるのかしら?お金ならいくらでも用意するわ!だから、私に買わせて!」
その必死さはまるでアメリアのようだった。享受できないものを諦めることができず必死に懇願するその姿が。
「いいえ、他にも後が控えておりますので、それでは失礼。」
取り残されたトワイライトのなんとも惨めな姿で取り残された。その姿に周囲は凄然となった。兄弟も表情を引きつらせた。
(今目にしているのは、私が知るあの美しいトワイライト・・・なのか・・・?)
周囲のただならぬ雰囲気を感じとった彼女は我に返る。そしてそのまま泣き真似をした。
「ひどいわ!私が以前からご招待するはずの商人をお姉様に横取りされた挙句、買いもしない貴重なドレスまで用意させて!
せっかくのMaria Roseまで逃して・・・私がどれだけ憧れていた品だと知らないはずもないお姉さまが!」
涙ながらに訴える彼女に皆が同情した。悪どい姉の愚行で悪戯に傷つけられたかわいそうな妹だと皆が思った。必死だったのは、そのせいで、なんて不便な子だと皆が同意した。
むしろ整合性を保とうとして、皆が一心にそう思おうと彼女の言葉を信じ切った。
一斉にトワイライトに形成逆転の模様に転じる。
「トワイライトの気持ちを踏みにじり、見せつけるためにここに呼んだのか・・・。許さんアメリア!!!」
周囲が一体感を持ったところで、彼女はこの事態をほくそ笑んだ。
アメリアの部屋へと今にも乗り込もうとする長兄を、彼女は袖を掴み、儚げに首を振って引き留めた。
’これ以上追及されたら嘘がばれてしまう、これ以上は困るわ。今のパフォーマンスでもう十分’
「いいんです。お姉様は殿下の婚約者という肩書がございますものね。商人も私よりもお姉さまを優先しても仕方ありませんもの・・・。それに呼んだ所で私はずっと貯めてきたお金でドレス一着買うのが精一杯で、商人はそこを見ぬいたのでしょう。
私、もう諦めます。いいんです。アメリアお姉さまを責めないであげてください。」
周囲は、(なぜ、あの悪女が王子の婚約者なのか?)という苛立ちに包まれた。
彼女もその成功を感じると、一人になりたいと使用人を引き連れて部屋へと戻った。 一部始終を見たダンケルクは憤慨し、未だ呆気に取られている弟を引き連れて出ていった。
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私は、フロリーからの報告をうけ彼女がやはり、私がダニエルに用意させた「MariaRose」に過剰反応を見せたの報告を受け、立てていた仮説が本当だったと決定づけた。
・・・となると・・・彼女がそうであるならば・・・
’「トワイライト」が小説で描かれている人物でなかったとしたら、これまでの言動に全て納得がいく!こんなにも早くボロが出てくれて本当に良かった’
私はまた、お茶を口に運びながら次の作戦を考えた・・・。