菅原道真は梅干を作りたい
「先生、梅干しを作りませんか」
「いいねえ。作ってみるよ」
道真は梅の実を集め始めたが、あまり実がついていなかった。
「あれれ……、おかしいな……こんなに少ないのは初めて見たよ」
道真が不思議そうな顔をした。
「ああ、それは鳥の仕業ですよ。鳥たちが梅の実をついばんでしまうことがよくあります」
「なんだと……、そんな馬鹿なことがあるわけないじゃないか」
道真は信じられなかったが、実際にその通りであった。
「全部食べられてしまったのか」
道真は残念がった。
「鳥たちは梅の実の甘さを求めて実をついばみますが、その分梅の木にはより多くの種を広める役割も果たしているのです。梅干しを作る際には問題ですね」
道真は思案しながら、考えをまとめ始めた。
「鳥が実をついばむのは自然の摂理。私達は実を慈しむだけでなく、鳥との共存を考えるべきですね」
「そうですね。鳥にも感謝の気持ちを持ちながら、梅干しを作りましょう」
明るい春の日差しが、薄布越しに室内に差し込んでいる。道真は悲しげな表情を浮かべながら、手にした和歌の句を眺めている。
「桜の花もまた、美しい季節の象徴ですね。この美しさを楽しむことができれば、孤独な時間も少しは和らぐかもしれません」
外には桜の花が風に揺れる様子が見える。道真は、そっと手を伸ばし、桜の花びらが風に舞い上がる様子を指差した。
「吹き来む風よ、伝えてくれ…」
突然、戸が軽く叩かれる音が聞こえた。
「誰だ?」
道真は驚いて尋ねた。戸がゆっくりと開き、女性が現れた。彼女は優雅な着物を着ており、穏やかな微笑みを浮かべている。
「失礼いたします。お宅にお邪魔いたしますが、よろしいでしょうか」
「どうぞ、お入りください」
道真は戸惑いながらも答えた。女性はゆっくりと部屋に入った。
「私は桜の花です。あなたが呼んでいる風に、あなたの言葉を伝えに来ました」
「あなたが…桜の花?」
道真は驚きながら言った。
「はい、私こそが。あなたの心の中で寂しさを感じ、そして忘れられない誰かへの想いを知っています」
「ならば、私の言葉を伝えてください。あの人に…」
「安心してください。あなたの思い、風に乗せて届けましょう」
女性は優しく微笑んだ。道真と女性は静かに目を閉じ、風が部屋に吹き込む。
「桜よ、あの人へと伝えてくれ。私の想いを…」
桜の花びらが舞い、やがて道真の言葉は風に乗って遠くへと届く。風が一層強くなり、道真と女性は静かに笑顔を交わした。二人の心は、桜の花の一つになって、春の風に舞い上がった。
「ありがとう、桜の花よ。君のおかげで、心が軽くなった気がする」
道真は満足げに言った。
「私こそ、あなたの言葉を届けることができて嬉しいです。桜の花は、季節の美しさと共に、人々の心にも寄り添うのです」
「そうだね。桜の花の美しさと、その儚さには、いつも心打たれるよ」
外からの声が聞こえる。道真と女性は驚きながら、戸の方を向いた。
「遅くなってごめんなさい!」
戸が開き、子ども達が元気よく入ってくる。
「あ、そうだった…今日は子ども達と花見を楽しむ約束をしていたんだ」
「良いですよ、子ども達が来てくれたら、ますます賑やかになりますね」
部屋の中は笑い声と楽しい雰囲気で満たされる。
「これから一緒に桜の花見に行こうか?」
「では、出かける準備をしましょう」
道真と女性、そして子ども達は外に出て、桜の木の下へと向かう。笑顔と楽しい声が、春の風に乗って広がった。




