Mission9:隠し部屋を見つけ出せ!
人は中途半端な生き物だ。
存在は群れであり、自我は個である。その線引きを行き交うのが人であり、人の善悪も同義だ。
だが、その境界線を器用に往来できるものは少ない。それは態度や習慣で現れる。
日常生活において嘘が混在する時、言葉と顔の表情が合っていない事象が起きたり、特異なクセが日常化していたりと、自分ですらその違和感に気がつかない程、人は心と体が矛盾した状態になると違和感が生じる。
私はまずそれが「目に入り耳に残り、鼻につく」人間だ。
自慢話で核となる部分を言わず賞賛を得る人や、問題を理解する客観性とは真逆の行動を取り続ける人、色んな違和感を抱えた人を見るとその真髄にたどり着きたくて仕方がない。
おかげで昔は余計なことを言って嫌われていた。
大人になってそれが前職の業務遂行の主軸となる。私は気づいた事をそのままにしていても良くないことが起きる事を知っている。
危険な任務を遂行するにあたっては特に無視できない。
私が死んだ原因となったバスジャック事件、最初はたまたま出張先で乗り合わせたバスの車内で見かけた犯人の不自然な行動だ。
地元では利用者が少ないICカードで乗り込んだ男は、旅行鞄を持たず軽装で空港行きの路線バスに乗った。
該当の路線バスは特別に首都高速の乗り入れが許可されている。
その男は乗り込んだ際、辺りを見渡す様に乗客をチェックする素振りをし、運転席から見える後方確認用ミラーの位置らを仕切りに気にしていた。
極め付けに、首都高速から高速への分岐点となる名前のアルファベットをメモに残す姿を覗き見た。
空港到着後は、また復路に戻る彼の姿を確認し、彼が乗り込んだバス停を監視した。
男はわざわざ遠方の地で犯行を及び、その方法をこの路線バスの乗客を標的にした瞬間だった。
犯行当日、もちろん私も同乗し、思惑どおり高速分岐を彼は指示し、その先のPAに全て、捜査員を配置させ、給油タイミングで彼を金の受け渡し場所を誘導、引き換えに乗客の身柄を保護を行った。
工事作業に見せかけた事前の道路封鎖、追撃連携の末、彼を埠頭に追い詰めて逮捕劇だった。
’結局私だけが死んで、目が覚めたら皆に厭われ悲惨な最後を遂げるアメリアになっているし・・・ほんと私の人生っては困難の連続だな。’
さて本題、実はアメリアも’違和感’を持った人物だ。
彼女は、婚約者の殿下に相手にされなかった腹いせか、はたまた幼少期の愛情形成取得に失敗したせいか、ある日突然成金男爵にまんまと溺れ、悪の道に引き摺り込まれる展開になる。その後は彼の為に諜報員として活動する様になる。
元々親の代から、国外との不正なやり取りを行い財を成した彼が、とうとう息子の代になると調子に乗って国の崩御を企む様になる。それに彼女が利用された。
彼の動機は知らないまま、唆され犯罪行為に手を染める。
しかしこれにも’違和感’がある。
あまりに序盤の展開が作戦通りに進むからだ。フィクションと言ってしまえば終わりだが、今ではここが現実世界。
理屈なしに語れない。
これまで外出は愚か、武道の経験もない彼女がそう簡単にスパイ行為ができるわけがないし一番驚かされるのは、淑女ながら度胸がある事だ。
あまりに優秀すぎるその姿は、鳥籠の淑女とは思えない。
その答えは、この自室にあるに違いないと思っていた。彼女は1日ここで過ごしているからでもあり、この部屋のレイアウトがすでにおかしい。
調度品を見ると、全て彼女なりセンスが感じられる。
アイボリー色の陶器を好み、バロック様式のホワイトラインで揃えている。特に真鍮で一癖ある装飾の家具を好んでいるが、全くこのこだわりを無視した家具が一つある。
北側の壁一面の本棚。
この本棚はオールウッドの無骨なデザイン。規模と重厚感があり、この部屋に圧迫感を与えている。
自室に閉じこもる彼女ならこれだけ大きな本棚も必要なのかと思ったら、どれも新品同様に綺麗な状態だ。
「お嬢様!こんなに散らかして何をしているのです?!」
フロリーが他の業務を終えて自室に来るなり声を荒げた。
「あらフロリー、ちょうどよかった。」
私は呑気に振り返る。
フロリーが目にした私の姿は、本棚から本という本をひっくり返すまるで5歳児だ。驚くのも無理はない。
「お嬢様のご乱心だわ!」
「ハハ!もう何言ってんの。そんな事ないわよ。」
「ではどうして、そんなに本を散らかしているのです?!探し物ですか?」
「そうね、探してはいるわね。
ねぇ、この本棚変じゃない? だって本のサイズとぜんっぜんサイズが合ってない。」
私は、全てなぎ倒した本の山から一冊辞書ほどの大きな本を手にとり木枠に直した。
すっぽり入るのを見て、彼女は何を言っているのかと首を傾げた。
「内側の木枠はね。だけどこうすると・・・」
本棚の縁へいき、外側から本を差し込む様に入れる動作をすると、奥行きがあまりにも広い事に気づく。
フロリーは(あっ)と声を漏らしたが、すぐに別の意見で返した。
「そういうデザインじゃないんですか?」と。
アメリアは、外に安心感を得られなかった。この部屋を一歩外に出ると、世界は自分を脅かす。
この部屋だけは、彼女の安心できる場所だったはず。
こだわりのインテリアで揃えた唯一落ち着ける空間にこんな杜撰な設計の本棚を、そのままにしておけるはずがないのだ。
「じゃあフロリー、これを見てみて。」
私は、カップ型のキャンドルスタンドを持ってくると、本棚の中央でしゃがみ火元をそっと本棚に近づけた。
すると、キャンドルの火は本棚の中に吸い込まれる様にはためいている。
明らかに空気が奥に吸い込まれているのがわかる。
「この先に何かあるわ。」
フロリーは何度も訪れた場所に自分の知らない秘密が隠されていることに大層驚いた様子だ。私は本棚の最下段の縁が傷ついているのを見て、この本棚の仕掛けを理解した。
立ち上がり傷ついた場所のちょうど真下の木枠足を入れ、ヒールの爪先で木枠をつついた。
すると本棚が自動で前に動き出し、観音開きで本棚が開いた。
外側のフレームは空洞だったが、中央には物々しい石造りのドアが現れ、扉を開くと石畳の地下通路が現れた。
「お嬢様、ドアが!ドアが!」
興奮気味のフロリーが一緒に中に入ろうと、私の腕を掴んだが、そっと彼女の手に手を重ね、私はにこやかに微笑んだ。
「あなたは、ここで見張りをしていて?」
「そんな・・・」
呆気にとられるフロリーを残して私はキャンドルの灯りを元に物々しい階段をゆっくりと降りていく。
彼女が連れてこないのは、この先に何があるのか私はなんとなく知っているからだ。
そしてたどり着いた先の風景を見て、私は思わず息を飲んだ。
「これが彼女の違和感の理由なのね。」
まず初めにたどり着いたフロアは、いわゆる独房、母親に何度も連れて来られた虐待部屋。
廊下同様の冷たい石壁で作られたその部屋に釘で打ち付けられた恐ろしい拘束具や痛めつけるのにちょうどいい鞭やハタキが並べられている。
簡素な寝台も備えられ、厠にできそうな小さな穴もあった。
トワイライトがこの家に来る前は、度々ここでひどい折檻を受けていた。原作では、その描写は具体的にかかれていない。
家族の集まりで幼少期のアメリが度々スプーンを落として家族に白い目で見られる描写があるが、挿絵をよく見ると長袖から包帯がちらりと見えている。彼女は痛いでろくにスプーンを握れないほど、ひどい折檻を受けた証拠だ。
理由は明かされていないが、母親のミシェル夫人は相当彼女を嫌っていた。待望の女の子のはずだったにも関わらず。
(アメリアは、この記憶思い出さないように蓋をして忘れてるのよね。でなければ、ここを通って先に進めるはずがない。)
さらに下ると最後のフロアに出る。
そこには洞窟の様な広い空間。そして乱雑に置かれた武具や魔道具。
ここは一種の訓練所だ。
彼女は、日々ここで独学の剣や武術を鍛錬していたのだろう。本を拾い埃を払うと、剣術ノウハウと描かれていた。
ようやくこの空間を見て腑に落ちた。
彼女はいつかここから逃亡して、冒険者になるつもりだったのだ。
彼女は別の生き方を見つけそして努力していた・・・。
それなのに、あの今わしき男爵にまんまと騙されて、今まで努力も全て利用されてしまうんだ。
彼の任務の度ここに来る事も増えただろう、となればあの場所を通る事になる。
例え記憶がないとしても、あの部屋を通って愛する人のために日夜鍛錬をする彼女が容易に想像される。
そこまでして貫いた愛の先を知っているだけに余計に胸を締め付けた。
報われない彼女を想像し目に涙を浮かべそうになった所で、私はそれを振り切るように上を向いた。
私が、泣くのは余りにも身勝手だと思ったからだ。
なぜなら私が一番彼女を殺した原因なのだから。
だったら、これ以上この場所が汚れない様に私がここで終わらせなければ。
冒頭、死後にアメリアに転生した事を悔やんだ自分をはじた。
私のこれまでの経験値はここで活かすために存在しうるとまで思えた。
そして私は誓う、彼女の幸せな人生のために全力を尽くすと。




