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 mission14:着れるドレスを探し出せ(後編)


 (アメリア・・・この因縁のドレスを捨てられなかったのね。きっと目にするだけでも辛いはずなのに。)


 人は時として、思い出すと苦しい物ほど思い入れが強く、捨てられないことがある。


 原作では、ひどく罵られたドレスをこうしてフロリーが大事に抱えて持ってくると、少々古典的なデザインながら、特に問題のないドレスに見える。

 だが、この所以を知る私は袖を通すのが気が咎められたが、私の為に見つけてくれたフロリーを無碍にする方が私には躊躇われた。

 キラキラした眼差しに抗えず意を決して立ち上がった。


 「わかったわ!来てみましょう!」

 その声に張り切るフロリーによって着せられたドレスは胸に支障なく、綺麗に着こなす事ができた。

 だが、それは私には確かに似合わないドレスだった。


 「こ、これは・・・あまりにも・・・・。」

 フロリーが最後の紐を締め上げ、完成を見るや否や、私と同じように首を傾げた。


 (わかる・・・フロリー。あなたが言わんとすることはわかるわ・・・)


 「これ、肩口のパフスリーブの立ち上がりが大きすぎない?肩が大きく見えて違和感がすごいわ。」


 「えぇ。フォーマルデザインですから。しかしこのデザインがお似合いのお嬢様もいるのになぜ・・・」


 この世界にはそれぞれが持つ’骨格にあったスタイル’という概念がない。

 アメリアは、長身でしっかりと骨感のあるいわゆるスーパーモデルのような体型だ。かたや、このドレスは、低身長で華奢な人に適した肩口のデザイン。骨に存在感がある人は避けた方がいい。


 加えてシフォンやレースをふんだんに使用しているせいか、骨張ったアメリアの体がドレスの上からでも露骨にさせてしまう。もっと厚みのある生地で、上でなく下重心にしなければ、彼女の魅力が発揮できない。


 私は、デッサンノートにこのドレスの改善点を修正案としてデザインしていく。

 (ここは、こうで。これはこの生地を足して。髪の色に合っていない水色を隠すように・・・)


 「す、素晴らしいです!アメリア様!なんと素敵なドレスでしょう!!」

 そばで見守っていたフロリーが感嘆の声を漏らした。

 私が書いたデザインがを見て、新しいドレスの構想が間違いないことを感じさせてくれる。それで満足した私だったが、彼女はドレスを作り直すよう助言した。

 

 「いい。直すほどこのドレスを着るつもりはないもの。」


 因縁のドレスというのもあるが、それ以上に私はお洒落に物臭なのだ。どんなドレスでも着れさえすればいい。

 だが、彼女もまた強情なタイプだ。


 「いえ着るドレスもないのにそんなわがまま仰らないでください。それとも、以前のような体型にお嬢様が戻せるというのであれば私は何も言いませんが?」

 ここまで苦労かけたフロリーの発言は非常に説得力を持っていた。


 こうなってしまった原因は紛れもなく私にあるのだから、この場で具体案も出さず、彼女の提案を無視しては関係性にヒビまで入る予感がする。フロリーがいなくなっては生きていけない私は、渋々了承した。


 「分かったよ、直して着るわ。」


 「よかった。あっこちらのドレスは全てお嬢様がデザインされてみてはいかがでしょう!

 お嬢様にこんな才能がおありならば、その方がよろしいかと思います!」


 とんでもない熱量で私に訴えかけるフロリー、まるで私の扱い方を理解したかのようにも見える。

 当然先ほどの理由で私は彼女を無視はできないし、確かにこのドレスを捨てて新たに買い付けるほどの余裕はない。

 全て着れるように直すのはいい案だが、私が考えたデザインで本当に大丈夫かどうかが不安である。

 そういえば、というように、フロリーは妹のトワイライトの話題をあげた。


 「妹のトワイライト様は、全てオーダーメイドドレスを着られてるんです。しかも、デザイナーまで雇って、最高級と称されるマダム・クロエの仕立て屋で特別に仕立てているんですよ!


 正直、トワイライト様の体型や背丈であれば、既製品のもので十分なはずですが、彼女は決して既製品のドレスを着ようとなさりません。素材?が合わないとおっしゃって。オーダーしたドレスも素材は変わらないはずなのに。


 かえってお嬢様は手足が長く背も高くていらっしゃるので、腰で合わせると上と下のサイズがチグハグで、ずっと歯痒い思いをしておりました。


 お嬢様こそ、オーダーにされた方が良いとずっと思っていたんです。だからこの機会に全て作り直してください!ぜひお願いします。」


 彼女なりにアメリアへの苦悩や歯痒さを着こなしの手伝いを通して感じていてくれたようでそれがなんとも嬉しかった。  

 私は素直にコクリと頷く。


 「そうね。じゃあ、これはこの通りに直してもらって、オーダーはデッサンがたまったら仕立て屋を探すわ。その間は乗馬服で対応する。それならいいでしょ?」


 フロリーは今までにない満足げな笑みを浮かべ、散らばったドレスを片付けると早速直しにいくと飛び出していった。

 私は出ていく前に入れてくれた紅茶を飲んで、ようやく朝から怒涛の着替え合戦の決着が付いた安堵感に包まれた。

 ふと昨日の北の化物が頭をよぎって思わず身構えた。

 月明かりに照らされた魔物のような恐ろしいオーラを放つあの存在。


 (あの立ち合いを思い出すと、今でも震えが来る・・・)

 近々医療部隊の件で、次の計画を実行しなければならないし、しばらくおとなしくしようと思った今日この頃である。



 ガウンを着たまま食べて寝てを一通り行い、一日開放感に包まれて過ごした。

 一通りなまくら坊主で過ごすと、ふとあの事件の犯人を思い出しベッドから飛び起きた。

 デッサンノートの最後のページに彼らの特徴を思い出しながら、人物像を描いた。


 「一人は癖毛のある少し眉毛の太い・・・もう一人は、バンダナをつけた・・・」


 前世での任務の際、私はこの犯人像の提出を求められ事も少なくなかった。

 私は見たものを記憶する能力があるので、それがこうじて前職につけた節が大きい。

 あえて囮りになり、前に出ることせず犯行を見届け逃すこともあった。

 現行犯逮捕にこだわらなかったのも、細かな描写を記憶できるので後でいくらでも終えるからだ。


 でも今回は、遠いし暗がりだから正確さに欠けるかな。


 (あの後、彼らは捕まっただろうし、王都の調査団は彼らの正体を突き止めているはず。

 私は彼らの正体を独自に調査するしかない。)


 書き上げたデッサンを見ていた私に、珍しくこの屋敷の使用人が自室の戸をノックした。

 軽く返答をすると、使用人はそのままドアの外で話し始めた。


 「本日、皇太子殿下がお見えです。応接室にご準備をお願いいたします。」


 (は?なんですって!?相手の用事を確かめず、今から行くから準備しろだなんて。なんて迷惑なのの?!フロリーもいなければ、来ていけるドレスだってないのに!!)


 あまりの衝撃で私は原作のある一幕を思い出した。


 ーアメリア・マーズは、いつもアンソール王子と和やかに話すトワイライトを遠目から見て恨めしく思った。

 

 ’ 私が妹の様に美しかったら、あなたにすぐにでも会いに行けるのに・・・。

 どんなに努力して必死に彼を追いかけても、貴方は振り返りサヨナラと挨拶するだけ。’


 アメリアは行き場のない孤独と怒りを、罪のない妹トワイライトに矛先を向けていくのであったー。と。


 原作では、彼女はトワイライトと王子がいつも仲睦まじく過ごす姿を傍で見ているだけの存在だった。

 美しい彼女は、突然王子の来訪に対応できても、アメリアは対応できない。できるはずがない。

 使用人が一人いるだけの、いつも自室に閉じこもっている少女だ。

 形式を重んじる彼女が軽装で出迎えることも、許されないと、自分だけで用意せざるおえない日もあっただろう。

 「婚約者」としての立場があるからこそ・・・。

 ようやく準備をして出てきた頃には彼と過ごせず、最後の挨拶するだけ。


 (これはただ美しい妹を自分勝手に妬んでるシーンじゃないんだ。

 今日みたいに何の知らせも無く突然来訪して、いつも彼女を困らせていたんだわ。


 急揃えで支度をしたアメリアに対して、その間十分トワイライトと過ごした王子は満足すると、何の断りもなくそのまま帰るんだ。必死に用意させておいて何て意地悪い真似を!)


 私は急いで、この事態の対処にペンを走らせた。そのまま外で待つ使用人にある手紙を差し出すと至急対処する様にきつく申し付けた。 

 (私に喧嘩を打ったなら何倍にでも返すわ。不躾王子様。)


 今回も私をハメて格好の笑いのネタにするのでしょうけれど、そうはさせまいと闘志を燃やす。

王子はまさかの事態になることも露知らず、北の化物を引き連れて呑気にマーズ家の邸宅に足を踏み入れようと外縁の門に立つのだった。


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