菅原道真は宴会をスルーしたい
道真は朝廷主催の公式の送別の宴への出席を求められた。
「朝廷主催の公式の送別の宴へのご参加をお願いいたします。皆で心を一つにしましょう」
役人が厳しい口調で言い渡した。
「私は学問を愛する者として、このような社交的な場にはあまり興味がありません。酒を飲むことよりも、知的な交流の方が私には合っています」
道真は心の内を素直に述べ、参加をためらった。
「確かに、学問の道を究める者としては、その思いも理解できますね。しかし、今回は公式の任務としての出席となります。朝廷のために少しばかりご自身の好みをお休みいただけますか」
役人は公式の任務であると説明した。
「承知しました。朝廷のため、参加致します」
道真は任務の一環として、この宴に出席しなければならないと考え、最終的には渋々出席することにした。道真の心の中には、宴会への出席を強制される不快感が漂った。宴会への参加を強要する公務員組織の体質自体がハラスメントになる。
夕日が西の空に沈み、大宴会場は華やかな雰囲気に包まれている。道真は心にわだかまりを抱えたまま、宴会場にギリギリに到着した。
「宴会場にも最後に到着し、最初に帰りたい」
これが道真の発想であった。宴席には多くの貴族達が着飾り、笑顔で交わっていた。
「学問の光を胸に、私は進みます。この宴も、朝廷の為になればと願っています」
道真は形式的な挨拶をした。静かに席に着き、誰に話しかけるでもなく、ただ遠い目をしていた。貴族達は愉快な談笑を楽しみ、美酒を味わった。宴が進むにつれ、美酒の力に酔いしれ、笑顔がさらに明るくなった。
道真は場の雰囲気に馴染めずにいた。道真にとって宴会の雰囲気はとてもつまらなく、道真はすぐにウンザリしてしまった。貴族達は大声で騒いでいたり、自慢話をしたりしていた。彼らは、自分達の地位や名声に自信を持っているようで、学問や文化についての話題にはほとんど興味を持っていないようであった。
ある貴族が、にこやかな顔で近づいてきた。
「菅原殿、このような場がお好みではないと伺いましたが、ご参加いただき光栄ですな」
その言葉には、どこか揶揄するような響きがあった。
「知的な議論を交わすには良い機会かと」
道真は静かに相手を見つめて答えた。
「今は酒を楽しみ、互いの親交を深める場ですよ。知的な話は書庫にでも閉じこもってされるがよろしい」
しかし、相手は嘲るように笑い、突き放した。その言葉に道真の心の中の不快感は一層募った。朝廷の宴は、知的な交流の場ではなく、権力者たちが互いの立場を確認し、勢力を誇示するための社交の場に過ぎないのか。道真が求めていたものは、このような表面的な交わりではなく、真の学問を通じた、心からの交流であった。道真は、学問と真理を重んじる自身の信念と、権力と形式を重んじる朝廷の現実とのギャップに、深い絶望を感じた。
その深い絶望は、道真の心の中で静かな怒りへと変わっていった。周囲の貴族たちの笑い声や、彼らが交わす空虚な言葉が、道真には騒音のように感じられた。彼らにとって、この宴は日常の一部であり、出世のための重要な儀式なのだろう。しかし、道真にとっては、自らの信念を曲げ、無意味な形式に囚われる苦痛の時間でしかなかった。
