初クエスト・スライム討伐!
「ここで私の装備を買えばいいんだよね。」
リコはオルガに言われた通りに、冒険者ギルドを出て隣の店の前に立っていた。
「失礼しまーす」
とリコは小さな声で扉を開け、店の中へと入った。
「いらっしゃい!!おっ、新しい冒険者だな!」
短髪で中年のいかにも武器・防具商人に見える人間がリコに声をかける。
「はい、リコといいます。ギルド長のオルガさんにお勧めされて来ました。なにも武器や防具に関して知識がないのですが、まずはどうしたら良いでしょうか?」
「ほぉ~、嬢ちゃん物事わかってるねぇ!まず自分の名前を言って親近感を出し、この店を紹介した人を立て、店の俺にアドバイスを求める。これが中々できねぇ冒険者がほとんどだ。気に入った、俺の名前はパロットだ。よろしくな!」
「はい、こちらこそよろしくお願いします。」
パロットが差し出した手を取り、リコは握手する。すると
「うん?嬢ちゃん剣でも使っていた経験あるのか?」
「いえ?剣は使った事ありません。」
「嬢ちゃんみたいな可愛い子にしては握力が強い、なにか剣でも振って付いた握力かと思ってな。」
「あ、そうか。ラケット・・・」
以前の世界から受け継いだステータスが握力も反映しているようだ。しかし、握手だけでそれを見抜くパロットにリコは感心した。
「ラケット?なんだそりゃ、武器の名前か?」
「あ、いえ。道具というか、、、布団たたきみたいなものです。」
「ふーーん、なるほど。それで、そのラケットってやつを嬢ちゃんは長い間振ってきたのか?」
「毎日ではないですけど、10年は振っていました。」
「なら素振りは身についてるな。そのラケットの重さや長さ、持ち手の太さとかわかるか?」
「えーーっと確か・・・」
とリコは自分が学生時代使っていたラケットの重さや長さ、グリップの太さをパロットに説明した。
「よしわかった!!」
とパロットは納得し、カウンター裏の部屋へと入っていった。その間、リコは店に飾ってある武器や防具に目を配らせていると、パロットが戻ってきた。
「こいつなら嬢ちゃんのラケットってやつと同じように扱えると思うんだが。」
パロットはリコの前に剣を差し出す。黄色と白の2色で彩られた鞘に、持ち手は緑と使われている色が偶然にもテニスボールとテニスコートの色に重なる。
「鞘から剣を抜いてみてもいいですか?」
「もちろんだ!」
パロットから許可をもらい、リコは鞘から剣を抜いた。
「重さもしっくりくるし、グリップも持ちやすい。形は剣だけど、これならラケットと変わらずに振ることが出来そう。パロットさん!私この剣が欲しいです!いくらですか!?」
リコは目を輝かせてパロットに聞いた。その様子にパロットも嬉しそうだ。
「銀貨1枚って言いてえとこだが、サービスで銅貨7枚だ。」
「え?いやいやいや、銀貨1枚でいいですよ!」
オルガから多めのお金をもらっているにも関わらず、武器まで値引きしてもらっては悪い気がした。
「嬢ちゃん、安く買えるなら安く買った方がいい。嬢ちゃんは今、剣を手に入れる事が出来たが、こいつぁ片手剣だ。ならもう1本同じ剣を買うか、盾を買うか。さらに服も買わなくちゃいけねぇ。な!銅貨7枚で納得しとけ。」
「ありがとうございます!」
リコはパロットに頭を下げ、銀貨1枚を出し、お釣りで銅貨3枚を受け取った。銅貨10枚で銀貨1枚ということなのだろう。
「で嬢ちゃん、もう1本買うか?それとも盾を買うか?」
リコは少し悩み、一つの結論を出すと
「すみません、この剣だけで大丈夫です。あとは服を買いたいのですが。」
「おいおいおい、片手剣でせっかくもう片方の腕が使えるのにもったいねぇじゃねぇか。」
「そうなんですけど、二刀流にしたり、盾を持ってしまうと動きづらくなりそうな気がしたので。むしろ、防御力が高く動きやすい服が欲しいので、そちらにお金をかけたいのですが。」
「なるほどな、嬢ちゃんには嬢ちゃんなりの考えがあるって事だな。わかった!なら服はここの店を出て、相向かいの店に行くといいぜ。」
「ここのお店で買いますよ。せっかくこの剣も安くしてもらったんですから。」
「はっはっは!気にする事ぁねぇよ。第一嬢ちゃんの求める品物がここにはねえからな。ここにあるのは盾やら鎧やらで、防御力はたけぇがその重さで素早さは下がっちまう。それに相向かいの服やは俺の女房がやってる店だ。安心して金を使ってくれ!」
「わかりました!でもまた武器や盾が必要な時は、ここのお店で買わせてください!」
「おう!今後ともよろしく頼むぜ!」
気持ちよくリコを送り出してくれたパロットに頭を下げ、リコは相向かいの服屋へと向かった。服屋に入ってからは話は早かった。パロットの店でのやり取りをパロットの妻であるサリアに説明し、リコの要望に見合う服を持ってきた。
「これはいかがかしら。」
赤と青を基調としたその服は、余計な装飾はされておらず、動きやすさも想像できる軽装さであった。靴も動きやすく、サイズの調節の効きやすいスニーカーと似たものを出してもらえた。
「試着してみてもいいですか?」
「もちろんいいですよ。」
とサリアは試着室へリコを案内してくれた。リコは試着を終え、試着室から出て軽く体を動かしてみる。
非常に軽く、耐久性も申し分なさそうだ。強いモンスターと戦うとなると、もう少し補強はした方が良さそうだが、初期装備としては充分だろうとリコは満足した。
「まぁ、ぴったり!とても良くお似合いですよ。」
そう言ってサリアは全身が見れる大型の鏡をリコの前に向けてくれた。そこでリコは転生してから初めて自分の姿を見た。
「そっか、そのまま動けたからすっかり忘れてたけど、新しい私を見てなかった。これが、私・・・」
鏡にはセミロングで緑色の髪、切れ長の冴え冴えとした目、整った顔立ち、体も引き締まっていて、色とりどりの装備にも見劣りしない姿にリコは
「キレイ・・・」
と口に出してしまい、数秒後なにを口に出して言ってるのと赤面した。
「リコ様、いかがですか?」
「すごく動きやすいですし、サイズもピッタリです!是非これにしたいです。」
「ありがとうございます。では服と靴を合わせて銀貨1枚と銅貨5枚になります。まだ冒険者になったばかりでお金が足りないようでしたら、私たち夫婦の店を利用していただいてるので、後払いでも大丈夫ですよ。」
「いえ、大丈夫です!」
リコは笑顔で銀貨1枚と銅貨5枚をサリアに出した。
(こんなに良くしてもらったんだから、払っていいよね。オルガさんに返そうと思ったお金だけど、モンスターを倒せばお金も手に入るような事をサリーも言ってたし。そうと決まれば、モンスター討伐に行きたいところだけど・・・)
リコはオルガから、装備を整えたら冒険者ギルドに戻る事を思い出していた。
(約束を破るわけにもいかないし、お金の事はモンスター討伐で稼いだら返すって事で待ってもらおう。)
「すてきな装備をありがとうございます!パロットさんにもとても喜んでいたと伝えてください。」
リコは装備を揃え終わり、再び冒険者ギルドへと戻った。扉を開け受付を見ると、タンタンがリコに気付いてリコの前に走ってきた。
「リコさん!先ほどは本当にすみませんでした!!」
別人かと思うほど礼儀もわきまえ、頭を下げて謝罪をするタンタン。
(相当こっぴどく叱られたのかな・・・?)
リコはオルガに叱られるタンタンを想像し、少し憐れんだ。
「もういいですよ、私も少し意地悪してごめんなさい。」
その言葉を聞き、タンタンはニヤリと不気味に微笑むが、頭を下げているのでリコは気づけなかった。
「リコさん、装備を整えてきたんですね。あれ?でもお金足りました?結構値段しそうに見えますけど?」
「少しオルガさんに多めにお金もらったんです。でも私としては特別扱いしてもらうのは悪いので、返そうと思っているんですけど・・・」
「それならクエスト受ければすぐですよ!」
「クエスト?」
「はい、あそこに貼られている紙の事です。難易度が高いほど、報酬や経験値をもらうことができます。ちなみに失敗するとレベルが1つ上がるまでクエストを受ける事ができません。」
「なるほど、レベル上げやお金稼ぎにはクエストはうってつけだけど、自分の実力をよく理解して受けないと、かえって効率が悪くなるのね。」
「そこで私がお勧めするのはこちらです!」
タンタンが持ってきた紙にはクエストの内容が記されていた。
「スライム討伐5匹、報酬銀貨1枚&経験値10pt、難易度★★★。え?星3って、私まだレベル1ですよ?」
「難易度っていうのは、モンスターの強さで上がるってわけじゃないんですよ。誰も受けてもらえないクエストはある一定の期間で報酬や難易度が上がったりするんです。それで、さっきのお詫びに他の誰かに取られないように、私が剥がしてリコさんの為に取っておいたんです。」
「本当ですか?確かにスライムって弱いイメージはありますけど、この世界ではやっかいなモンスターだから、誰も手を出さないとかじゃないですよね?」
とリコは目を細くし、タンタンを見つめる。
「いやだなぁ~、そんなことないですよ~♪レベル1の冒険者でも、スライムはほとんど1撃で倒せるモンスターですよ。」
「まぁ確かに、ここの周りにいるモンスターのレベルは低いとオルガさんも言ってたよね。あ!そうだオルガさんに会わなくちゃ!」
「クエスト終わってからでもいいんじゃないですか?」
「ダメです。装備を整えたら冒険者ギルドに顔を出すように言われたんです。そのままモンスターと戦わないようにと」
「それなら、このクエストの事を伝えたかったんですよぉ。そのまま戦いに行ったら、どうせ行くならクエスト受けてから行けば良かったのにって事になっちゃいますから。それに、ここに顔を出すってだけで、ギルド長に会わないといけないとは言われてないんでしょ?」
「あ・・・確かに。」
「それにこのクエスト、今日の夜までが期限なんですよ。今日中にギルド長にお金を返したいなら、このクエストだけでもクリアしてからでも良いのでは?」
「・・・わかりました。スライム5匹ですね。」
少し考えたが、リコはタンタンを信じることにした。
「この紙に手を乗せてください。」
リコがクエスト依頼書に手を乗せると、依頼書とリコの手の間が白く光った。
「これで受注されました。あとアドバイスすると、スライムは街を出て真っすぐ歩いた平地にたくさんいます。道に迷う事もないので、安心して討伐してください♪」
「わかった、ありがとう。」
リコはタンタンにニコッと微笑み感謝を口にした。そして、冒険者ギルドを出て街を出る。街の出入り口と冒険者ギルドはとても近く迷う事はなかった。リコがタンタンのアドバイス通り街を出て真っすぐ進むと、青く丸い物と遭遇した。
「これがスライムだよね。このまま戦えばいいのかな。オルガさんから魔法は使うなって言われたけど、そもそも使い方わからないし、そうなるとこの剣で倒すしかないよね。」
リコは腰に備え付けた鞘から剣を抜く。そしてスライムに狙いを定めたところで違和感に気付いた。
「スライムって小さいし低い!倒すためには上から剣を振り下ろす感じかな。」
何回か素振りをしてイメージし、再びスライムに照準を合わせる。そして、
「はーーーーーーー!!」
リコは声を上げ剣をスライムへと振り下ろした!
「やった!」
スライムは真っ二つにされ、割れた二つから白い光がリコへと吸収された。スライムは消滅し、銅貨が1枚残った。
「スライム1匹倒すと銅貨1枚もらえるのか。あの白い光は経験値かな。いくつもらえたかはわからないけど。でもクエストクリアまであと4匹ね。これなら簡単に終わりそう。それにしてもこの剣、本当に振りやすい。パロットさんに後でお礼言わなきゃ・・・って、ええええええ!!?」
リコは剣を見て絶句した。刃こぼれしているのである。
「なんで!?スライムでしょ!?簡単に切れたし、刃こぼれするなんて!不良品って事ないよね!!?パロットさん悪い人じゃないよね!!?」
リコはパニック状態だ。新しい剣がスライム1匹倒すのに刃こぼれをするとなると、この剣はスライム何体まで倒せるのか。剣がダメになる事を想定して何本も買わないといけなかったのか。
だとしたらクソゲーすぎる。いっそ武器を必要としない格闘家にでもなりたいと、リコはこの剣を差し出したパロットを思い浮かべる。
「でも、パロットさんは剣をもう1本とは言っていたけど、それは私が片手剣だから勧めてたんだよね。剣が戦うとダメになっていくなら、もっと違った言い方で勧めてくるはず。他に原因があるんだ。」
リコは自分とスライムが戦った地に再び目を向けた。
「あ・・・もしかして、これ・・・?」
リコの目が映ったのは、リコがスライムと一緒に切ったであろう地面だ。
「あの小さくて低いスライムを倒そうと思ったら、誰でも上から武器を振り下ろすはず。そうすると武器が地面に当たり、傷つき使えなくなる。魔法はMP制限があるから効率が悪い。スライムは1匹たおしてもらえるお金は銅貨1枚。ってことは・・・ハメたわね!鍛高譚!」
あのクエストの本当の意味をリコは理解した。報酬が割に合わなすぎるのだ。スライムを倒すために武器を傷つけ、新しい武器を再び使用。
もしくは魔法を使ったりパーティーを組んだりと方法はあるだろうが、それをするくらいなら他のクエストを受けた方が良いのである。
「ごめんね、私が騙されたせいで君を傷つけちゃったね。。。街に帰ったら直してもらうから、もう少し私の力になってくれるかな。。。」
リコは目を閉じて集中する。どうすれば剣を傷つけずに倒すことができるか。何か見落としている事はないか。自分とスライムとの距離、スライムの挙動、そこから見えたものは
「スライムってどう動くのかな。もしかして・・・」
リコは自分の予感を確かめる為、スライムを探した。
「見つけた!」
しかし、リコはすぐには攻撃しない。スライムの様子をしっかりと観察していた。ゆらゆらと揺れているスライム。スライムはリコを敵と認識し、リコとの距離を詰めようとする。どうやって、、、次の瞬間、スライムは小さくジャンプし、リコとの距離を詰めた!
「これだ!」
スライムのジャンプといっても、そこから剣を振り下ろしたところで地面との衝突は免れない。しかし、リコはその隙間に活路を見出していた。
「こっちにジャンプしてくる時は、少し溜めがあった。それにタイミングを合わせれば!」
リコが機を待ち、その時が来る。スライムがリコとの距離を詰める為に、溜めを作った。
「今だ!」
同時にリコが一気に前へ出る!そしてスライムがジャンプした瞬間、上からではなく斜め下からリコの剣がスライムへと向かう。
テニスにおいてリコはライジングショットを得意としていた。ライジングショットとは相手が打った打球がバウンドした瞬間を打つ事により、返球の速さに相手の体制が整わず、ポイントを決めてることが出来るのだ。
ジャンプしたスライムに、リコのライジングショットが炸裂した。
「剣に新たな損傷もない。よーしあと3匹!一気に行くよ!」
残り3匹倒せばクエストクリアなのだが、リコはその後もスライムを倒し続け
「50匹倒しちゃった。まだまだやれるけど、クエストクリアの報告もしないとだし、冒険者ギルド戻るかな。あと剣も直したいしね。何より・・・あの鍛高譚にお灸を据えてあげないとね!」
不気味に笑いながら、そう言って剣を鞘にしまい、サコラスへとリコは帰還した。
ついに異世界でのモンスターとの初バトルまで行く事ができました。文字数も少なく更新スピードも遅く、大変お待たせしました。毎回読んでくださっている読者様本当にありがとうございます。引き続き、読んでいただけると幸いです。これからも興味を持ってもらえるような展開を書いていきたいと思いますので、宜しくお願いします。