1 地論部
「ここが第2文化部室棟か。」
地図を頼りにたどり着いた場所は私立翠成高校の敷地内の端にひっそりと佇んでいる古れた建築物。
壁一面に広がる蔦植物とヒビの競演はRPGとかによく出てくる幽霊屋敷みたいで不気味。
俺の遥か後方に見える新校舎とは雲泥の差だ。
何故転校してきたばかりの俺がこんな場所にいるのかというと今日から第2文化部室棟にある地論部へ強制入部となった。
地論部――正式名称、地域交流理論部。
学校内では問題児達のたまり場、又は島流し。そう噂されている部活に籍を置くことになる。
(問題児か・・・。どんな人達がいるのだろう。)
脳内に人相が悪い人物ばかりが浮かび上り、すぐさま振り払う。
(ダメダメダメ、百聞は一見に如かり。)
先入観を放り捨て、一抹の不安を盾にして構える。
「よし!」と大きく深呼吸を合図に、いざ突撃。
錆びている扉の取っ手を掴み、扉を開いた瞬間だった。
ドカーン!!!
正面から襲い掛かってきた爆発音と爆風に装備品、盾『一抹の不安』は破壊。
俺は後ろへ吹き飛ばされた。
「な、な、何事??」
尻餅をついたまま茫然。たくさんの?マークが脳内と手元で阿波踊りを踊っている。
今の状況が全く把握できず立ち上がれない俺へ追い打ちのように、
「何やっているのよ!」
「ごめんなさい。」
という声が耳に届いた。
(何が起こったんだ?)
再び同じことが起こらないことを祈りながら忍び足で侵入。
声が聞こえた、部室前へと移動する。
「お手製のクラッカーを作っていたら火薬の量をちょっと間違えて・・・。」
「間違えて、とかそんな問題ではないの!」
扉の隙間から中の様子を窺うとちょうど女子生徒が男子生徒を叱っていた光景が見えた。
藍色の長い髪を今時珍しい簪で纏めているこの学校指定の制服(この学校は男女共にブレザーの制服、タイネクタイの着用が義務付けられている)を正しく着用する女子生徒。(着物がめっちゃ似合いそう。)
顔立ちも綺麗に整っており怒っている表情にも美しさを感じる。(そして左手には番傘が握られている。)
一方の男子生徒は丸眼鏡と五厘狩り。女子生徒よりも小柄だ。学校指定のワイシャツとズボン、顔の至る所に煤が張り付いている。
「そもそもなんで部室がこんな状況になる程の火薬が必要なのよ!」
隙間から見える範囲だけでも部室内はぐちゃぐちゃなのがわかる。
「だってせっかくだから1m50㎝ぐらいのクラッカーを大量に作ろうと思って・・・。」
「なんでそんな物を大量に作ろうと思ったのよ。・・・」
丸刈りの男子生徒の答えに頭を抱える女子生徒。
そこへ「まぁまぁまぁ。」と視界外から男子生徒が乱入。赤毛の髪をワックスでオールバック、サングラスをかけた男子生徒は2人の仲裁に入る。
「起きたことは仕方がないだろ。なぁ、ワトソン。」
「ふう・・・。オイラのパソコン、壊れなくてよかった~~。」
どうやら、俺の視界外にもう一人いるようだ。(声から判断して男子だな。)
「な。それに当の本人もこんなに反省しているだし、もういいだろ。」
「はぁ~、仕方ないわね。とにかく急いで片付けるわよ。早くしないと新しい部員が来るわよ。」
「うん。本当にごめんね。ライダーの要望に応えようと頑張っただけど、失敗しちゃった。」
「元凶を貴方だったのねライダー・・・、バッちゃんに何を唆しているのよ!!」
静まりかけていた怒りが再び――いやさっき以上。女子生徒の背後から修羅の残像が立ち込める。
なわなわ、と震える右手が今にも番傘の柄へかかろうとしている。
「いや、それは・・・その・・・。」
「・・・・覚悟しなさい。天誅!!」
番傘の柄が外れた―――いや、あれは仕込み刀だ!
傘の部分を投げ捨て、蛍光灯の光に反射する刃(見た感じ竹光だな)を振りかざし、男子生徒へ襲い掛かる。
「ぎゃああ、助けてワトソン!」
「それよりもさ~、いいのかお嬢?」
「何よ、ワトソン。」
オールバックの男子生徒を追いかける女子生徒に視界外の男子生徒が疑問を投げかける。
「お嬢が言っていた新しい部員、もう来てるぞ。」
「えっ?!」
(あっ。)
女子生徒と目が合う。
(・・・・・・。)
しばしの静寂。
気まずい、という空気だけが刻々と流れ続けた。