菅原道真は冤罪に驚きたい
「何だって! 私が太宰府に!?」
道真は驚いた。右大臣として朝廷で重要な役割を果たしていた道真にとって、太宰府への赴任は想像もしていなかったことであった。
「はい、あなたには西海道に行ってもらいます」
「なぜ私が大宰府に行かなければならないのでしょう?」
道真は疑問をぶつけた。
「讃岐国を豊かにしたからです」
「讃岐国を豊かにしたのは私の力ではありません。讃岐国の人々の信仰心の賜物です」
「それでもあなたの功績であることに変わりはない。行ってくれるね」
「しかし、私は右大臣ですよ」
「心配は要りません。後任は決まっています。彼はあなたの仕事を継承し、朝廷の政務を円滑に運営することができます」
「そうですか……」
「それに、今、都は大変なことになっているんですよ。だから、急いで行ってください」
「わかりました」
「では、出発の準備をしてください。すぐにでも発ちましょう。大宰府では、あなたの存在が待ち望まれています」
「お待ち下さい!」
声を上げた者がいる。道真の家司だった。
「どうしました?」
「恐れながら申し上げまする。私共も同行させていただきとうございます」
「それは困るよ」
「何故でございましょう?」
「これは極秘の任務なのだから」
「それならば尚更のこと、私達をお連れになって下さればよろしいではないでしょうか」
「駄目だと言っているだろう」
「どうかお願いいたします」
「しつこいぞ」
「どうしても行きたいのです」
「しつこいと言っておろう!」
声が大きくなる。
「私達は菅原家の一員です。どんな困難が待ち受けていようとも、共に立ち向かいましょう」
道真は家司達の決意に感銘を受けた。
「君達を連れて行くことにするよ」
道真が言うと、家司達は喜びの表情を浮かべた。この家司達とのやり取りによって、道真は準備の時間も与えられずに大宰府に出発することは避けられた。
「藤原吉野の例に倣い、菅原道真を太宰員外帥待遇とする」
朝廷の命令は非情であった。藤原吉野は八四二年(承和九年)の承和の変で謀反に加担したとして太宰員外帥に左遷させた。「藤原吉野の例に倣い」とは道真を謀反人と扱うことを意味する。
太宰帥は大宰府の長官であるが、員外帥は定員外の長官という意味で、実権のないポストである。このため、官吏の赴任としての待遇は与えられず、道中の諸国では馬や食が給付されなかった。道真は都から遠く離れた太宰府への移動を自費で行わなければならなかった。
道真は藤原吉野と同列に扱われた事実に愕然とし、憤りを感じた。道真は朝廷の命令に異議を唱える必要があると考えた。道真は朝廷の高官達と面会する機会を得た。
「恐れ入りますが、私は謀反を行った者ではありません。私の心と忠誠心は常に朝廷にありました。私の過去の功績や献身的な奉仕を願わくば考慮していただきたく存じます」
一人の官吏が口を開いた。
「道真殿、我々の言葉が厳しいことは承知しておりますが、藤原吉野の例に倣うという命令には理由があります。それにより政治の秩序と安定が保たれることを望んでおります」
道真は怒りを抑えつつ、口を開いた。
「私自身が謀反を行った事実はありません。私の貢献と忠誠心を見ていただければ、私の罪に対する非情な処罰は必要ないものです」
最終的に一人の高官が道真に対して語りかけた。
「道真殿、私達はあなたの功績や忠誠心を理解しております。しかし、朝廷の命令は変更することができません。しかしながら、あなたの名声と地位を保護するために努力いたします」




