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菅原道真は讃岐守になりたくない

道真のところに朝廷の使者が静かに足跡を刻んでいた。その訪れは突然であり、使者の厳かな表情が重要な使命を背負っていることを物語っていた。使者の手に握られた文書は、何か大切なことを告げるものであることを予感させた。道真の心は不安と興奮が入り混じり、使者の前に立つ時、その瞳には戸惑いと緊張が宿っていた。道真は何が起こるのかを懸念しながら使者に視線を送った。使者は厳重な表情のまま口を開いた。


「文章博士の職を解任し、讃岐守に任命する」

使者の声は厳かに、しかし不動の調子で文書の内容を読み上げた。その言葉が静かに響く。室内に広がる静寂が、言葉の重みを一層引き立てた。道真の内には驚きと衝撃が広がった。まるで天地が入れ替わるような瞬間だった。道真が務めてきた文章博士の職を解かれ、新たに讃岐守としての職に任命されることを告げられていた。


「解任……?」

道真が呟いた。使者は口元に微かな皮肉の笑みを浮かべ、文書を大事そうに抱えたまま続けた。

「新たなる職として、讃岐守に就任いただくことになります」

その言葉は空気を凍りつかせるような感覚をもたらした。讃岐守という言葉が心の中で鳴り響く。冷徹な文書が、彼の安寧な世界に激しく波紋を投げかけていた。それはまるで、神の戯れか、あるいは人生の喜劇の一幕のようでもあった。


「何故…」

道真は声を震わせながら問いかけた。しかし、使者はその問いには答えず、厳然とした態度を崩さなかった。その不動の表情に、道真の心はますます不安と疑問で揺れ動いた。朝廷の命令は、道真の人生に予測できない変化をもたらした。部屋には沈黙が広がり、未知の旅路が道真の前に広がっていった。


讃岐守。それは四国の讃岐国を治める国司の職であり、学者としての道真にとっては全く畑違いの人事であった。長年にわたり積み上げた学問の道を一旦中断し、新たな役割に身を投じることを余儀なくされたことに、道真は無念さを感じた。


「私は何か悪いことをしたのか」

訝しみと無念さが交錯する中、道真は自問自答した。道真が長年に渡り愛し、追い求めてきた学問の世界から、急転直下で引き裂かれる瞬間だった。讃岐守としての仕事が待ち受けているが、それは道真にとっては新しい挑戦でありながら、同時に痛ましい別れであった。


讃岐守としての役割が始まれば、学問への精進や文学、詩歌に捧げる時間は減少せざるを得ない。学問の道に生き、詩や文学に魂を捧げてきた道真には腹立たしいことである。公務員的なジェネラリストは道真が好まないスタイルだった。彼はジョブ型の発想を持ち、自らの専門分野において深く究めることに誇りを持ってきた。

「私は学問の道を捨て、讃岐守としての役割を果たさねばならぬというのか…」

心には葛藤が渦巻き、道真は無念さと抗う気持ちを抱えていた。



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