杞憂&えぇっ
スライム5匹討伐クエストの依頼内容を、大きく超えたスライム50匹を討伐したリコは、再び冒険者ギルドまで戻ってきた。
クエストの達成報告と、タンタンへの報復、オルガへの返金をする為、冒険者ギルドの扉を開けると目の前にタンタンが土下座をしている姿が目に入った。
「リコ様、おかえりなさいませ。。。大変申し訳ございませんでしたぁ~」
おそらく、ギルド長であるオルガにこっぴどく絞られたのだろう。情けない声で泣きながらリコに謝罪をするタンタン。
その姿を見て拍子抜けしたリコの元に、奥から「戻られましたか。」とオルガが申し訳なさそうな表情で歩いてくる。
「リコさん、すみませんでした。このタンタンのせいでクエストを受け、モンスター討伐に出させてしまった責任をどう取れば良いか・・・」
「オルガさんが気にすることはありません。騙された私も悪いですし。」
「しかし、そのせいでクエスト失敗のペナルティーによって、リコさんのレベルが上がるまではクエスト受けられませんし、武器も壊れてまた買わなくてはいけなくなったでしょう。」
「その事なんですが、、、」
「モンスターとの戦い方については、私が責任を持ってこれから説明させていただきますし、新しい武器の購入についてはタンタンから、、、」
「クエストクリアしました。」
オルガが謝罪とこれからの事について説明の最中、リコからクエストクリアの報告を聞き、オルガとタンタンは声を揃えて「え!?」と驚いた。
「本当にクエストクリアしたのですか?」
「はい。」
オルガの問いにリコは笑顔で答える。
「タンタン、クエスト依頼書を。」
「こ、こちらです。」
未だにクエストクリアを信じられないタンタンだったが、オルガの命令にリコが受注したクエスト依頼書をオルガに渡す。
「では、リコさん。この依頼書に手を乗せてください。」
オルガは近くにあるテーブル台の上にクエスト依頼書を置いた。その依頼書にリコが手を置くと、依頼書が光となってリコに吸収された。
「本当にクリアするとは・・・。リコさん、クエスト報酬の経験値は先ほどの光を吸収した事によって入っています。そして、報酬のお金についてはギルドからお支払いします。銀貨1枚になります。お受け取りください。」
「オルガさん、お金の事なんですけど、その銀貨1枚とこの銅貨5枚で色を付けてもらった分をお返しします。」
「大丈夫ですよリコさん。リコさんがクエストクリアをしたおかげで、冒険者ギルドにもお金が入るのです。」
「そうなのですか?」
「はい。ですから冒険者がこのサコラスの冒険者ギルドで、クエストをクリアすればする程、私たちも潤うのです。」
「なるほど、それで・・・」
とリコはオルガが以前リコに言った、このくらいの出費は戻ってくるという意味を理解した。そのうえでもリコは
「それでもお返しします。その方が気持ちもスッキリとして、またこの冒険者ギルドに足を運べますから。お金を返しても残金はありますから大丈夫です。それと、お金を両替してもらう事は出来ますか?銅貨が多くなってしまいまして・・・」
リコはそう言って、50枚の銅貨をテーブル台に出した。その銅貨を見てオルガとタンタンは「はぁ!?」とまたも驚きの声を上げた。
「リリリリ、リコ様!?このお金はまさか!?」
「スライム50匹倒した分のお金です。」
「50匹!!?」
リコの成果に驚くタンタン。するとその様子に周りの冒険者の視線が集まった。その様子を見てオルガが颯爽と動く。
「タンタン、その銅貨50枚を確認し、銀貨5枚を用意しておきなさい。それと他の冒険者には今の事は黙っておくこと。リコさんはこちらへ来てください!」
オルガはタンタンに耳打ちし、タンタンは慌てて銅貨を他の冒険者に見られないように回収した。そして、オルガはリコを2階の応接室へと案内した。
オルガとリコは応接室へと入って椅子に座る。オルガは頭の中を落ち着かせる様に「ふぅ・・・」と一息すると
「リコさんの初日の成果をあのまま聞いていたら、大騒動になると思い場所を移しました。スライムを50匹も倒すとなると、周りの冒険者がリコさんを放っておかないでしょう。」
「そうなんですか!?私も今のところ、誰かと行動するという事は考えていなかったので助かります。」
「さて・・・なにから整理すれば良いのやら・・・。そうですね、まずはステータスを確認しましょう。」
そう言ってオルガは応接室の棚から宝玉を持ってきた。その宝玉にリコは手を乗せて自分の名前を声に出すと、宝玉からリコのステータスが可視化された。
「手を離してもらって結構です。レベル5まで上がっていますね。ステータスも特に持久力・すばやさ・力が伸びています。そしてスキルポイントが100pt。リコさん、もう1度手を宝玉に乗せて「獲得可能スキル」と言ってください。」
「獲得可能スキル。」
リコはオルガに言われた通り声にした。すると光の画面がステータスから獲得可能スキル画面へと変化した。
「通常獲得可能スキル以外に、カウンターと武器耐久力アップが加わっていますね。」
「それって、通常獲得スキルとどう違うんですか?」
「例えばHPやMP上昇といった、冒険者全員が選択する事ができるスキルが通常獲得可能スキルです。それに対し、ある条件を達成すると獲得可能になるスキルがあります。このカウンターと武器耐久力アップは、リコさんがスライムを50匹倒した事と、その倒し方によって出現したものでしょう。」
「そっか、多くのスライムを1つの武器で倒した事で武器耐久力アップが、スライムがこっちに近づくタイミングに合わせて攻撃し続けたから、カウンターが出現したのかも。」
「なるほど、だから武器を傷つけずに戦えたのですね。」
「はい。最初の1匹目の戦闘で、スライム目掛けて上から剣を振り下ろした事で、剣が地面に当たってしまい、刃こぼれしてしまいました。それで剣をこれ以上傷つけない為に、2匹目からはスライムがジャンプして地面を離れた瞬間を狙って、地面に剣を当てないよう攻撃したんです。」
「スライム自体は柔らかいモンスターですので、スライムを切る1点においては武器は損傷しませんが、装甲の固いモンスターや防御力の高いモンスターを攻撃すると、武器はダメージを受けます。武器のダメージを少なくする為にも、このスキルは習得することをお勧めします。」
「なるほど。それでこのスキルの横にある数字が、必要とするスキルポイントということですか?」
各スキルの横にある数字を見て、リコはオルガに尋ねた。カウンターには50、武器耐久力アップには30と書かれている。
「その通りです。推察力も賢明で助かります。習得したいスキルに触れるとスキルの詳細が表示され、スキル習得するかの選択をする事ができます。」
「じゃあまずはカウンター。」
リコがカウンターの文字に触れると画面が変わり、カウンター 相手の行動時に迎撃が成功すると、ダメージが1.5倍になる。と表記されていた。
「なるほど。これは習得するべきね。」
リコは『習得しますか? はい いいえ』 と表示された画面に目を移し、『はい』に触れた。するとリコの体が白く発光し、画面は獲得可能スキルと表示された画面に戻っていた。
「これでカウンターのスキルは習得されました。このようにモンスターを倒し、レベルを上げ、スキルポイントを獲得する事によって、自分や武器、防具の強化をする事ができます。」
「でもこれって、宝玉がないとできませんよね。毎回冒険者ギルドに顔を出さないとレベルの確認や、スキルの習得が出来ないんですか?」
毎回冒険者ギルドに顔を出し、この作業をしていては効率が悪いのはもちろん、できれば自分の好きなタイミングや場所で行いたいものだ。
そう考えながらリコは武器耐久力アップのスキルも習得した。内容は、武器耐久力アップ 武器の耐久力のランクを1つ上げる というものだった。
リコはランクとはなにかわからなかったが、後でパロットの店に武器の修理が出来るか聞く予定だったので、その時に合わせて聞いてみようと思った。
「自分のステータスやスキルは他人に知られたくないものですよね。しかし宝玉にも数に限りがありますので、誰にでも渡せる物ではありません。ですので、ギルド長である私からのクエストをクリア出来れば、宝玉を差し上げる事ができます。」
「そのクエスト受けたいですけど、、、難易度はどのくらいですか?」
リコは恐る恐るオルガにクエストの難易度を尋ねる。おそらくは他の手に入れる手段が極めてなさそうな宝玉である事、そして、ギルド長オルガからのクエスト依頼というのを考慮すると、どんなお題なのかが全く想像できなかった。
「難易度は★5このサコラスでクリアした者は数える程しかいません。」
とオルガが告げた瞬間リコは青ざめたが、オルガは困ったように笑い
「なんですけど、リコさんにとっては★1か2程度でしょうね。」
リコは気が抜けたように「へ?」と首をかしげると
「スライム100匹討伐。リコさんはもう半分クエストクリアしてしまってるのです。」
と苦笑いでオルガはクエスト内容をリコに告げるのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
その後、リコはオルガからモンスターの戦闘についてのレクチャーを受けていた。スライムを50匹討伐したリコにとっては復習のようなものだった。しかし
「ところで、白くて薄い光がモンスターを囲っているのはわかりましたか?」
リコはスライムとの戦闘を思い出していたが、スライム本体にはばかり目を向けていて、他はあまり意識をしていなかった。
「うーーーん、、、それはあまり意識していませんでした。」
「実はその光の中に入ると、そのモンスターの領域に入ったことを意味し、戦闘が始まります。」
「では、その囲われた光に入らなければ、モンスターとの戦闘は始まらないという事ですか?」
「その通りです。そして、戦闘が始まると同時にモンスターに敵と認識され、光の領域が広がります。」
「領域が広がるのは、なにか意味があるんですか?」
「1つはその広がった領域から出れば、戦闘から離脱する事ができます。再び領域が縮まり、モンスターの認識から外れます。そしてもう1つは、仲間で戦う場合ですが、広がった領域内に最大4人まで入ることができます。例えばスライムの場合、1人の戦闘では獲得経験値は3ptと銅貨1枚ですが、4人の戦闘では獲得経験値は4人全員が3pt獲得できます。お金は銅貨1枚で変わりません。」
「そっか、次からは領域を意識して戦う必要がありそうね。」
リコは領域について整理をすると、一つ疑問が生まれた。
「戦闘中に違う敵が領域に入ることはあるんですか?」
「基本はありませんが、中には仲間を呼ぶモンスターがいます。すると、敵モンスターが増えた事により、領域も更に広がり逃げるのは困難になります。」
「それって、永遠に仲間を呼ばれる事もあるって事ですか?」
「モンスターも仲間を呼ぶにはMPを消費しますので、MPが尽きれば呼ぶ事が出来なくなります。でも、この辺りでは仲間を呼ぶモンスターは確認されていませんので、今は考える必要はないかと思います。」
「そうですか、わかりました。」
「これで、戦闘については大体説明が終わりました。あとは魔法についてですね。」
「魔法!」
リコはその言葉を聞き、目を輝かせた。
「前に説明した通り、回復する魔法とかはありませんので、魔法は攻撃するものとなります。使える魔法は、火・氷・風・雷の4種類です。」
「4種類。意外と少ないですね。」
「そうですね。そしてリコさんの得意魔法は風となります。」
「風?ステータスに書いてありましたっけ?」
「いえ、なぜそれが分かるのかと言いますと、リコさんの髪の色で分かるのですよ。」
「え?髪の色?」
「はい。リコさんのそのキレイな緑色の髪は、風魔法を得意とする象徴です。その他については、火は赤、氷は水色、雷は黄色となっています。得意魔法はその他の魔法と比べて、約2倍の威力で打つ事が出来ます。」
「でも、それだと相手に自分の得意な魔法が分かってしまうというのは、かなり不利じゃないですか?」
「モンスターは、それを識別する事はできないので大丈夫です。」
「そうか、相手は人間じゃなくてモンスターだから、そこは心配しなくてもいいって事なんですね。」
「そして、魔法の打ち方ですが詠唱魔法と無詠唱魔法があります。」
「詠唱?無詠唱?」
「ここでは説明しづらいので、明日街の外で説明します。大分遅くなってしまいましたので、今日はお休みになってください。」
「あっ、私の為にこんな遅くまですみません。」
「いえいえ、他の冒険者はここまで理解するのに倍以上の時間かかりますから、リコさんは非常に優秀で助かります。そういえば、泊まるところはもう確保していますか?」
「ハッ!!」
リコは新たな世界での宿を確保していなかった。もうこの夜中に泊めてくれる宿はあるのだろうか?そんな事を考え途方にくれていると
「お困りのようでしたら、パロットに聞いてみると良いかもしれません。」
「パロットさんに?」
「パロットの娘が宿を営んでいますので、対応してくれるかもしれませんよ。」
「本当ですか!?」
どちらにせよ、この後パロットの店で武器の修理を頼めるか聞こうとしていたリコには朗報だった。そういう事なら急がねばと、リコは慌てて立ち上がり
「オルガさん、ありがとうございました!また明日、よろしくお願いします!」
と応接室を後にした。
少し中途半端なところで終わってしまってすみません。次話は今のところ明日上げる予定です。この作品を読んでくださっている皆様には、いつも感謝しております。これからもよろしくお願いいたします。