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Mission10:叔父を追及を逃れよ!

 私は少しづつだが外出する機会を増やした。主に突如解散された医療部隊の調査の為だ。荒らされた寄宿舎などの証拠品を集め、湖の現場検証も行なった。

 ある日、いつも通り調査から自室に戻る道中、外苑の渡り廊下の奥から齢五十ほどの貴族がこちらに向かってやってきた。昔ながらの格式ある三つ編みを後ろで結った燕尾服を着た男性。実にフォーマルと言ったスタイルを今も貫くのはあの方ぐらいだ。


(あの人がエルカルロ叔父様ね・・・。参ったな。突然現れるなんて。この世界に来て、はじめて会うから二人の関係性がわからない・・・だけど挨拶をしないわけにもいかないし。)

 彼は一人で屋敷を歩いている。解散した部隊の宿舎に向かうかも知れないが定かでない。


 お互いに自然に目が合うまで、それとなく景色を眺めるフリして距離を縮めた。

 頃合いの距離に近づいて、練習した彼女に真似た挨拶をする。

 アメリアはきちんと礼儀を叩き込まれた身だ。今は、教えを乞う必要のないレベルまで達している為、できて当たり前のそれを二週間前にアメリアになった私が、それをせねばならない。


 彼女になって一番厄介な事は、まさしくレディの振る舞いだ、今日は身内だから簡易的に挨拶したと言い訳できるが、それ以降は、周囲に気づかれずに習得する必要がある。

 (これから物語が進むに連れて、求められる振る舞いもあるはず・・・、いつまでも部屋に閉じこもってもいられないし。)


 ことエルカルロとアメリアは、敵対関係ではない。むしろアメリアを兄妹の中でも一目置いている。

 なぜなら、それが一重に「王子の婚約者」としてのアメリアの地位にある。小説でも彼女を終始気遣う場面が見られた。

 幼少の頃、両親がアメリアに対して厳しい言葉をかけ続ける中で、彼は度々屋敷に訪れ、アメリアを喜ばせようとを熊のぬいぐるみを渡すシーンがある。


 そのぬいぐるみを抱き眠る姿が度々描かれた。彼女はたった一人の友人を得て私もほっとした気持ちで読み進めた。

 あの頃のアメリアにとって何よりも大事な宝物だった。

 

 (ま、そのぬいぐるみもあの虐待部屋で母親から無残にも引きちぎられ燃やされで、灰となって散るのよね。。はー・・・アメリアの母親は本当に狂ってる。)


 そんな激動の幼少期だからだろうか、小説上、叔父の登場はほとんどない。

 それぞれが強烈なキャラクターを放つ中、”いい人”である彼は、いわゆるモブだった。


 父に比べると剣の才はからっきしみたいだから、戦場いくさばに向かうのはいつも父みたいだし。


 だがそれは、「小説上の彼」であって、見た感じはと言うと・・・。

 今家長に変わってこの家を守る真の姿は、けしてモブなんかの雰囲気とはまるで違い、まさに宰相クラスの切れ者だ。

 品のある佇まいと落ち着いたネイビーのオーラ、優しそうな表情の奥に鋭い瞳を隠し持つような「頭脳派」の印象を強く受ける。


 さらに感情の乱れが一切見えず、逆にこちら側が見抜かれているような気がしてくる。

 この私が思う。只者ではないと。


 「ご機嫌よう、エルカルロおじ様・・・お久しぶりですね・・・。」

 

 間柄が不明瞭のためどれくらいの口調が正しいのかわからず一瞬たじろいだ。

 それをやはり気付かれたか、叔父はふっと嫌味のない微笑で返した。


 「ヤァ、久しぶりだね、アメリア。君から挨拶するとは珍しいじゃないか。私を見かけても、どこかに雲隠れしてしまうのに。」


(えっアメリアってそんな無礼な態度していたの?!じゃぁ無理に挨拶なんてしなくてもよかったじゃん!)


 「そ、そうですね。恥ずかしがり屋なもので、どうしても、素直になれず申し訳ございませんでした。今までの無礼をこの場で謝罪いたします。これからは気をつけますわ。」

 

 「そうかい、そうしてくれると嬉しいよ。それよりアメリア体調はどうだい。何やら、行き過ぎた治療で痣ができたそうじゃないか。」

 

 兄妹たちから聞いたのか湾曲してはいるが、私がひどい目にあった事が伝わっているようだ。

 彼らだけに事情を話されては、彼女の名誉が損なわれてしまう。彼ならば、差し引きで合理的な判断を下すはずだから、私の主張が通るかもしれない。婚約者として注視する部分はメリットでもある。


 兄弟達には、彼の家長代理を務める行為を彼らの目線で乗っ取る等と誇張したけれど、私は彼が家主を狙っていること自体は悪いこととは思わない。小説上の彼は、せっかく反映した父の功績をここで途絶えさせたくないと考えていたようだった。


 (結局最後は、メインキャラ達の愛と執念の愛憎劇でそれどころじゃなくなって、終盤出てこなくなるけど。)

 きちんとアメリアの人権が保護されれば、そのまま彼がこの家を管理してもいいと思っている。


 それに、私は父であるミカリオス・マーズに一度も会えていない。

 憑依前からアメリアは父との関係性が険悪だった。前世の私と父のように。

 彼が、病床に伏している現状は知っているが、私から彼に会いにいくのは違うと思っている。

 だから、もしシェームズが目を覚さないのであれば、この人が家長になるのがいいだろう。あの兄弟に比べるとずっと。

 だったら、あの事件のことはしっかりと私の口から真相について話すべきだろうと思う。

 その上で、協力はできないかも知れないが、この屋敷で一人だけ真実を知る存在を作ることも大事だ。


 今後の私への配慮もしてくれるに違いない。

 トワイライトが無理だった以上、ここは叔父に相談してみるのもいい。


 「ちょうどよかったですわ。きちんと私からも説明し・・・」


 「すまないねアメリア。丁重に扱ったつもりだろうが、彼らもアメリアの治療に熱を入れすぎたみたいだ。

 マーズ家が誇る衛生兵でも、相手が家主の娘なら緊張して手元も震える。

 出血なしに包帯なんて張り切りすぎたせいだが、もちろん悪気があったわけじゃない。


 あの子達もそうだ。

 あんな事故が起きてしまったのに、私は屋敷にいなかった。あの子らだけで対処するには非常に荷が重かったと思う。

 下手に医者を呼ぶより医療部隊に任せた。家のものならその優秀さを知らない人がいないからね。

 

 ・・・とはいえ、このような事態になるとはな・・・・さぞ部隊は自分たちの不甲斐なさに気を落としただろう。

 だからこそ、自ら解散を宣言した。

 あの子達も、長年支えていた間柄である事に目を伏せ、個人的な感情を堪え一線を引き、彼らの判断を尊重した。

 私は、この残念な事故を通して、皆が成長するきっかけを与えてくれた、そのいい機会だったと感じる事だできたよ。」


 一人で納得している彼の妄想を一通り聞かされた、私はどんどん怒りを覚えた。

 このままその妄想を聞き流し、それを総意にされては、二度とこの話題を掘り返す事ができない。


 「申し訳ありませんが、叔父様、色々と誤解があるようです。あればまだ事故だと断定されてません。

 少なくとも・・・私の認識では、そうです。」


 この主張に、彼の右眉が微かに動いた。

 私も、証拠がない状況でこの発言を公にしたくない。方向を変えて対話出来ないか試みる。


 「今回の処分も、本当に自らが決断し、辞表を出されたとお思いですか。

 彼らがここを去れば、ノウハウの無い衛生兵と一緒に働くことになります。給料だってそうです。

 叔父様も言う通り、彼らは、我々を幼少期から知るほど長年マーズ家に使えた部隊です。その部隊が果たして、今までのプライドを捨て、他方の兵士と一緒に肩を並べて働けるでしょうか。


 何より、部隊の推薦状なしの解散は、その部隊そのものの信用を欠く事態です。

 マーズ家が推薦状を書かないとなれば、彼らに問題があったと思われるのも周知の事実。加えて今は、数年前の大々的な魔獣討伐に成功し、北部の厳重な防壁ができた事で、不意の襲撃が無くなりどの隊も席がいっぱいなはずです。


 例え募集をしていても、解散に陥るほどの問題を起こした彼らをわざわざ採用するでしょうか。

 私のような令嬢でも計り知れること、本人達が分からないはずがありません。なのに、頑なに”自ら”と主張するのは何故でしょう。」


 私の口弁に苛立っているのか、彼の穏やかな顔つきの奥にある眼光は鋭い。苛立っているのだろう、強く手を握り締めてもいる。

 「あぁ、アメリア。国の事、兵のこと随分と勉強しているのだな。

 そうだな。いま首都は、今世紀最大の安全が保たれていると言われている。

 だから通常の騎士団の増員も不必要なばかりか、衛生兵の増員など、必要ないと考えての発言だろう。

 だが、アメリア。


 毎年、魔物退治に明け暮れている先鋭部隊筆頭騎士、あの”北の化物”は、首都にいる。王子の側近としてな。

 何故だかわかるか?

 どうやら自国で暴動や犯罪行為が過激化しているそうなんだ。


 その証拠に、昨年の射営会で王子が使う銃が何者かによってすり替えられ暴発した。被害を受けたのは主催者の一人だが、今年はそれ以上の事件が起きるのではと危惧されている。その為、勃発する犯罪行為の調査と王子の護衛に”北の化物”が選ばれたんだ。

 

 自国でもしクーデターが起きたら、一気に死傷者が街に溢れる。もしも病院などを襲撃されれば、機能できるかも怪しい。

 そうなるのを防ぐ為に、王国が万全を期しそれを部隊が知っていたら?

 たちまち部隊は国直属で任命されるだろう。

 彼らもそれを見越して解散したとしたら、辻褄が合うだろう?」


 「そう・・・なのですね。それが本当なら派手に解散宣言した医療部隊は何をせずとも王の耳に届く。兵の強化を考えていた頃合いに、推薦状のない状態の優秀な兵がでいれば声もかけやすいと・・・。

 で、ですが、この平和な王都にクーデターなんてそんな物騒な事件が起こると言う発想は少々、喜憂ではないですか?そんな都合の良い話を彼らが信じるとでも・・・・」


 「そういえば、私に送られてきた書類の中に、こんな手紙が紛れ込んでいた。」


 待ってましたとばかりに彼は手札として差し出したのは1通の手紙。

 アメリア宛の一枚の手紙だ。それを高く広げ、彼は私の目の前でちらつかせた。


 (手紙・・・?何、このタイミングで。)

 そこに書かれたサイン、あのゴム印に息を呑んだ。

 私の動揺も踏まえて、彼は口弁がスタートする。

 

 「ああ、この穏和に満ちた世界を、敢えてぶち壊そうとする人間などこの首都にいるはずもない。

 そんな奇行を嬉々として行う奴など・・・それほどの狂人は・・・・あぁ、この「成金男爵」くらいだろうか。


 パウロ・レバデロ、彼の父はいくつも訴訟を起こされている有名人だな。その息子もまた、問題行動で度々タブロイド紙に名が載るそうじゃないか。

 その成金男爵の名が、何故だろうな。アメリア宛の文にも同じ名が書かれている。

 

 アメリア、お前の婚約者はあのアンソール王子だと言うのに、隣国と商売が盛んな男爵家の息子パウロと何故お前が通じているんだ?自国に危機が迫っていると言うのに、売国奴と噂まで出ている彼と熱心に手紙など・・・。

 アメリア、お前が賢明な子ならば、今ここでこの手紙を読んでくれないだろうか。」


 (やられた!全てはこの為にあの事件の事を持ち出したんだ!

 わざと神経を逆撫するような言い方をして。コイツ。やっぱり只者じゃない。

 アメリアも、もうパウロと通じている仲だったなんて。だから、その追及を逃れるように、彼を避けて行動していたんだわ!

 くそ。そこまで考えが回らなかった。)


 「どうしたんだ?アメリア。彼との手紙を、公にできない理由があるのか?もしも、この手紙に書かれている内容がそのまさかの内容次第では、反逆者として重罪だぞ?私は君の叔父だ。彼のような奴と関わるお前が心配で心配で堪らないんだよ。

 だからこそ、そんな心配が吹き飛ぶよう今ここで証明するんだ。さっ読むんだ!」


 (やばい、もしもパウロと通じていたとなれば、この手紙の内容は十中八九犯罪行為の計画が書かれているはずよ。

 これを読み上げれば、彼の言う反逆罪でたちまち牢獄行き、首を跳ねられかねない。私は医療部隊を追っている場合じゃなかった。私の命はまだ狙われていたんだ・・・どうすれば・・・!)

 

 焦りの中私は手紙を持ち、観念して彼の前でその手紙の内容を震えながら読み始めた。


 「敬愛なる、アメリアお嬢様。

 この度は、長い闘病生活大変ご苦労様でございました。」


 「・・・・(エルカルロの鋭い視線)」


 「急ではございますが、私は、早速あの話がしたく、お手紙を差し上げた次第です。」


 「!!」


 「・・・男は皆、総じて自分から積極的に行為に及ぶとお思いでしょうがそうではありません。それは紳士にとって非常大きな山に手をかけるほど恐れ多い行為です。。例え、多くの女性と関わる機会の多い殿下でさえも。」


 「・・・?(叔父の奇妙な視線)」


 「私が今まで培ったとっておきの秘策を伝授します。まず熱い抱擁を交わし、殿下の緊張を解したところで、耳元で囁いて見てください。私は殿下のものですと。」


 「!!!!!!(こ、この内容は、まさか・・・!)」


 「緊張しているそぶりを見せたら優しくリード・・・・」


 「や!やめろ、やめるんだ!アメリア!もうそれ以上はいい!」


 「あら、パウロ男爵の折角の指南書ですのに、もうよろしいのですか?「初夜の手ほどきが書かれた手紙」を読み上げるのは。それにしてもパウロ男爵様が有名な方だと叔父様もご存知だったのですね。夜の帝王だと言う彼のことを。


 私も社交界で彼の噂を知っていて敬遠していたのですが、所作が完璧な私も、あの、初夜の相談だけは誰にもできずに困っていたのです。下賤と罵らず話を聞いてくれる方はパウロ男爵、彼の他に誰もいませんでした。

 恐る恐る彼に手紙を出したら、それはもう、熱心に指南してくださいまして。」


 納得していない様子のエルカルロは、疑いの目を向け疑問を呈した。

 「では、何故私を尽く避けていたんだ!」


 その質問に私も白々しい演技で答えた。

 「だ、だって・・・叔父様、この内容を読んだ日には恥ずかしくて恥ずかしくて、殿方と言う殿方が恥ずかしくて見られませんもの。」


 彼はとっさにそっぽを向いた。紳士を重んずる彼にはこのような話題が飛び交うだけでも、絶えがたいはずだ。予想は的中し、彼はすぐに退散する。


 「もういい。詮索して悪かった。これからはこの様な手紙のやり取りはやめる様に。」

 「かしこまりました。もう二度と致しません。」

 深々と挨拶し、彼の去り際を見送ると、私はようやく緊張感から解放された。


 (ふぅ、なんとか乗り切ったけれど、叔父様も私の追放を願う的だったとは。それに事態は思っているより進行していたみたいね。(パウロ・レバデロ)もう彼と接触していたとは。ここに書かれた手紙の内容を、早く確かめなければ・・・。)


 私も急いで、自室へと戻った。



 


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