菅原道真は清涼殿落雷事件を起こしたい
菅原道真の祟りは終わらなかった。京の都に暴風雨が襲い、街は大混乱に陥った。人々は激しい自然の怒りに驚きながらも、何か不穏な力が背後に潜んでいることを感じ取った。やがて、都周辺が旱魃に見舞われ、飢饉が発生する。さらに疫病が流行し、多くの死者が出た。
人々の苦しみが深まる中で、景行はその背後に神風の遺託が関わっていることを確信した。神風の遺託とは、菅原道真の怨霊が生前に受けた冤罪や不義を晴らすために残したとされる魂の力のことであった。その怨念が京都を襲い、自然の力を操って祟りを引き起こした。道真の名誉回復が不完全だったため、その怨霊はまだ静まらず、激しい怒りを現実に変えていた。
延長八年(九三〇年)には清涼殿落雷事件が起きた。
「これからどうするつもりなんですか?」
「この国を滅ぼすという選択をするつもりだ」
「滅ぼすって……どうやって?」
「まあ、見ていなさい」
時の流れがなんとも重たく感じられるような瞬間が訪れた。しばらくすると、空が曇ってきた。雲が厚く重なり、ぽつりぽつりと雨粒が舞い降りてくる。徐々に雨は激しさを増し、やがて雷鳴と共に激しい豪雨となった。天候までもがこの国を蝕んでいくかのような荒れ模様。人々は、その様子に戸惑いと興味を抱えながらも、不安の念が胸をよぎるのを隠せない。
「うわっ!」
あまりの激しい音だったので耳を押さえた。その轟音は身に突き刺さるようだった。
「大丈夫かい」
「はい」
「心配ないよ。すぐに止むと思うから」
「本当ですね」
「うん、きっとね」
「ところで、何が起こるんでしょう?」
「もうすぐわかるよ」
しばらくして、ピカッと稲光が走った。続いてゴロゴロと音が響く。この奇怪な現象の背後には、もっと大きな何かが潜んでいるような気がした。未知の力がこの世界に姿を現す瞬間が近づいているのだろう。不思議な予感が胸に差し込む。
「きゃあっ!」
思わず悲鳴を上げた。その直後、ドドーンという大きな落雷の音が続いた。
「今のは何だ!?」
「あれを見なさい」
指差した先には清涼殿があった。その壮麗な建造物が崩れ落ちていく。
「まさか……清涼殿に落ちたのですか」
「そうですよ」
清涼殿では朝議中であった。大納言民部卿の藤原清貫ら朝廷要人が多数死傷した。雷は続けて紫宸殿にも落ち、朝廷は大混乱となった。突如として起きたこの出来事は、人々の心に不安と謎めいた想いを残した。何故、清涼殿なのか。何故、朝議の場で雷が舞い降りたのか。
「確かに、ただの自然現象とは思えない。何か意味があるような気がするんだよな」
ある者は怨霊の仕業ではないかと囁き、また別の者は神々の怒りではないかと考えた。道真の怨霊とする主張が最も支持された。