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 Mission5:誰にもバレずに金策を立てよ!前編



 「しかし、こうやってみると貴族御用達の遍歴商人そのものね!

 普通はブティックを経営している店主が直接貴族の邸宅に行くけれど、上級貴族は一度に沢山の店の商品を見るから、昔はその令嬢宅に列を成して皆が待っていたらしいんだけど。


 彼らに代わって、ブティックと委託契約してる遍歴商人が販売するようになってから、選りすぐりの商品を同時に見比べる事ができて、効率もいいと大評判なのよね。


 商人も委託料が高いのもあって貴族の質を選ぶから、貴族も資金力を持っていると逆評価されるし、社交界ではトレンド入りの令嬢は、商人を必ず利用していると有名だし、今私は、まさに選ばれし富を持つ高級貴族そのものだわ。」


 私は、覚えたての知識をフロリーに披露した。一週間ここに来てまず得たのはたくさんの知識と常識だ。そこから策略を立てでハードモードの前世を生きてきた私はその才を遺憾なく発揮するつもりでいる。


 「お嬢様、父はただの浮浪商人ですし、父を偽装してその’遍歴商人’に仕立てたのは何故なんでしょうか。かえって御兄妹に怪しまれてしまったではないですか。

 あの扉の向こうで聞き耳を立てているでしょうし。私に初めてお話をしてくださいました時はとっておきの作戦と仰ったから、父に声をかけたのに・・・一体どこが(とっておきの作戦)なんです?!

 お父様もお父様ですよ、なんですかその格好、何ていうか、ひどいですわ。

 それに資金が必要だと行っていた矢先にこんなにたくさんドレスを買い込んでは、到底資金集めなど・・・」


 ひどいと言われているのに、すごく上機嫌のダニエルは愛しい娘に優しく諭した。


 「フロリー、お前の主人は大変明晰な頭脳と判断力を持ったお方だよ。いやぁ、色んな国を旅して参りましたが、貴女ほど取引に精通したご令嬢にお会いした事がございません。娘がそんな優秀な方の侍女であることを心から嬉しく思います。」


 まだその内容にピンと来ていない娘は素っ頓狂な顔をしているのを横目に「彼はでは早速、お品物をお見せ致します。」と言って使用人に合図をした。

 機械のように無表情の従者がダニエルの合図で二人の向き合った間を裂くように机上に品物を一つ置いた。

 そのブティックの箱をアメリアが手にとりゆっくりと蓋を開けた。

 フロリーは覗き込むと、(あっ)と声を漏らした。


 なんと・・・その中身は何も入っていなかったのだ。慌ててフロリーは積み上げられた箱に手を伸ばした。

 

 「ど、どういうことですか?ドレスがどの箱にも入ってません!お父様、お嬢様になんてことを!」


 「いいのよ。フロリー。これは私が全て、指示したことだもの」

 

 まだ、よくわかっていないフロリーの為に、彼女にダニエルを紹介してもらう事にしたその日から計画したことを順に追って説明を始めた。

 

 私はまず直接ダニエルに渡す招待状に、ここに来るまでダニエルに準備してもらうを全てのことを書き記した。


 ①身なりを異国の上級スタイルに変えること


 これは、ダニエルの出身を生かしたというだけではなく、いかにも(成金)を想像させるような華美な装飾を施すよう指示した。

 帝国の紳士の格式に合わせると、知識を持ち合わせた帝国民なら持ち物や衣装で他人を安易に測れてしまう。

 だから、あえて華美なほどに異国の文化を取り入れたスタイルで装わせ、その基準を曖昧にする。

 帝国民からすれば自国以外のフォーマルスタイルなどさっぱりわからない。知識のないものには執拗に手は出せないものだ。

 その分無駄な出費を防ぐ事ができた。


 ②従者と荷馬車をレンタルすること

 これも、見た目のレベルを上げるものの一つだが、一番の目的がある。

 それは、’本来の取引を悟らせない’ようにするため。

 

 今日の目的は「買取」、私はモノを買いたくて商人を呼ぶのではなく、売るために商人を呼んだ。

 普段外出をしないアメリアが、大量の荷物を持って外出するだけでも意図を図られてしまうし、調度品などの値の張りそうも売りたかったから、敢えて来てもらうことを選んだ。

 

 その際に絶対に必要になるのが・・・この有名ブティックの空箱だ。

 

 元々ダニエルは貴族相手ではなく、マニアックな学術者やコレクター、そして庶民を相手にしている事を私は小説で知っていた。上質なドレスを守る有名店の箱。これはデザインもさることながら、虫を寄せ付けず、重ねられ、物を収納できる。

 何も入れていない場合は、ひとつに収納することもできる。

 使用されている紙も上質で保管に向くし、それだけで価値が高い。だから、庶民はその外箱だけを好む事、そして彼が商品の一つとして置いているだろうと予想した。


 用意してなければ、時間はかかるが調達するよう指示するつもりだったがやはり彼はその必要がないほど優秀な商人だった。


 予想は当たり、ドレス箱を沢山用意してもらう。まるで中に大切なドレスが入っているかのように扱わせて。帰りに買い取ってもらった私物をその箱に入れて商人がもって帰れば誰にも怪しまれずに商人と取引成功。従者は屈強な門番並みの体力を持ち合わせた異国の兵士をを用意させた。

 言葉が通じないので、我々の話をリークされる心配も後で奴らに懐柔される心配もない。


 だが一つ、この作戦には落とし穴がある。

 通常のご令嬢ならば、こんなに商品を用意させておいて、何も買わず突き返すなど、まずできない。

 評判は金よりも価値が大きい。

 屋敷のものにこんな恥ずかしい行為を見せれないと思うだろう。

 自分が買ったものを売る事自体、令嬢達は恥ずかしいと思っている節も相まっ絶対真似できない。


 だがその欠点はまさにこの「悪女」アメリアの場合は、気に食わないと一蹴するだけで済む。済んでしまう。

 元々、社交界の評判などあるわけもなし、返って身内には今回の件で勝手に資産を散財したと妙な言いがかりもない。


 「素晴らしいですね。私は庶民ですがその箱のことも、そんな発想すら思いつきませんでした。その箱の知識は、どこから知ったのですか?」


 フロリーにそう聞かれ、私は苦し紛れに適当な返しをした。

(本当は、前世で私も高級品の箱や紙袋だけ集めて使っていたとは言えない・・・。)


 「それはそうと、資金調達は抜かりないかしら?今日はしっかり買ってもらわなきゃ。二度は通用しない方法だから。」


 足を組み替え、商人の器を確かめるように見つめると、ダニエルも同様、鋭い視線でニヤリと笑うと胸元から札束をポンと置いた。

 「これはほんの一部です。」

 

 私は彼の差し出した大金を見つめ、ニヤリと微笑んだ。

 この資金調達にも私は一つ提案をだしたからだ。

 彼は今首都で療養の身、ある程度裕福であっても浮浪商人の彼が仮住まいの家に大金を置いていない事だろうと思った。

 それ故、すぐに大金を用意するのは難しいだろうと考えた。

 

 なので私は秘策として、ある指輪を彼に託した。


 ・・・


 


 かつて、この地を守っていた先祖の山から貴重な鉱石が発掘された。その色はなんと深い海を想像させるブルーダイヤモンド。

 マーズ家は元は炭鉱で掘り当てた鉱石を皇族に寄与し、地位を築いてきた貴族。その謂れでは罰が悪いと財力を掛けて騎士育成に注力してきた。おかげで今では名門の騎士家系として名を馳せいている。


 我が家にはこのブルーダイヤモンドの鉱石の品がいくつかあり、その中でも赤子の爪程のブルーダイヤモンドであしらった指輪をアメリアは、一つ所有していた。 

 生前のアメリアがたいそう大事にしていた一品の一つだ。

 トワイライトに決して取られない様とっておきの場所に隠し、普段は眺めるだけで満足していたほど。


 なぜならアメリアのミオカリウス・マーズにもらったものでもあるからだ。本来人に預けることができないほどの品だが、私はフロリーに直接渡す様指示し、この時相手への信頼とこの取引の本気度を見せた。

 受け取った彼もまた、アメリアの計画書とこの指輪の存在で、たいそう驚いたとこだがこの計画を完遂させるための完璧な采配を組んでくれた。

 

 もちろん肝心の現金もダイヤを担保したおかげで、次々と私物が金に変わっていった。

 (後日、ダイヤの返却はフロリーを通して翌日帰ってきた。)


 お互い快く握手を交わす。

 握手までするのは、双方が納得のいく結果となった時に自然と行われる挨拶だ。


 初めて貴族令嬢を相手にした彼は満足な取引ができたようだ。

 普段貴族相手ではない彼にとって、貴族の調度品やドレスを手にいれることは、それだけで価値が高い。

 彼の商談相手は世界中にいる。


 かえって貴族同士で相手にしている商人よりもずっと儲かるだろう。


 一通りドレス箱に詰め込んだ後、私は最初と同じ様に彼に合図を送り、彼もまた、テーブルに置かれた懐中時計を手に取ると、パチっと気持ちよく蓋を閉めた。


 

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