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7 地論部の現状

「なぁバッちゃん。一つ聞いてもいい?(カチャカチャカチャカチャ)」

「どうしたのイトケン?(カチャカチャカチャカチャ)」

 放課後、地論部(ちろんぶ)の部室にて。

 俺はここ数日疑問に思っていたことをぶつけてみる。

地論部(ちろんぶ)って生徒の相談事やボランティアみたいなことをするって言っていたよね。(カチャカチャカチャカチャ)」

「うん、そうだね。(カチャカチャカチャカチャ)」

「なのにさ・・・、俺達何もしていないよね!(カチャカチャカチャカチャ)」

 そう、俺が入部して1週間経ったがボランティアらしいことは何一つしていない。

 やっていることと言えば部室内で―――。

「もらった~~!!」

「ギャア!!やられたぜ。」

 TVゲームをしているだけ。(ちなみに今日は罰ゲーム――飲み物の買い出しをかけて大乱闘中。)

「よ~~し、これでまたオイラが優位だね。」

「くそ、まだまだこれから。」

 たった今、ワトソンが扱っているキャラがライダーのキャラを画面外に吹き飛ばして1機落ち。これでワトソン以外が残り1機、という混戦に。

「ちょっと待って。ヤダ、ダメ。」

 残り1機組で一番不利なのはお嬢。

 何でもこの手のゲームは不得意(本人曰く、ゲームはあまりやらない)らしく、操作が覚束ない。

 しかし反射神経と勘がいいのか、かなりの確率で敵の攻撃を回避していた。

「ねぇお嬢。毎日こんな事ばかりしていいの?」

 放課後、毎日TVゲームばかり。

 この調子でいいのだろうか?

「今私に話しかけないで!!」

 コントローラーボタンの押し込む音をかき消すほどの大声。

 彼女の視線は55インチの液晶テレビに釘付け。

 言動から彼女はかなりの負けず嫌いのようだ。

「いいも何も仕方がないから、な。」

「甘いな、ライダー。」

 ライダーの操作するキャラがワトソンのキャラへアイテムを投射するが空中回避。

 その後ろにいた俺のキャラにヒットし、大ダメージを受ける。

「仕方がない、ってどういう事?(ヤバい、最下位になりそう。)」

「じゃあ質問するけどさイトケン。僕達地論部(ちろんぶ)は他の生徒達からどう見えているか知ってる?」

 乱戦を遠くから眺め逃げているバッちゃんからの質問。

 俺は避難場所へ特攻。

 俺とバッちゃんのキャラの追いかけっこが始まる。

「えっと・・・、問題児の集まり。逃げないで戦えバッちゃん。」


 転入当初から問題児に対しての噂は耳にしていた。

 最初はそんな人もいるのか、と軽く気を留めていく程度だったが、この地論部(ちろんぶ)に入部してその噂の当人達が地論部(ちろんぶ)の部員達だという事を知った。

 特にその噂を耳にするのはライダーとワトソン、そして本日も欠席のニュート。

 ライダーはバイクでの通学と暴走行為(この学校はバイク通学は禁止)で生徒会から問題児として扱われており、風貌が悪い(常にサングラスを装着)という事で教室では孤立しているそうだ。(本人はその事に関しては全く気にしていない。)

 しかし話してみるとガサツな口調だが、気さくで面倒見がいい兄貴気質な性格。

 現にこの1週間、いろんなゲームを共にしているが悪い印象は一切見受けられない。

 ライダーの隣に陣取るワトソンも同様。

 彼も教室では孤立している。(本人曰く、あえて孤立を選んでいると申されていた。)

 ワトソンは常にノートパソコンを持ち歩いており、授業中でもお構いなしにノートパソコンと向き合っているそうだ。

 教師達から何度も注意を受けているが改善の兆しは全くなく、最近では授業中は教室ではなく部室で過ごしている、の事。(ちなみに成績は超優秀。1年次は授業を全く受けていないのに学年1位。故に教師から煙たがれているらしい。)

 ニュートに関しては論外。

 無断遅刻、欠席、授業放棄は当たり前。

 ここには書き表せない程の問題を多く起こしており、歩く問題児として学校内では超有名。

 俺が耳にした悪い噂の9割がニュートの事だ。

 それに反してバッちゃんとお嬢の噂はあまり耳にしない。

 バッちゃんは俺と同じクラス。

 俺以外にもいろんなグループに声をかけているのをよく見かける。が、特別仲がいい、という訳ではない。

 軽く挨拶と会話をする程度。広く浅く、という付き合い方を教室でしている半面、地論部(ちろんぶ)の部員には深い仲を感じさせる。

 お嬢に関してはよくわからない。というのも彼女に関しての噂を耳にしたことがないからだ。

 ただ、お嬢には異質な印象を周囲から見受けられる。

 お嬢は顔立ち、スタイルに非の打ち所がない美少女。

 街中ですれ違えば二度見する程だ。

 しかし、この学校内では腫物を扱うかのような対応を見せる人達をよく見かける。

 生徒のみならず先生ですら一切問わず一歩引いた態度。

 そこには尊敬はなく、恐れをなしている感じだ。

 ちなみに俺もライダー達と同じ。

 剣道部の一件以降、学校内の人間から(それはクラスメイトだけではなく見知らぬ生徒、悪い場合は先生からも)陰口や軽蔑の視線に晒される日々。

 おかげで教室で俺に話しかけてくれる人はバッちゃん以外いない。

 故に地論部(ちろんぶ)の存在はかなり大きい。

 入部した最初は上手く馴染めるか心配だったが、杞憂。

 俺の趣味の一つ、ゲームがこの部活では大いに共感が得た事もあり、地論部(ちろんぶ)の存在は今や学校での唯一の楽しみとなっている。


「その通り―――ちょっと待ってお嬢。攻撃してこないで。」

 俺とバッちゃんの追いかけっこにお嬢のキャラ(一撃必殺のアイテム持ち)が合流、俺達のキャラへ強振の連打。

「僕達地論部(ちろんぶ)は全員、悪い噂持ちだからね。そんな僕達に相談事とかをする人なんていると思う?」

「・・・・・・、多分いない。」

「でしょう。」と笑顔を向けるバッちゃん。

 画面から目を離したその一瞬をお嬢は逃さなかった。

「そこ!」

 お嬢が操作するキャラの強振がクリティカルヒット!

 吹き飛ばされるバッちゃんが使用するキャラ。

 勝ちを確信したお嬢はガッツポーズ!が、不運(バッちゃんには幸運)にもステージのギミックに跳ね返って奇跡的にフィールドへ復帰。

「嘘!」

「はいお嬢、油断大敵~。」

「あっ。」

 しれっ、と背後から合流してきたワトソンのキャラの無駄のないスマッシュ攻撃でお嬢のキャラは確定演出――画面外へ星になった事により罰ゲーム(飲み物の買い出し)はお嬢に決定。

「それじゃあ、オイラは麦茶。」

「オレはウーロン茶。」

「僕は天然水をお願い。」

「はいはい、わかりました。でイトケンは?」

「いや、俺は一緒に行くよ。」

 お嬢が負けた2秒後に敗北を喫した俺は手持ち無沙汰なのでお嬢と一緒に飲み物の買い出しに行くことにした。


「・・・・・・。」

「・・・・・・。」

 飲み物を買いに行く途中の道はお互い無言。

 番傘を指すお嬢の隣を並んで歩くが、気の利いた話題が思いつかず。

(そういえば自分から家族以外の女子に話しかけた事がないな。)

 連絡事項等で異性に話しかけた事があるが、個人的な会話をしたことがない事に気付く。

 どうしたらいいか、と考えていたらお嬢の方から話しかけてくれた。

「教室の方はどう?孤立していない?辛くない?」

「大丈夫。バッちゃんが積極的に話しかけてくれるから。」

「それならよかったわ。貴方は自ら孤立を選んだワトソン達とは違うから辛いのではないかと心配していたの。」

 そんな話をしていたら自動販売機に辿り着いたので頼まれた飲み物を順番に買う。

「さっきの質問の事だけど。」

 最後に自分の飲み物を買い終えた時、お嬢が口を開いた。

「私達は別に何もしない訳ではないわ。ただ今は依頼がないだけ。」

 ゲーム中に尋ねた話のことらしい。

 こっちよ、と案内された場所は本校舎1階の集合下足室。(この学校にはクラスの教室がある本校舎と化学室や視聴覚室などがある準校舎がある。)

 その下足室の隅に備えられた机。その上には段ボールで作られた出来合いの箱がひっそりと置かれている。

 多分、お嬢に教えてもらわなければ目に留まることなく見逃していただろう。

「何これ?」

「目安箱よ。」

 確かに箱には墨で『目安箱』と書かれていた。

地論部(ちろんぶ)は元々、この箱に投函された相談事を受け持っていたの。」

「へぇ~~。」

 細い長方形の切込み口から中を覗いてみる。

「空っぽ。」

「それはそうよ。だって今は生徒会が管理しているわ。」

「なんで生徒会が?」

「この目安箱を設置する案を出したのは前生徒会会長とニュートなのよ。」

 お嬢の説明では去年地論部(ちろんぶ)が再建された際、前生徒会会長の全面的なサポートがあったそうで、この目安箱に届いた相談事をそれなりに解決してきたらしい。

「でも、前生徒会会長が任期満了で退任。でも今の生徒会会長―――霧津直子(きりつなおこ)が就任した途端、方向転換。この目安箱に届いた内容は全て生徒会が受け持つことになったのよ。」

「どうしてまた?」

「問題児達に学校や生徒の悩み事を任せるわけにはいかない、というのが彼女の言い分。要するに信頼がないの、私達。」

「でも、それなりに解決していたんじゃ・・・。」

「彼女―――霧津直子(きりつなおこ)は完璧主義者なのよ。一から十までの事柄で一つでも間違っていればそれは全て悪。」

「融通が利かない?」

「その通りよ。という訳でそれ以来、私達の所に依頼は殆ど届かなくなったのよ。」

 成程。でも、それならば・・・。

「で、ワトソン達は今の状況を快く思っているわ。毎日、自分達がしたい事を思う存分出来るからね。」

 困ったものだわ、と一言呟いて来た道を戻る。


 俺は乾いた笑い声を零して後ろをついて行くのであった。





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