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座敷童子、帰れなくなる

「で、出れません……閉じ込められました! よ、妖怪の仕業ですね! 大変ですよ、この家に妖怪がいますっ!」


「まあ、確かに目の前にいるな」


「……はっ!? それとも、これはあなたの仕業ですか!? と、閉じ込めて、私の身体を使って幸福を得ようと……こ、こちとらそういう商売じゃないんですよ!!」


「ちょっと、落ち着け。意味わかんねえこと、口走ってるぞ」


 完璧にパニクっている。妖怪がパニクっている図は少し面白いが、なんか俺のこと変態扱いしてきているのが気になる。


「うっ、うう……ぐすっ。このままじゃ、なんか説教かましてくるパワハラ人間との同棲生活が始まっちゃうよお……」


 座敷童子はこの世の終わりかと言えるほどの絶望の表情を浮かべながら、ポロポロと涙を流している。そんなに、俺が嫌なのかコイツ。


「ぐすっ、どうしよう、こんなことになるなんて。みんな、さよなら……村長もお元気で。……ん? そうだ、村長に聞けばいいんだ!」


 何かを思いついた様子の座敷童子は、着物の内側から携帯を取り出す。iPhoneだ。最新型だ。そして、手慣れた扱いで、電話をかけ始める。


「あ、もしもし! そうそう、初のお務め中です。だけど、なんか結構やばそうな人のとこ来ちゃって、ここやめようと思って家出ようとしたんだけど出れなく……えっ!? あ、……はい。へー……そうなんですね。うん……はい。ごめんなさい、頑張ります」


 だんだんと顔を曇らせていく様子を見て、特に解決策が見つかった訳ではないことは察した。

 座敷童子は通話を終え、その場で立ち尽くしている。


「……そんで。なんだって?」


「一度取り憑いたら、家主に幸福を届けるまで縁を切れないらしいです。あと、そんな簡単に仕事放り出すなって怒られました」


「そうか、それは残念だな。それで、さっきの話しに戻るが、そもそもお前らは日本の伝統ある妖怪としてーー」


「なんで今の流れから、説教に戻ろうとしてるんですか? 空気読めないにも程がありますよ」


「お、おう。悪い……」


 人生の中で妖怪に空気読めって怒られるとは思わなかった。というより、なんで俺が逆に怒られているのか。


 座敷童子はプルプルと体を震わせながら、怒りと悲しみの狭間で何かを葛藤している。そして、意を決めたように顔をあげ、涙目のまま着ている着物をはだけさせ始めた。

 着痩せしていたのか、想定以上の大きい胸の谷間が露わになる。


「わ、わかりましたよ! いいでしょう、お好きにしてください! でも、この座敷童子っ、身体は犯されようと、心までは犯されませんからね!!」


「意味わかんねえから、とりあえず服ちゃんと着ろ」


「それとも、説教プレイじゃないと幸せになれませんか!? いいですよ。私はブヒブヒ鳴いてるんで、好きなだけ罵りながら性欲を満たしなさい! この、変態っ!!」


 どうしよう、なんかだいぶ面倒臭くなってきた。もうどうでもいいから、帰ってくれないかな。あ、帰れないのか。


 そのまま記載したら垢BANになりそうな禁止ワードを連呼している座敷童子に、ため息をつきながら指をさす。


「眠らせろ。かぐや」


(……承知しました)


「大体、他人に幸福届けて、自分には不幸届けちゃうとかって笑っちゃいま……はぐっ!?」


 暴走しながら喚き続けていた座敷童子は、糸釣り人形の糸を切ったかのように膝から崩れ落ちた。眠っている……というより、これは……


「おい、かぐや。これ、大丈夫か? なんか、ピクリともしねえけど……」


(さあ? でも、コイツ低級妖怪のくせに翔也様を侮蔑してましたから。何かバチがあたっても不思議じゃありませんね)


「……とりあえず、起きるまで待つか」


(祓ってしまえばいいものを。相変わらず、お甘いことです)


 姿を表した手の平に乗るほどの小さな少女は、妖精のように飛びながら顔をしかめている。

 俺はそんな少女をつまんで、肩に乗せる。


 座敷童子が目を覚ますまで温かい物でも飲もうと、キッチンへ足を運ばせた。


ナニモノダ

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