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 Mission 16:皇太后の信頼を掴め!

 「ペルシア皇太后様、マーズ家が資産防衛法の申請を提出され許可されました!応接室が保護対象です。」


 執務室で今日も皇后に代わり、皇太后のペルシア・アルベルトは法案の決議書類を精査していると、クラウセデス宰相がいつにもまして慌てた様子で報告してきた。

 

 ペルシアは、前王の妻であり、歴史的に非常に優れた政治的手腕を持っている人物だ。

 彼女の意見なしに、前王は政治の決め事ができないほど頼りにされていたという。

 今でも現役で執務行い、現王の縁の下の力持ちだった。


 そんな彼女が彼の発言聞くや否やふっと静かに微笑んだ。


 「そうか、ようやくか。私がその申請が出た時点で、許可取りできる様にしておいたのだ。そんなに驚くでない。」

 彼女は執務内容を確認しながら答えた。


 「皇太后様でしたか・・・私は一瞬、己の怠慢を疑いましたよ。」


 ほっとしたのも束の間、ペルシアが何故その様な行動がされたのかがペルセデスは気になった。

 彼女が私的な理由で融通は効かせることはないからだ。だから今回の件は特例中の特例だ。


 (どうしてそこまでマーズ家を・・・。)

 

 聞けずに尻込みしているクラウセデスを見て何を言いたいのか手に取るようにわかるぞと鼻で笑った。


 「ふっお前もしっかりと勉強しろ。あそこは私がよく通った場所だ。その時にはすでに要人も多数招かれる場所だった。

 マーズ家はな、私が幼子の頃から代々国王と関わりを持ち、肩を並べるほどの公爵家だぞ。あの場所が開け放たれている方が理解できんほどだ。」


 彼女の言葉に信じられないと言わんばかりに彼は首を傾げた。


 「お言葉ですが、マーズ家は鉱石で財を成したと聞きました、由緒正しいとはまた異なるかと。」

 この宰相、頭はキレるが基本的に少々立場を弁えずストレートな物言いをする癖がある。

 頭がいいばかりで教養はまだまだ勉強半ばだ。


 「それに今は見る影もないほど、力が衰えている一族ではありませんか。それを今更・・・。」


 彼の苦言を彼女はあえて一通り静聴した。

教養の無き者でも、この皇宮で働いている者ならばしっかりと知っておかなければならない事柄だ。

だがそれは今の彼になんと伝えるのがベストであるか、方向性を考えていた。

彼の様に、知識の幅が狭く、斗出した者は教育ではなく、躾でなけらば伝えられないことを彼女は知っていた。

こうやって若い人間と接する為、いまだ現場で働いている意義でもある。


 「マーズ家は、まだフランドベールが貧しい統治時代から支援援助を欠かさない、素晴らしい存在だった。マーズ家が寄贈した施設や、財産が今もたくさん残っている。

 お前は、首都最大のフランドベール大聖堂や、国立大図書館を利用した事がないのか。

 あれは今は我々が管理しているが、元はマーズ家が創設したんだぞ。入り口にもきちんと書かれている。民間運営で入場料を取れば、それだけで楽して過ごせるはずだ。

 しかしそれをしなかったのは、この国を豊かにしようと彼らが貢献してくれたからに他ならない。」


 「そ、そんな・・・」

 皇太后の発言にクラウセデスは声を失った。


 クラウセデスは今しがた自分がした発言がいかに無知で愚かな事であったか理解した。

 国を代表するあの象徴的な建造物は、国民にとって無くてはならないものだ。

 それを個人の所有物とせず、誰もが分け隔てなく享受できるのは、他でもないマーズ家の存在だと彼は今愚かにも初めて知ったのだ。

 そして何より、クラウセデスは幼少期からその場所に足繁く通う少年であった。そのおかげで今の職につけたといっても過言では無い、恩恵を得た一人でもある。


 ショックを受ける彼を差し置いて皇太后は、彼の目を真っ直ぐに捉え芯ある声で彼を諭した。


 「あの屋敷には我々の国の礎が記された貴重な歴史的資料もある。権利書もだ。それを残すのは人だ。家門の力ではない。残す人の思いを可能とする為に作った法律を理解しておらんな。クラウセデス。」



 今まささに、この国の全盛期となった時代を背に発言する皇太后の若かりしき面影を彼は見た。

 彼女の偉大さとそんな偉大な彼女が称賛するマーズ家の歴史を肌で感じる。


 「も、申し訳ありません。歴史的資産は時代に翻弄されることのないようお守りするのが、この法律の真髄でした。先ほどの発言も理解の欠如も、大変失礼いたしました。」


 誠心誠意謝罪をするクラウセデスを見て、今日はこのくらいにしておくかと彼女は静かに頷く。

 彼はその表情に調子良く、早速彼らを称賛する声をあげた。


 「やはりマーズ家の方は有能ですね。そして申請した者は特に頭がキレる。自らを責任者に据えて、自分も保護対象にするとは。この様に使用されると、もう少し内容を練らねば、真似するものが出かねない!」


 「ほう、法律の穴をついたか、我々に仕事の精度を上げろと言っている様なものだ。で、誰だ責任者は。」


 「アメリア・マーズ様、アンソール殿下の婚約者様です。」


 一瞬彼女は目を丸くしたが、すぐに’そうか’と納得した彼女はクラウセデスに急いで申請許可を受理したことを電話で連絡させる様に伝えた。

 クラウセデスは、その意味がわからなかったが、彼女は「急いでいるだろうから」と言って彼を急かした。


 一人になったペルシアは静かに立ち上がると、窓辺に立って外の風景に視線を移した。


 ペルシアは、孫のアンソールがマーズ家の兄妹とあの思い出の第三応接室で好き勝手に過ごす姿を思い浮かべた。

 彼女は彼の愚行を知っていたのだった。


 ここ最近、息子は教育方針でを変え可愛がるだけの愛情の施し方を変えた。

 その為、一気にアンソールへの業務が増え、彼へ風当たりもどんどん強くなっているのを見てきた。


 アンソールも18歳、これからあらゆる場面で主だった活動が増えてくる。

 発言権を増し、そのための自覚を持たなければならない。

 

 しかし、息子が少々甘やかせ過ぎたせいか、これまでが全く公務を手伝わせていなかったのも問題がある。

 

 彼がそのストレス発散に彼処でハメを外していた様だが、逃げ場を外に求めている様では王の器など到底なれるはずもない。

 これまで散々彼にその行いを止める様口出しそうになったが、何とかここまで踏みとどまっていた。


 私は随分前からあの場所を唯一守る事ができる法案を許諾済みにしていた。

 だからずっと申請される時を待っていた。


 だが、私ができるのはここまでだ。わざわざ進言できるはずがない。


 あくまで個人の資産であり、家紋を守る彼らの方針や事情がある。

 何より、あの時とまるで違う。

 全てが変わってしまった。


 あの家の者が、彼の行いにNOを突き付けなければ、私もどうすることもできなかった。


 ペルシアはようやくアメリアが孫の愚行を正してくれた事にこの上なく安堵した。

 私が知る彼女は、誰よりも賢明で勇敢だ。何より、私の愛したあの人の子。だからこそ私は彼女を婚約者として推薦したのだ。


 ふと、ある人との思い出が蘇る。

 幼き日の思い出にはあの場所と必ずあの人がそばにいる。

 私のかけがえない思い出。


 それらは全てマーズ家にあり、あの応接室にある。

 あの場所を守りたい、それが一番の動機だ。私たちの思い出を決して汚されたくない。時代が変わり、人が変わり、あの頃の彼らを知る者がいなくなろうと、掛け替えのないものは守りたい人の意思を尊重されなければならない。



 (もしかしたら、これから少しづつ彼女と対話できる様になるかもしれないな。)


 ペルシアはアメリアの再起を感じ、彼女は待ち続けたこの時がようやく訪れようとしているのだと思った。

 その時私は、正しい行いができるだろうか。

 彼女はまだ、窓の外の景色を眺め続けた。



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