Mission4:怪しまれずに商人を家に招け!後編
(後日)
「大変です!ダンケルク様!アメリア様が、屋敷に遍歴商人を呼んでいます!馬車から大量の荷物を運ばれて行きます!」
使用人の一人が、穏やかな食事中の三人の食卓へ、血相を変えてやってきた。
最初は無礼だと言い掛けた彼らだが、使用人の言葉に耳を疑った。
「なんだと!」
慌てて一同が窓の外を見ると、立派な荷馬車でやって来た商人が従者を引き連れ、高く積み上がった荷車の荷物を運ぶ。そして屋敷の入り口まで来ていた。
彼らは急いで玄関先へと向かうと、対応する使用人たちの静止に「入場許可証」と書かれた紙を見せながら二階の奥の彼女の部屋までズカズカと入ろうとやって来ている。
玄関ホールは商人の荷物が何段にも積まれその状況に周囲は圧倒された。
これは何事かと兄弟達が商人を呼び止めた。
「お前!なんと無礼な!屋敷の主人に許可を取らず、屋敷に勝手に上がり込み荷物を持ち込むとは!」
ダンケルクは異国の商人を怒鳴りつけた。
相当頭に来ているのか、不快そうに全身舐める様に風貌を見る。
すると、彼は益々余裕の表情で黄金のブレスレットに手を掛け、時間を気にするそぶりをした。
その金回りの良さそうな真珠やルビーの指輪やネックレスをつけた手で、再度手にした入場許可証をダンケルクにも見せた。
「貴方様はマーズ家御子息のダンケルク・マーク様ですね。私、こちらのアメリア・マーズ様より、直々に部屋までお品をお持ちするよう言付かり参りました、商人の(ダニエル・ポアール)です。」
そういって差し出された許可証は文句がつけようのないほど正式な書式で書かれた文書で、見るとアメリアのサインが書かれている。
私文書関連は効力を持たせる為色々と複雑な為、兄ダンケルクも現在貴族の財務、法務をを任される側として勉強しているだけに、アメリアのサインでこれが作成されていることに驚いた。
自分は私文書を書くことすらできない。
これは、何らかの手で第三者に作らせたのだと考えた。
「あいつこんな姑息な真似を・・・。こんな時に大金を使ってうちの資産を食い潰すつもりか!!!黙っておけば調子に乗りやがって!もう我慢ならん!」
「あぁ、これは流石に黙っちゃいられない。急ごう兄さん!」
一緒になって同調するトリスタンも、一緒に乗り込もうとしている。だが妹のトワイライトだけは様子を伺い、この状況を利用しようと考えた。その為、二人を静止すると愛らしく説得し始めた。
「ねぇ、お兄様達、従者が持っているあの箱の山、よくご覧になって。どれも各店の有名ブティックのものだわ。こんな散財をおじ様が許すと思う?おじ様は少しでもこの家の資産を残しておきたいはずよ。
そして今持ち込まれるこの商品一つ一つを数えておいたら、ブティックに問い合わせれば証拠もすぐに出せるわ。
そうなると・・・後のことは想像できて?
お姉様はこの屋敷から引きずり出せるかもしれません。
このまま、見逃しておいて損はありませんわ。」
「なるほど!トワイライト、君はなんて聡明なんだ。おい!お前達アメリアの部屋に荷物が渡る前に、全て荷物の個数と販売店を調べよ!」
トリスタンが張り切って使用人達に一斉に指示を飛ばした。
妹のトワイライトは、したたかな笑みを浮かべた。
’この最近のアメリアの行動がやけに大人しいかと思えば、私と仲良くしようと近づいてきた時は、寒気がしたけれど、やはりお姉さまはお姉さまだたったわ’
’死にかけた挙句お兄様に怒られずっと部屋に閉じこもって、私ともの関係修復に失敗して、しまいにはやけを起こして散財をしようとしているんだわ!
やっぱり、お姉さまはこうでなくっちゃ。お馬鹿で世間知らずの頓知気お嬢様。
おじ様の形だけの信用もここまでね。それに・・・あの品がここにあるのは私にとっても見逃せない。
あのお姉様が・・・あの品を手に入れたなら私が後でいつもの様に奪い取ればいい・・・’
ー幼少期のトワイライトー
「今日から、お前達の妹、トワイライトだ。仲良くする様に。」
いきなり、父代理として叔父様が私を迎えに来た日。私はようやく私の為のドレスを身に纏い、これまでされるはずだった扱いをようやく受けた。その日から、私の目の上のたんこびがずっと煩わしくて仕方なかった。
二人の兄たちは私を見ると、驚いた表情を見せた後周りと変わらない好意の目を向けた。
だが、赤髪の姉だけは私をよく思わなかった。
加えてさして美しいわけでもないのに、私と肩を並べようともする。
年上だからと何かと知識をひけらかしては、優位に立とうとするのでその度に私が少し泣いて見せる。
それだけで周囲の大人たちからお姉様体操怒られる。その姿はとても滑稽だった。
いくら努力して地頭が良くても、愛想もなく、いつも物欲しそうな目をしている彼女を皆が軽蔑しているのはすぐに見てとれた。
だから、私は最初暇つぶしで彼女に構ってあげていた。
私の見た目故、どうしても欲しいものを欲しいと言える立場ではない為、欲しいものは姉から奪うのが幼い頃からの手段だ。
姉の部屋に押しかけ、部屋を物色して、私に似合うはずだといって、アメリアに同意を求める。
お姉さまも苦し紛れに「似合う」という間は「じゃぁ頂戴?」と言えば、渋々渡してくれたけれど、年数を越すごとに、ひどく拒否感を示す様になったから、その度に泣いて周りに抗議したら、皆が私を慰め、彼女をひどく叱咤し軽蔑するのをおまけで見れると知った。
それからこの方法ばかりを使っている。
姉はただ勉強ができるというだけで、殿下との婚約者になったずるい女だ。
加えて、生まれながらマーズ家にいるというだけで、ある程度の資金力に恵まれている。
だったら、それを私が実力で奪って何が悪いのだろう。
’そして、あの品を手に入れたなら私が必ずものにしてみせるわ。’
兄達の指示によって持ち込まれた品が全て、一通りリスト化され、積み上がった荷物が改めて二階奥のアメリアの部屋へと送られる。
二階の一番奥の部屋を商人がノックすると、静かに挨拶がなされ、商人と荷物持ちの使い達がアメリアの部屋へと入っていった。
その姿を覗き見る3人は、ドア閉まった途端、彼女の部屋のドア前までいき、聞き耳を立て始めるのだった。
そしてアメリアの部屋に入った商人にアメリアは笑顔で迎えた。商人もまた、親しげな笑み彼女に向けて挨拶をする。
「本日は、お呼び頂き、誠に光栄でございます。アメリア様。」
帽子を脱ぎ一礼した商人は、その後フロリーを見るとチャーミングなウィンクをして見せた。
「ダニエル。今日はよく来てくれたわね。準備、大変だったでしょう。さっ壁にあいつらが張り付いているから、早速アーチファクトを使いましょう。」
アメリアのポンと手を叩く動作を合図に、彼は持ち込んだ懐中時計を開いた。
すると、ブルーの微かな光線がドーム状に広がり、彼らを覆い尽くす。音の漏洩を防ぐ魔道具。これによって6畳ほどの空間が完全防音機能空間になる。
二人は席に着き、フロリーはその姿をお茶の用意をしながら二人の様子を注意深く見つめる。
私は扇子を広げ、二、三回仰いだ。
「さぁ、取引の始まりよ!」
私の今回のミッションは、怪しまれずに商人を呼ぶこと。
彼がここまで来た時点で、私はこの作戦を完遂したことになる。ならば、ここからが本来の目的なのだ。
私は、扇子で緩む口元を隠した。
ダニエル、フロリー、そして使用人2名、そして私。
緊張感の中、作戦を実行する。