mission 13:着れるドレスを探し出せ!(前編)
【皇宮内会議室】
「さて、議題は全て上がったが、これで終わりか。他、報告あるもの。」
アンソール王子が最後の掛け声を行う。これで声が上がらなければ、議会は終了。王子は席を立ちこの場を去る。
今世紀最大の安全が保たれた王都の会議は、些細な提案を数題議論したのち、この締め括りで幕を閉じる。
だが今回は、隣の席のマーク伯爵が手を挙げた。
「先日、首都西側十三番街の通りの裏路地の一角で、ゴミ箱が燃やされる事件が発生しました。その場所は裏手に木造小屋があり、その火が上がれば、通りが大規模な火事になるはずでした。
犯人はスラム街で多数の目撃情報があり、おそらく雇われた手下です。発見当時、大量危険薬物が入った箱を手にしていました。
身辺を捜索していた部隊が彼らの悲鳴を聞き、捕まえるや否や、その後突然泡を吹き倒れ、今は意識がありません。
身体調査した所、奥歯に薬玉を仕掛けられた跡があり、拘束時に歯を食いしばった事でこの薬玉が破れ、中毒症状を起こしたと思われます。」
「それで、火事はどうなった?」
王子は、書類を見つめたまま事実だけを確認し、結果を急かした。
「これは何者かによって、消化材のようなもので消し止められており成分は現在調査中です。」
『さっきから聞いていれば何も調べがついていないではないか!!』
アンソール王子は、伯爵の報告に苛立ったのか、書類を机上に叩きつけ怒鳴った。
北の王子は無表情で「申し訳ありません」と頭を下げる。
それを見ていた大臣たちもクスクスと笑い出し、うち一人がその議案について笑いとばした。
「いやぁ、安全な首都では、そんなわけのわからない犯罪行為の’真似事’が流行っているんでしょうな。伯爵がそんな険しい表情で訴えるほど、真実はそう物騒じゃありませんよ。わざわざ事件にでっち上げて報告などしなくとも。」
ここで長卓はさらにドッと笑いが起きた。
マークは何をいっているのかさっぱりわからず無言でいると、それをも馬鹿にしたように嘲笑する声が上がる。
その大臣はさらに調子づき伯爵を揶揄った。
「要はスラム街の青年が薬決め込んで、いたずら目的で、ボヤ騒ぎしたんでしょう?薬物を手に持っていたなら、そうじゃありませんか。軽い気持ちで火をつけたら予想以上に燃え広がり、慌てて用意してた何かで火を消したのですよ。
自作自演の犯人ほど、臆病者が多く未遂事件も多いと言いますしな。」
同意を求めるように、あたりを見渡し、彼らもまたうんうんと頷いている。
次に別の家臣からは、このような声が出始めた。
「それが本当だとしたら、あなた方の部隊の追求がひどく乱暴だったんじゃありませんか?薬物をしている者なら特に慎重に対応するべきだったはずです。
犯人を行き過ぎた捜査や警備を行なった事で今後彼らの容態が悪化し、万が一にも死亡した場合それが事実なら、部隊を率いるあなたにもそれ相応の責任を取ってもらわねば!」
周囲はその発言に周囲の盛り上がり始めた。
矛先はまさかの伯爵側に向けられ、議会が異様な雰囲気に包まれる。
真実はすっかり葬られ、犯人死亡の責任を問う話にすり替わっている。
だが、この状況でも淡々と正論を放つ伯爵に軍配が上がる。
「では聞きますが、騎士が彼らを捕まえるまで、彼らはしっかりと逃げ道について話し合うほど冷静に逃亡しておりました。
その過程で果たして、'薬物に溺れた逃亡犯'だという判断は下せるでしょうか。
なおかつ、犯人を取り抑えた時点で彼らは泡を拭いて意識を失ったのです。
取り押さえるだけの行為はどの部隊でも適性に行われいます。誰がその時点で死ぬなどと予想できましょうか。
さらに、今回火を消す方法として、何かの材料が用いられましたが、皆様はその存在を存じていらっしゃるのですか?
我々には魔道具があり、もしも不測の事態が起きればそれらを用いますが、それでも火柱を消す方法など高度な魔道具でなければなし得ません。
今回薬品や材料で火を消せる事をこの事件を通して我々は初めて知った次元の話で、では誰がその情報を得て作り、わざわざ金の持たぬスラム街の青年が、所持使用まで至ったのか。彼らが知っていて、我々が知らないということ自体があり得ないのです。
これでもまだ、'悪戯レベル'の愉快犯だとお思いでしょうか。」
「だが!実際にその真実を知るはずだった貴重な証言者(犯人)が意識不明なのは事実だろう!その責任は、あなたにあるはずだ!」
「私に責を取るのだとしたら、現在の職を辞し、故郷にて職務に戻るまでですが、今回部隊が彼らを確保しました。
責任を負わせたいとお思いであれば、王が取らざるをえませんが、いかがしますか?」
先ほどまで息巻いた彼らが、これには皆が何も言えずに罰の悪そうな顔をしている。危うく不敬罪になる所だったからだ。
その様を見届けていた王子が皆を諭した。
「おい、いい加減にしないか。ここで言い争って何になる。マーク、お前もその愚直さをどうにかしろ。喋れもせん魔物相手なら構わんが、ここには嫌味も言う'人間'がワンサカ居るのだぞ。その発言一つ一つに噛み付いていては仕事にならん。」
「大変失礼いたしました。アンソール殿下。ここは北部のように忠実な家臣ばかりでない事を忘れていたようです。」
北の化物が無愛想に席を立つ王子を連れ立って部屋を出ていく。残された大臣たちは皆、しばらくその場から離れられずにいた。
その後二人は、先ほどの話の続きをしながら進む。
王子はマークの言い草を気に入らないと言いたげに先ほどの質疑を持ち出した。
「先の発言は、まるで私の側近を直ぐに辞しても構わないと言いたげだな。
君のような人間が、私のお守りで役不足と言いたいのか?これは、王命だぞ。その自覚を持ちたまえ。」
「申し訳ありません。」
またもマーズは無表情で謝辞を示した。その顔つきに納得のいかない王子が横目で彼を見た。
王子はマークの存在を疎ましいと思いながらも傍に置き、その行動を制限していた。
彼もまた、王子の真意に疑問を持ちながら、己の職務に全うしている。
(殿下は、変わってしまわれた。
学生時代、あの頃はこの国と民に想いを寄せられ、様々な展望を夢見てらっしゃった。
だが、私が首都へと戻ってきた時にはすっかり彼は変わってしまった。
あの令嬢と親しげになられてからはさらに、この国の政治にも興味を失くされたようだ。
今もこうして戦事の話になると面倒ごとのように考えてらっしゃる。)
「そのようなつもりはありませんでしたが、ご気分を害したのであれば、謝罪いたします。
他続きの情報として、彼ら以外にローブを着た刺客と一線交えましたが、こちらも拘束は敵わず見事に巻かれました。
重ねてお詫びいたします。。」
彼の失態を知った王子は機嫌を戻すと、嫌味たっぷりで鼻を鳴らし、ポンと伯爵の方に手を置いた。
「先ほどから、犯人の証言を逃し、物証が焼失し、逃亡犯すらまともに確保できず、お前らしくない失敗ばかりだな。北の化物も、この首都では、役たたずという事だろう。爵位の件も考えなきゃいけないな・・・」
「はい、お言葉通りでございます。では引き続き捜査に参ります。」
一礼し立ち去ろうとしたマークに、彼はまだだと言わんばかりに、肩に置いた手をギュッと握り締めた。
「いや、それは他の者に任せろ。お前は俺と一緒に来てもらう。」
「・・・・・。」
王子は北の化物を連れてある場所へ向かおうとしていた。
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ーアメリア自室にてー
「それも無理かしら・・・・」
「はい、上で支えて入りません・・・」
「そんなぁ・・・」
私は朝からクローゼットのドレスを片っ端から試着し、至る所に着れぬドレスが散乱している。
その度にフロリーに着こなしの手伝いをしてもらっているのだが、どれも胸の部分に支え入らなくなっていた。
壁の柱に突っ伏した私は、ただただ情けない声を上げるだけである。
あれから、武術剣術の自己鍛錬に励む傍ら、今まで栄養失調気味のこの体に栄養を豊富に与えまくった。
食は体づくりの資本である。痩せっぽっちの体型では取れるバランスもクソもない。
しっかりと地に足をつける為の筋肉育成は、食べることから始まった。
この体は元々アレルギーもあるようだ。特に謙虚なのが乳糖不耐症である事。
度々、牛乳が使われた食材で体調を悪くしやすく、料理長に乳製品の混入を重々注意させた。
だが、食材が少ないこの異世界で、乳製品の栄養補助の部分は非常に大きい。
私も、発汗後の牛乳を飲む習慣をここでも維持したく、ダニエルに依頼し手に入れたすり鉢で料理番に豆乳を作ってもらうようになった。
料理番は何かの罰かと思っているのか、毎日頑張ってやっているおかげで豆乳を飲むのが習慣となった。
それからというもの、肌に赤みが刺し健康的に動けるようになった。
’しかしこの体は、まだまだ成長期だったのね。胸の膨らみが一気に増し、そのせいかアメリアが所持していたドレスがどれも入らない。背筋もちょっと鍛えちゃったからそれもあるだろうけど、ドレスのことまで考えてなかったー!!!’
あの一件で私は対戦強化も想定した鍛錬で少々やり過ぎてしまったことを後悔した。
困ったことになったと、我々はこうして朝から着るものを探して悪戦苦闘していた。
「お嬢様、普段から肌の露出が少ないドレスばかりだと思っていたのですが、どれも首までしっかり襟詰されたドレスばかりで、このデザインですと調整が全くできません。皆様がお召しになる胸口が空いたドレスが一着もないんですもの。」
「・・・・。」
それには理由があることは、もちろん原作を読んでいる私なら知っている。一切の肌を露出したくないのだ。
あの一件から特に上半身の露出は、足首を見せるよりも屈辱だと言えるだろう。
フロリーはいつまでもバスローブ姿のアメリアが居た堪れず、必死にクローゼットを漁った。
「何かあれば・・・あ、これなら!この1着なら、胸元の開いたドレスです!」
クローゼットを片っ端から探し回っていたフロリーは嬉しそうにある1着のドレスを手にしてきた。
そのドレスを見て私は思わず声を漏らした。
「この・・・水色のドレスは・・・」
そのドレスはあの忌まわしきトラウマシーンでアメリアの記憶で最も胸が痛いと感じたあの時のものだ。
そう、パウロ男爵と出会ったチャリティパーティで、「ピエロ」と罵られた時の着用ドレス。
「ねぇ、本当にこれしかないの・・・?」
私は苦笑しながら彼女に尋ねたのだった。




