mission 17:騎士団長を罠にはめろ!
数日前、私は解散した医療部隊の現在の状況を調査した。
名簿から住居を特定し、現在の生活を覗き見てみると、ほとんどの部隊が職を失い、日がない1日をだらだらと過ごしていた。
やはりと言った所で、例え首都の危険性が増しているからと言って、今すぐに警備を強化するほど切迫した状況にない。
さらに解散した医療部隊を追加するなど、考えにくい。
エルカルロ叔父様がいう顛末では、少々時期が早すぎるのだ。
(やっぱり、兄弟達に辞表を書かされたに決まっている。それを叔父様が庇っているのも事実。)
アメリアが死んでしまう原因にもなったこの事件を見逃すわけにはいかないという思いから、彼らからどうしても証言を得たかった私は、(釣り餌)の為の準備にとりかかった。
私はまず、ペンタゴンの騎士団長に目をつけた。
首都の騎士団長クラスであれば、採用の有無の決定も成すことができる。
彼らに、大々的に募集を掛けて貰えば、その募集に必ず医療部隊が食らいつく。
そうなれば、その過程で必ず私も介入できるポイントがあるはず、と予想した。
計画ができた所で、次はこの団長に「餌」を巻く。彼について調査すると、それはそれは熱心なギャンブラーの一面。
娯楽の少ない異世界で、さらに節制された生活となれば、賭け事に興じる趣味を持つのもあり得る。
実際に現代でも、規律の厳しいスポーツマンに好きな人は多い。
これを餌にし、次に私はこの賭けジェンガを思いつく。
その為に、職人と交渉し、このジェンガの作成から臨んだ。本当に我ながら涙ぐましい軍師である。
私の戦略はまぁ、それはそれは念入りな準備と仕掛けにある。これは前世でも大いに取った手法だ。
戦いを制するには、戦い方を心得なければ勝てない。戦場をいかに自分の土俵に作り替えるかが大事なのだ。
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私は風呂敷をテーブルに置いて、パラリと中を開いた。
パラパラと開かれた風呂敷から、肌色の木目が美しい、どれも同じ四方に整えられた積木のタワーが出現する。
皆が一斉に覗き込んで見つめる。
「なんだ?子供の遊びでもしようってのか?」
「良いや、これは俺が特別に作らせた”ジェンガ”っていうんだ。」
『ジェンガ?!』
後ろの仲間も、カリウスも、そして周囲の皆がそのジェンガに釘付けになった。
何せ、初めてみるその代物で、なんとも響きのある名前。
余裕のある立ち振る舞いをしていたはずのカリウスも、まるで犬ころのように新しいおもちゃに釘付けになっている。
「ど、どう遊ぶんだ?この積み上がったタワーみたいなので、何ができるってんだよ!?早く教えてくれ!」
普遍的なジェンガだが、これは神経衰弱系の遊びとしては本能を擽る素晴らしいおもちゃだ。
指先の感覚と、建設的な見立てが必要で、冷静な心持ちも試される。
早速そのやり方をカリウスにレクチャーしてあげると、彼は瞬く間にこのジェンガの虜になった。
後ろで見ている同僚も、早速乗り気になってその様子を見ている。
そんな彼らにも私は目をつけていた。
「これをただ引いて上に置くだけじゃない、今回は掛けジェンガだ。ここで一番高い酒と飲み比べでセットの戦いをやる。」
私は女将と目配せすると、その合図で彼女が奥からどんと出してきたのは、金額もさる事ながら、アルコール度数の高い酒でも有名な「kuwatto」。
これは異世界版テキーラとも呼ぶべき酒。これを負けたらショットで飲む、飲み比べ合戦をやるのだ。
「さらにそれだけじゃないぞ。お手つきしたらやめても良い。だが、止めるときはこのジョッキエールを飲んでもらう。
そのジョッキエールは本人じゃなくて、その後ろの・・・アンタらが変わり飲んでくれて構わない。俺がお手つきしたらショットを一杯呑む。どうだ?」
「なんだと?!飲み比べ勝負で俺は後ろの仲間に酒を代わりに飲んでもらって良いのか?!しかもジョッキエールの方がアルコールも低い。それじゃあ楽勝じゃねぇか!」
興奮は最高潮になった酒場が、青年の威勢の良い挑戦に、雄叫びをあげた。
この酒場はすっかり、彼らの掛けジェンガに注目が集まっている。
だからこそ、この角の席を選んでおいて本当によかった。
私はこのゲームの肝と呼べる所のルールを伝えた。
「その代わり、数え数で5、までだ。それまでに、手をつけたジェンガをひとつ引いて上に乗せれなかったら負けとなりショット一杯だ。わかったな?」
この戦い先行勝利はない。長丁場もあり得る、長期戦だ。
加えて、相手は屈強な男三人。私はたったの一人で乗り切るのだ。
カリウスは私と正面で向かい合い、首と手首を鳴らして準備万端といった様子で迎え撃つ。
私もまた、’秘策’を考えてきている。
さぁ、(掛けジェンガ)のスタートだ!
カンカンカン!
どこからともなく、誰かが鳴らした鐘がなった。
最初の一線は私が難なく勝利し、彼が一杯ショットで呑んだ。だが、2戦3戦としていくと、彼もこのジェンガの戦い方がわかってきたのか、落ち着いて5秒の間に素早くジェンガを乗せれるようになった。
カリウスは、お手つきも躊躇なく行った。
お手つきしてでも、しっかりと取れる確実性のあるジェンガを選ぶことも、大事な要素だと気づいたからだ。
彼のこの戦いの中で心得ていく姿が、優秀な騎士である由縁を感じさせる。
その分私がショットをくらう羽目になった。
10戦20戦と進むにつれて、この掛けジェンガの真骨頂を彼らも理解し始めた。
これはスマートの魔法士同士の戦いではなく、汚くなっても這い上がる剣士たちの「泥試合」だと。
後ろの2人も一気飲みのエールに最初は喜んだ様子だったが、次第に数を重ねてくると、団長よりも先に酔い潰れていき、一人は完全に席に伏し、あと二人となった。だが、ここからが長く、一戦一戦の重みと、剣士らしい忍耐力で私も苦しんだ。
私と彼らが飲んだ酒の数はさほど差がないほどだった。
カリウスも、控えが一人になった事でお手つきの回数が少なくしようと努力していた。
その上でショットの回数もどんどんと増えていく。その内後ろに控えがなくなると、エール酒で食い下がる。
呑めば呑むほど、ジェンガに必要な判断力と注ぐ神経がどんどん削がれていった。
加えて、酔えば酔うほど、手元は覚束なくなる。
数え数5と時間を設けたのも、焦りを助長させ、判断力をに鈍らせ、手元の注意力を散漫にする作戦で前半と後半の戦いに有利に動いた。
そして・・・・バターン!と団長も酔い潰れ、顔と一緒に積み上げたジェンガが雪崩のように落ちた。
「ま、負けた。もう呑めん・・・。」
気がつくと、エール樽や酒瓶がそこら中に散らばって女将はたいそう上機嫌に歌っている。
(よし、ようやくのしたな。早速本題をせねば、眠られては敵わない)
私は、誓約書を彼の前にチラつかせ、賭けに勝った褒美を要求する。
「俺が勝った・・・。だから、俺がお前に願い事を叶えてもらう。良いな?」
「なんだこれ。誓約書・・・?マーズ家の衛生兵を増隊させろ?!なんだこれは?!」
「そのままだ。だから、大々的に募集していると公表してくれ。第二次試験要項で頼む。」
「お前!俺を馬鹿にしているのか?!たかが賭け飲みで兵に口出しなどさせるか!」
自身の個人的な賭け事の対象に、大事な部隊を引き合いに出した事が相当腹が立ったのか、私の首を取ろうと掴みかかってきた。
私はそれを右手一本でいなし、腕を締め上げると悲鳴を上げてまた顔を机に突っ伏した。
後ろで伏していた彼らも、忠誠心の賜物と言えるほど、この状況にすぐさま臨戦体制を取り、彼女に掛かろうとした。
だが、私はガンとカリウスの椅子が押し出し、それと同時に、腕を取られたまま頼りなく伸びたカリウスが大声で静止した。
「やめろ!この男、もう俺もお前らも一瞬で殺せる!」
彼らはカリウスの発言にハッとした。
私の左手は、彼らに向けて毒矢を放つ準備をしていたし、カリウスの股間には、鋭利な刃がついたブーツがベストポジションの待機している。
ここが、短い机幅であることを見越していたからできた戦い方だったがこんなにうまくいくとは。
私は無事にこの作成を成功させ、その勝因を振り返る。
私の作戦勝ちであることは間違いないが、飲み比べでは、私が飲む事態を第一に避けなけれいけない。
だが、ジェンガがプロ並みに上手いこともなければ、大酒飲みでもない。
そこで考えたのが、角の席を陣取ること。
私はまずあの角の席を死守するのとと同時に、その角に持参した背の高い植木鉢を置いた。
この植木鉢は、そこがしっかりと吸収する土でもられ、大きさも下の受け皿も十分なものを選んだ。
そして次にローブ。
ローブの中には仕掛けはないが、手元を隠す為に腕まわりが幅広いものを選んだ。
これをショットの際、一度口に含み、その器を持った方の手で口を拭く動作をする。
この時、一瞬でそのショットグラスの中に酒を戻す。汚いが、これが一番自然なのだ。
そのまま、隣の植木鉢に酒を捨てれば飲んだフリは完了だ。
これを自然なタイミングを見計らい繰り返す。
前世ではアイスベールをさりげなく下に置いて使っていた技だ。ネゴシエイターとはいえど、日本では一般的な公務員。
アルハラ相手の秘策だ。
酒はアイスを足してくると言って、席に立ったついでに捨てるので案外わからない。
ひたすら割りものを作る役目に達するのが、土壌を作る鍵となる。
私は、この方法で長丁場を可能にしたのだ。




