菅原道真は明石で漢詩を詠みたい
道真は播磨国明石駅家に到着した。駅家は馬の乗り換えや休憩、宿泊などの便を供する施設である。律令制では京との国府は古代官道で結ばれ、人や情報を迅速にやり取りさせる交通システムが設けられていた。山陽道や東海道は行政区画(地域)としての意味と道路としての意味がある。山陽道では三〇里(約一六キロメートル)毎に駅家が設けられた。明石駅家は畿内を出て播磨国に入って最初の駅家である。
明石駅家は白壁で囲まれ、整然とした姿を見せていた。道真はその風景を眺めながら、古代の文明の息吹を感じた。山陽道は京と大宰府を直結する道路であり、外国使節の通り道になっており、山陽道の駅家は白壁で囲うなど他の古代官道以上に整備されていた。
「この駅家も、古代の文明の一環として栄えてきたのだろう。人々の往来や交流の場として、重要な役割を果たしてきたのだろう」
道真は駅家に足を踏み入れると、馬を預け、宿泊することにした。彼は旅の中で多くの思いを巡らせながら、冤罪に苦しむ自分自身と向き合った。
「この旅はまだ終わらない。冤罪を晴らし、自らの名誉を取り戻すために、私は進むべき道を選ばねばならない」
駅長が出てきて、道真の不幸に同情した。道真は漢詩で応えた。
「駅長莫驚時変改 一栄一落是春秋」(駅長驚くことなかれ 時の変わり改まるを 一栄一落 これ春秋)
駅長は道真の漢詩に感心し、微笑みながら道真に言った。
「貴方の詩は深い意味を持っていますね。変化と栄枯盛衰、それが人生の一部です。私も長年この駅で仕えてきましたが、時の移り変わりを感じずにはいられません。」
「そうですね。人生には喜びと悲しみ、栄光と挫折が交錯します。しかし、それこそが人間の成長と学びの過程なのかもしれません」
「まさにその通りです。時の変わりは避けられませんが、私達はその中で自らの使命や信念に忠実に生きることが大切です」
道真は駅長の言葉に深く共感し、再び心の中で志を固めた。道真は栄光や逆境に左右されることなく、公正さと誠実さを貫き、人々のために尽くす決意を新たにした。
「駅長殿、貴重なお言葉をありがとうございます。私も常に変化に対応しながら、地道な努力と誠意を持って仕事に取り組んでいきます。人々の利益と幸福のために、私の役割を果たしたいと思います」
「道真殿の決意を知ることができて光栄です。貴方の人間性と才能には期待を寄せております。私も駅長として、地域の発展と人々の便益のために力を尽くします」
道真と駅長は互いに頭を下げ、お互いの決意を認め合った。道真は駅長から受けた励ましと知恵を胸に、さらなる成長と貢献の道を歩んでいくことを誓った。




