宇多法皇は名誉回復を加速させたい
醍醐天皇は心労が重なり、重病に陥った。
「朕は病気になってしまった。朕は退位するべきかもしれないね」
「はい。麻呂もそのように思います。それで、どなたを天皇になさるのでしょうか?」
忠平は深い思案の後、そっと口を開いた。
「朕の息子を即位させてくれ」
醍醐天皇は譲位し、朱雀天皇が即位した。醍醐天皇は、その後すぐに崩御した。清涼殿落雷事件と同じ年であった。醍醐天皇の治世は延喜の治と呼ばれ、天皇親政の最盛期とされる。しかし、その見方は理想化され過ぎており、実情を認識していない。
朱雀天皇の即位後は宇多法皇の政治的発言権が強まり、道真の名誉回復も加速した。忠平と宇多法皇の関係は良好であった。忠平と宇多法皇は固い絆で結ばれていた。
「忠平、あなたの力があったからこそ、朝廷は職務を果たせている」
宇多法皇は語った。忠平は謙虚に頭を下げる。
「法皇のお言葉、光栄に存じます。ただ、麻呂の行ったことはただの義務であり、法皇の御尽力があってこそ、この国は栄えたのです」
宇多法皇は静かに微笑んだ。忠平の誠実さに心打たれるのを感じながら、二人の間には信頼と友情が満ちていた。忠平は宇多法皇のために尽くし、宇多法皇は忠平の信念と決断を支えた。彼らは互いに欠かせない存在となり、その結びつきは強いものとなった。
「怨霊を鎮め、冤罪被害者である道真公の正義を取り戻すことが朝廷の使命です」
忠平は熱い情熱を胸に心を奮い立たせて言った。
「その通りだ。冤罪の悲劇を終わらせなければならない。冤罪被害者に敬意を払い、彼らの霊を安らかに眠らせるためにも、共に闘おう」
宇多法皇は静かにうなずきながら、心に火を灯すような言葉を返した。冤罪は語り継がれるべき物語である。過去の悲劇を根絶し、真実の光をもたらすために闘い抜くことの営みである。過去を清める闘いが、未来に明日を紡ぐための序章であることを示す物語。それは一つの時代を超えて、人々の心に響く永遠の物語として息づいていく。彼らの情熱と使命感は、朝廷内外にも広がっていった。
「道真公の墓がどこにあるのか分からないという者が大勢います」
忠平は胸を痛めるように言った。
「そんな馬鹿なことがあってはなりません」
宇多法皇は眉をひそめ、深いため息をついた。彼らは昔の過ちに思いを馳せる。道真公が冤罪で左遷されなければ、この国には偉大なる大臣が在ったことだろう。未来はもっと違う輝きを纏っていただろうに。
「もし、その不名誉な冤罪が晴れていたならば、彼はどれほどの輝かしい業績を成し遂げただろうか」
忠平はつぶやいた。
「そうだな。彼の才能がこの国の未来を照らすだろう。だが、未来の扉はまだ閉ざされたままだ」
宇多法皇は深く納得し、心の中で静かな祈りを捧げた。二人の視線が、遠い過去から未来へと向かい合う。道真公の冤罪が解かれ、彼の墓所が明らかになることは、未来への一歩を踏み出す鍵なのかもしれない。だからこそ、彼らは使命を胸に刻み、道真公の名誉を取り戻すために立ち上がるのであった。