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12 ワトソンのパソコン

「お!お疲れ~、イトケン。」

 いつものように授業が終わり、放課後部室に向かうとすでにワトソンがおり、いつもの如くノートパソコンで何かしていた。

「あれ、ワトソン一人だけ?」

「そうだよ~。まだ皆ホームルームが終わってないみたいだね~。ところでバッちゃんは?」

「バッちゃんならこっちに来る前に花時計の様子を見てくるって。」 

 あの日以来、定期的に花時計の様子を見に行っているバッちゃん。

 俺やお嬢も手伝うと申し出たが、体よく断られている。

「ふ~~ん。あ、イトケン、ついでにオイラの飲み物も取って。」

 部室の奥陰に設置されている小型の冷蔵庫(ニュートが勝手に備え付けたらしい)から常備されているお茶とワトソン専用の天然水を取り出す。

(そう言えばワトソンって、いつもノートパソコンで何をしているんだろ?)

 気になったのでペットボトルを渡す際に背後から画面を覗き見。

「って、ギャルゲ?!!」

 そこには肌色全開、衣服を剥ぎ取られた可愛らしい女の子の絵が画面全体に映し出されていた。

「もちろん健全の18禁だよ。」

「いやいやいや、健全の18禁って意味わからないし。ってか、学校でやるものじゃないよね?!」

「そう?結構面白いけどね~。」

 いやいやいや、そういう問題じゃない。

 予想の斜め上の光景に思わず眩暈。

「お、誤字発見。これで操作エラー含めて15個目だな~。」

 横に置いてあるノートに〈シーン13‐2、会話4の3行目誤字。〉と記入。

 その他にも、〈オープニング、操作バグ〉、〈シーン1‐4,立ち絵ミス〉等といった走り書きのメモがいくつも記されている。

「ねえワトソン、このノートは何?」

『このノートにはバグを発見した場所が記しされています。今、旦那様はこのゲームのデバックを行っておられるのですよ、イトケン様。』

「へぇ~~、そうなんだ・・・・・・、って誰?!」

 見知らぬ女性の声。

 周囲を見渡すが、部室には俺とワトソンの姿しかない。

『こちらですよ、イトケン様。』

 周囲をキョロキョロ見渡す俺の姿が滑稽だったのか、笑いを嚙み殺す声がワトソンのノートパソコンから聞こえた。

「おいアイネ、勝手に出てきたら駄目だろう。」

『申し訳ございません。旦那様。』

 突然、ワトソンが起動していたゲームがタスクバーに消え、同時に3DCGキャラクターの女性の姿が画面に。

 ピングの髪にメイド服を着た俺達と同年代らしき美少女。最近巷でよく見かけるⅤチューバーキャラみたいなものだろうか?

 澱みない動きで画面の外にいる俺へ深々とお辞儀。

『ですが旦那様。そろそろ(わたくし)の事をイトケン様にお伝えする時期かと。イトケン様は共に部活を励む仲間。なのにイトケン様だけが(わたくし)の事を存じ上げないのは些かな者かと。』

「アイネのいう事はわかるけどね~。」

『イトケン様は信頼にあたる人物。この数週間のイトケン様の言動を見た結果、そう判断を致しました。これは旦那様と意見が一致していると(わたくし)は解釈しております。』

「ごめん!ちょっといい?」

 2人の会話を遮る。

 あまりにも疑問が多すぎて頭の整理が出来ず、完全に置いてけぼりだ。

『ではイトケン様の疑問を一つ一つ解決していますね。改めてご挨拶を。(わたくし)の名前はアイネと申します。以後お見知りおきを。』

 アイネ、と名乗る3DCGキャラクターは俺へもう一度お辞儀。

(わたくし)は人工知能です。現在は見聞を広げる為、旦那様の元で仕事や生活のサポートをさせてもらっています。』

 発音も機械的なものではなく流暢。

 言葉の抑揚、会話のテンポや反応、どれ一つとっても遜色なく、意思疎通も出来ている。

 普通に人と会話しているみたいだ。

「アイネは試作機でね、サンプルを取っているのさ~。」

 ワトソン曰く、アイネはとある大企業が開発した人工知能らしい。

 生まれて間のない彼女だが最新のスーパーコンピューター並みの知能を持ち、またさらなる成長が見込まれているそうだ。

 そんな彼女が人間社会へ送り込めばどのような成長と影響が見られるのかを検証が行われていることになったそうだ。

「まぁ、それでオイラが選ばれたらしいよ~。」

『ちなみにこの検証に関しては秘密裏で行われており、(わたくし)の存在は禁則事項となっています。秘密を洩らせばイトケン様はこの世に存在できなくなりますのでご了承を。』

 丁寧語での脅迫を突き付けられて「あ、はい・・・。」としか答えれませんでした。

「でも選ばれるってすごいことだよね。一体どういった経緯で?」

「う~~ん、まぁ、ちょっとね・・・。」

 言葉を濁された。どうやら教えてはくれないそう。

 少し困った表情をしたので、深く追及せず質問を変える。

「で、さっきアイネさんが仕事、って言っていたけど?」

『イトケン様、(わたくし)の事はアイネ、とお呼びください。』と前文を告げ、答えてくれた。

『旦那様はすでに職に就いておられます。今現在、行っていることが正に。デバック、はご存じですか?』

 聞いたことがある。ゲームやプログラムなどのバグや欠陥を発見したりして、使用通りの動作にするための作業の事だ。

『その通りです。現在、旦那様は近日発売予定のゲームの動作デバックを行っておられるのです。』

「へぇ~、凄いな。」 

 俺も自宅に自分用のパソコンを1台所持しているが、動画を視聴するのが主。

 ワトソンのような使い方をしたことがないので、素直に尊敬。

「でも、学校でやる内容じゃあないよね。」

「仕方ないさ~。オイラが引き受けているのは殆どこっちの業界ばっかだし~。」

『故にお嬢様は旦那様の画面を絶対覗かないようにしておられます。』

「初めて画面を見た時のお嬢はマジでヤバかったわ~。」

(「学校で何しているのよ!!叩き斬るわよ!」)

 仕込み刀でノートパソコンを切り捨てられそうになるのを必死で逃げ回った、と語るワトソン。

 この言葉の重さにはその当時の壮絶さが十二分に物語っている。

「納期も間近だからね。ここでもやらないと間に合わないのさ~。本当は学校なんて通わずに仕事したいのだけどね~。」

『仕方がありません旦那様。約束ですから。』

 どうやらワトソンは学校へ通う事に若干の抵抗があるようだ。

「気軽に休んでいるニュートが羨ましいよ~。」

 妬ましい視線を空席―――部長席に向けるワトソン。

 ちなみにニュートは今日も休み。

 未だに一度も会ったことがない。

「本当に学校に来ないね。もしかして病気とか。」

「ないないない。」

『ありえませんね。』

 二重奏(ユニゾン)で俺の言葉を即座に否定。

「あの男が病気なんてありえないよ~。いつもの怠け癖さ~。」

 遅刻、早退、無断欠席の常習犯。

 ふらっと現れてはいつの間にか姿を消す、掴みどころがない男。

 天才と変人は紙一重。

 前、地論部(ちろんぶ)メンバーに彼の事を尋ねたらこのような答えが返ってきた。

『ニュート様はその内登校してきますよ。ですので心配ありません。』

「あら、何の話をしているのかしら?」

『おはようございます、お嬢様。』

 丁度お嬢がやってきて、アイネが挨拶する。

「おはようアイネ。今日も元気そうね。」

『はい、元気に旦那様のお世話をさせてもらっています。』

「お嬢もアイネの事は知っているんだ。」

「ええ、もちろん。」

『ちなみに(わたくし)の存在を知っているのは学校関係者では地論部(ちろんぶ)の方々のみですので、ご了承を。』

「了解。」

「ふ~~ん。」

 お嬢が意味深な視線をワトソンへ送る。

「アイネの事、イトケンに話したんだ。」

「オイラじゃなくて、アイネ自身が明かしたんだよ。」

「でも貴方はそれを阻止していないのでしょ。」

 お嬢の意味深なジト目に対してワトソンは無言を貫く。

 その態度に対してお嬢は満足そうな笑顔を俺に向ける。

「そう、よかったわねイトケン。ワトソンは貴方を認めたわ。」

「えっ、そうなのか?」

「ええ。認めていなかったらわざわざアイネの事を貴方に教えるわけないじゃない。」

 確かにそうかもしれない。

 でも、どうして俺の事を認めてくれたんだ?

「それよりもお嬢、一ついいか?」

「何かしらワトソン。」

「今、地論部(ちろんぶ)に急な依頼とかあるのか?」

「今の所はないわね。」

『露骨に話題を変えましたね、旦那様。』

 アイネの鋭いツッコミを入るが、当の本人は無視。そのまま強引に話を続ける。

「実は先方から連絡があってさ~、近々来てほしいってさ。」

「そう・・・・・・。」

 ワトソンの話に少し困り顔になるお嬢。

「あそこ、私苦手なのよね。パスしたいわ。」

「それがね、今回は是非、って指名が入っているんだ。お嬢に。」

「ええ~~。」

 肩を落として落胆するお嬢。

 何の話をしているのか全く分からない。

「はぁ・・・、仕方がないわね。とりあえず皆が来てから話し合う形でいいかしら?」

「それでいいよ~。」

 はぁ~~、と大きなため息を零すお嬢。

「話し合う、って言っても決定事項なのよね・・・。」

 恨めしい言葉の残し、机にうつ伏すお嬢であった。


「異議なし!」

「行く行く!」

「ほらね・・・・・・。」

 ライダーとバッちゃんの賛成の挙手。

 満面の笑みの2人とは対照的に悲しみ一杯のお嬢。

 ニュートを除く地論部(ちろんぶ)メンバーが揃ったのでワトソンの進行の元、会議開始。

 話の内容は至ってシンプル。

「今週の土曜日、ゲームセンターに行こう!」

 賛成4、反対1により可決となった。

「イトケンも参加できるよね?」

「大丈夫だよ、ワトソン。」

「ということはここにいる全員は参加、と。」

『元気出してください、お嬢様。』

 土曜日が待ちきれない男子陣に対して、土曜日を迎えたくないと嘆く紅一点。

 そんな彼女を健気に励ます人工知能の音声はとても人間味があるように感じる。

「アイネ、私はどうしたらいいかしら?」

『そんなお嬢様に、アドバイスがあります。』

「何かしら?」

『為せば成る、諦めが肝心です。』

 アイネの容赦ない励ましにお嬢は完全敗北を喫した。



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