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菅原道真は小農民を保護したい

道真は権門に抑圧されることが多かった小農民を保護しようとした。寛平三年(八九一年)五月二九日に権門の徴物使が京師へ貢納を運んでくる郡司らを厳しく取り立てることを禁止した。九月一一日には官物横領を禁断した。横領した官物は権門への賄賂に使われており、その入口から規制した。


寛平三年九月一一日に新制の太政官符を発布した。そこでは貴族が地方に浮浪して活動すること、あるいは逆に地方民が氏姓や戸籍を偽って京に家を買い、権門に仕えることを禁止した。これは寛平新制と呼ぶ。この寛平新制は以後繰り返された天皇の代替わり新制の原型になった。


「ちょっといいですか?」

道真は清涼殿の宇多帝の御前で藤原時平につっかかった。

「なんですかな、道真殿。帝がおわす御前おまえぞ」

時平は涼しい顔で扇子を広げている。道真は声を張り上げた。

「朝廷は百姓を『大御宝おおみたから』と呼んでいます。人民は国の宝と。よくぞ言ったものです」

周囲の公卿らがざわめく。たから呼ばわりは賛辞である。

「何を怒っておられるのか。帝の慈悲深き御心の表れではありませぬか」

どこかのんびりした顔の公卿が口を挟む。

「慈悲?冗談ではない。おだてておいて、搾り取ろうという役人の魂胆が、見え見えです」

歴史小説にも以下の記述がある。

「人民は、国の宝ということなのであろう。大御宝とは、よくぞ言ったものである。おだてておいて、搾り取ろうという政府の考えが、見え見えになっている」(豊田有恒『長屋王横死事件』講談社、1996年、79頁)。

道真は現代日本のブラック企業も思い出した。あいつらも「人材」を「人財」という当て字にして社員を大事にしてるフリをしていた。人材の材は才能を意味する。人材という言葉は労働者の才能を認めた表現である。「ウチは労働者を財産だと思っています!」と謳いながら、実際は役割外の仕事を押し付ける。言葉の意味を理解してないどころか、言葉を巧みに使ってだます手口である。

「『大御宝』も一緒です。みつぎを運ばせて、最後は中身がスカスカになるまで搾り取る。これが宝の扱いか?まるで二一世紀の『人財』ブラック企業です」

時平が顔をしかめる。

「ぶらっくきぎょう? 何を訳の分からぬことを」

「後の世には『本佐録ほんさろく』という書物も出てきます!『百姓は天下の根本こんぽんなり』と。そして『財の余らぬように、不足なきように治むること道なり』と書かれている。つまり、余りすぎず、不足もしない、ギリギリの生活を維持させておけば反乱も起こさず、税も払い続けるという為政者の傲慢な理屈です。『大御宝』と美しい言葉で飾っても、やっていることは一緒です」

道真の剣幕に、公卿たちはドン引きしていた。宇多帝だけが、面白そうに道真を見つめている。

「言葉は心を映す鏡です。本当に大切だと思うなら、余計な飾りはいらない。百姓は百姓。才能ある者は人材。それでいい。『大御宝』なんて甘い言葉で誤魔化さない。私は、この国に『人財』ブラック朝廷なんて呼ばせたくありません」

時平はため息をつき、扇子でひたいを叩いた。

「はてさて、道真殿。あなたは一体、どの時代の言葉を話しておられるのやら。まあ、その熱意、帝への忠義と受け止めておきましょう。しかし…言葉遊びはもうお終いになさい」

「言葉遊びではありません。政治の根本です」

道真は、とりあえず言いたいことを言うことができた。二一世紀から来た道真にとって、「宝」呼ばわりは「美味しい話」の裏にある「搾取」の匂いがプンプンした。本当に百姓を大切にする政治は夢のまた夢かもしれない。しかし、私は菅原道真だ。せめて、言葉の裏側にある真実に、光を当ててやるくらいのことはできるだろう。

「今日から大御宝じゃなくて、人民でいきましょう。正直が一番です!」

宇多帝は小さく頷き、時平は深くため息をついた。道真の平安京ブラック企業批判は、今日も続くのである。


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