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11 古賀先生の憂鬱

「無事に終わりました。」

「そうか、ありがとう。」

お嬢から花時計の花植えが終了した報告を受け、生徒指導の古賀はほっと一安心。

「おお、いい感じじゃないか。」

 携帯の写真に収められていた完成された花時計を見届け、持ち主のお嬢へ返す。

「それでは失礼いたします。」

「ああ。お、そうだ。」

 引き戸を閉めようとするお嬢を慌てて呼び止める。

「何か?」

「ああ、えっと・・・誰だったか、新しく地論部(ちろんぶ)に入った―――。」

「イトケンですか?」

「そうだ、彼だ。彼は部に馴染んでいるか?」

「ええ、皆と仲良くできていると思います。」

「ならよかった。」

 お嬢の返答に安堵。

(今の所、大丈夫そうだな。)

 転入して間もないのに剣道部の一件で悪い噂が流れ孤立して不登校になるのでは、と危惧していたが取り越し苦労に終わったようだ。

「あの、もうよろしいでしょうか?」

「ああ、もう大丈夫だ。呼び止めてすまない。」

 失礼いたしました。の言葉を最後にお嬢は生徒指導室を去る。

 急いで立ち去る足音が聞こえた辺り、何かしら用事があったのだろうか?

 もしそうならば足止めさせて悪かったな、と一息つくと同時に着信の合図。

 タイミングを見計らったな、と表示された相手の名前を見て呟く。

「もしもし、ニュートか。」

 そう電話の相手は地論部(ちろんぶ)の部長、ニュート。

「ああ、今しがた終わったと報告が来たよ。―――大丈夫だ、生徒会にはこの件に関して一切話していない。」

 事の発端は数日前、突然ニュートから連絡があり「花時計の件、生徒会を関せず地論部(ちろんぶ)で任せてほしい。」と直訴してきたのだ。

 本来であれば生徒会に任せるべき内容なのだが、去年、バッちゃんが手掛けた花時計が学校内外で好評だったこともあり、ニュートの願いを聞き入れることにした。

(まぁニュートのことだ。その事も知ってる上でお願いしてきただろうな。)

 抜け目がなく強かなで掴みどころがない、

 教師の立場からすると手を煩わせる厄介な生徒だ。

「ああ、イトケン()も手伝ったらしい。彼は地論部(ちろんぶ)を楽しんでいるそうだ。―――ああ良かったよ。」

(本来であれば、俺が助けないといけない立場なのに。)

 剣道部での事件、イトケンの話を聞いて何とかする、と豪語したが、結果は退学処分。

 校長と理事長の横暴を止めることが出来なかったことの悔みが未だに残っている。

「あの時、お前の横やりの電話がなければ今頃、彼はこの学校を去っていただろう。いや、本来であれば彼の無実を証明しないといけないのだがな・・・。」

 剣道部の件はこれにて終焉。掘り返すことも許さない。

 理事長の権限が敷かれた為、一教師でしかない自分の立場ではどうすることもできない。

「悔むな、だと。それは無理な話だ。俺がもっとしっかり――――なんだと。おいニュート、それはどういうことだ?!」

 一瞬自分の耳を疑う。

 自分の予想もしなかった彼の発言に思わず大声を張り上げてしまう。

「イトケンが剣道部と揉めて地論部(ちろんぶ)に入部するのは必然であり定め、だと!おいニュート、お前は一体何を企んでいる!」

 その答えに対して帰ってくるのは彼独特の不気味な笑い声のみ。

 彼と知り合って僅か1年。

 教師生活34年。

 生徒の事は1年あればある程度把握できると自負していたが、このニュートだけは何一つ把握も理解も出来ずにいた。

(こいつ、俺に話す気はないな。)

 笑い続ける彼から真相を聞き出すことを断念。

 声のトーンを落として話題を変える。

「それよりもニュート、お前はいつ学校に来るつもりだ。進級してから一度も登校してないだろう。このままだと出席数が足りずに留年するぞ。」

 今度はから笑いが聞こえた。

「ま、お前の事だ。ちゃんと出席日数を考えて休んでいると思うが、ちゃんと学校には来るようにしろ。」

 了解です。もうすぐこっちの作業が終わるから、近いうちに。を最後に通話終了。

 相手がいなくなった携帯をしばし見つめ大きくため息。

 ニュートへの対応はあれでよかったのか?

 もっと強く言うするべきだったか?

 あれやこれやと悩むも正解は出ず、今日一番のため息が零れる。

 椅子の背に体重を預けてぼそりと一言。

「どうすればいいですかね、先輩。」

 自分の机に飾ってある年月が経った一枚の写真にぼそっと投げかけるも答えは返ってくることはなかった。


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