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小早川隆景は天満宮の寺領を増やしたい

小早川隆景は九州平定の戦功として筑前と筑後の領主になった。これは恩賞というプラス面だけでなく、有能な隆景を毛利家から引きはがし、秀吉の直臣とする秀吉の深謀遠慮があった。そこを見抜いていた隆景は辞退しようとしたが、受け入れられなかった。

当初の秀吉の計画は筑前と筑後と肥前一郡であった。隆景は肥後を辞退し、これは認められた。肥後は佐々成政が領主になり、一揆を鎮められずに切腹になった。隆景は先見の明があったことになる。

隆景は筑前を治めると大宰府天満宮の寺領を千石とした。太宰府天満宮は安楽寺の末社であり、寺領になる。この寺領は、宗教的な活動や神社の運営に必要な資源を提供するものであり、天満宮との繋がりを強化する一環であった。隆景は、天満宮の重要性を認識し、その活動を支援した。

ところが、その養子の小早川秀秋は七百石に削減した。この決定は、天満宮の運命を大きく変えるものであり、その後の寺社の活動や影響力にも影響を及ぼした。秀秋は関ヶ原の合戦で西軍を裏切り、裏切り者と冷たい扱いを受け、大谷刑部の祟りに怯えて早死にしたとされる。

しかし、秀秋は慶長の役では勇猛果敢な武将として活躍しており、優柔不断で気の弱い青年というイメージは作られたものという見方が有力になっている。裏切り者という悪評に怯える存在ではない。むしろ寺領を削減された菅原道真の祟りがあった。


徳川家康も菅原道真を信仰した。家康が毛利輝元に出した起請文では天満大自在天神を別格の神として扱っている。

「右において偽りを申したならば、梵天、帝釈、四大天王、全て日本国中六十余州大小神祇、別して伊豆箱根両権現、三島大明神、八幡大菩薩、天満大自在天神の罰を蒙るものなり」

起請文に込められた言葉は、神々の威光を背負ったものであった。神々の怒りは、嘘や欺瞞を通じて犯された平和への冒涜に対する警鐘になった。徳川家康は、神々の怒りを恐れ、神聖なる約束を守ることを心から誓った。神々の意志を背負った家康の行動は、正義と誠実さの象徴として尊重された。

起請文は、ただの文書ではない。神秘的な力がその背後に宿り、文字から溢れる意味が人々の心を揺さぶる。神々の意志は、武将らの行動を導き、正義と誠実さを保つよう求めていた。その一言一句が、歴史の奥深くに響き渡り、永遠の教えとなっている。


近世になると寺社が商工業者を保護し、特権を与える仕組みはなくなった。北野天満宮の西京神人も麹の独占権を失った。このため、西京神人は独自の祭祀を行う神職にアイデンティティを求めるようになった。北野天満宮側からは既存の神職の職分を神職すると反発を受けることになった。ここにも上から管理する天神信仰と民衆に根差す天神信仰の対立がある。


菅原道真の信仰にとって最大の危機は明治維新後の国家神道の動きであった。神社は元々、各々の氏族や地域が自分達の神を祭るもので神社の中に上も下もない。それを明治政府は国家を頂点としたピラミッド型に編成しようとした。宮を名乗るためには祭神が基本的には皇族であり、かつ勅許が必要になったため、北野天満宮は北野神社に改称した。西京神人のような地域共同体の信仰は破壊された。


国家神道による変質に比べれば戦後の民主化は追い風になった。北野神社から北野天満宮に戻った。西京神人は祭典の民主化によって祭詞を奏上できるようになった(三枝暁子『日本中世の民衆世界 西京神人の千年』岩波新書、2022年、172頁)。江戸時代に神人が神事を行うことに北野天満宮側との対立があったことを踏まえれば、戦後の民主化はむしろ歓迎できるものになる。



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