タンタンたんさんたんたかたん
一通り自分が思うように身体を動かせる事を確認したリコは、これから先に進むための現状を整理し始めた。
「サリーが言ってたアイテムは気になるところだけど、序盤で手に入れられるアイテムかわからないし、優先順位は下げるべきね。この街や周辺の事を知るためにも、サリーが言ってた冒険者ギルドに行く事が最優先事項。それと・・・これはどうしたら・・・」
リコの悩み、それは転生した女性の身なりであった。これからリコはこの世界で生きていく為、サリーが言っていたアイテムを探す為にも、モンスターと戦う事は必須である。
しかし、この女性の身なりはこの街で働き、生活をしている女性そのもの。とてもこれから戦闘できる服装ではないし、もちろん武器もない。
「このあたりの事も冒険者ギルドで聞ければいいけど・・・」
と呟きつつ、リコは冒険者ギルドへと歩を進めた。不思議と街の看板や露店の商品の値段も読むことはできた。
その中に「冒険者ギルド」とこれ見よがしに矢印看板があるので、それに従ってリコは迷うことなく目的地まで進む事ができた。
「ここが冒険者ギルド。まずは色々と話を聞いて現状の整理しなくちゃ。」
リコは気を落ち着かせる為に「ふぅ・・・」と一息吐き、冒険者ギルドの入り口扉を押した。
中に入り様子を見渡す。十数人の冒険者と思われる者がいる。話している者、張り紙を見ている者、受付にいる者・・・とその時、受付の女性と目が合った。
白黒の帽子を被り、少し垂れ目で、ふくよかな胸を際立たせる衣装を着こなすその女性は、リコの姿に目を輝かせ
「新しい冒険者ですか!?こちらへどうぞ!」
と大きな声を上げるものだから、冒険者ギルド内の視線がリコに集まってしまった。しかし、リコは表情を変えず、案内に従って受付に足を進めた。そして受付に着くと
「この世界に転生したリコと言います。冒険者として生きていく為の助言と、この街やその周辺の情報をお聞きする事はできますか?」
自分がここを訪れた目的を淡々とリコは質問する。その様子に受付の女性は
「ちょちょちょちょちょ!ちょっとぉ!!もう少し焦ったりとか、キョトンと呆然としたりとか、かぁーーーっと恥ずかしがったりとかないの!!?今あなた・・・リコたんにギルド内の視線が全部集中してるんだよぉ!!?」
リコが表情変えず足を進める事にキョトンと呆然し、受付に着くなり淡々と質問される事に焦った受付の女性はリコに問いただす。
「その全集中の視線はあなたが作り出したものですし、そもそも冒険者ギルドにこのような服で訪れるだけでも、今転生してきたばかりと周りの目が集まる事は予想済みです。あと・・・たん付けはやめてください。あなた・・・タンタンたんさんとは仲良くはなれそうにありませんので。」
と受付のネームプレートを見てリコは彼女の名前がタンタンと知ることができた。彼女の白黒の帽子はある動物と自分の名前と関連付けているのかと、納得はしたがどうでもよかった。
「タンタンたんかタンタンさんって呼んでぇ!!たんとさんをくっ付けないでぇ!!それならせめてタンタンって呼び捨てで呼んでください!!」
と、かーーーっと恥ずかしがり、タンタンは相手がなってほしかった状況を、全部自分で回収する事となってしまった。
「じゃあいっそ炭酸でいいんじゃないですか?それなら美味しそうだし、少し好きになれるかもしれないです。」
「名前を全部消さないでくださーーーい!」
と目には涙を溜め懇願する。これでは話が進みそうにないと困惑すると思った矢先、タンタンの後ろに黒い影が・・・タンタンの肩にポンとその影は手を置くと
「タンタン、私が代わります。」
そこには目をニコッっと閉じて笑っているが、どす黒いオーラを纏った長身のスレンダーな女性が立っていた。「ひっ!!」とタンタンは青ざめながらも、
「いやいやいや、ギルド長にこのようなお仕事をさせるわけにはいきません!!ギルドの受付嬢のタンタンがあっという間に終わらせますので!!」
すると、閉じていた切れ長の細い目が開き、
「代われと言っている。もう一度言わせるようなら、お前の名前を鍛高譚に改名するがぁ!!?」
「シソ焼酎にしないでぇ~!!!」
と言いながらトボトボと奥に下がっていった。タンタンが下がったの確認し、
「受付の鍛高譚が失礼しました。ここからは私オルガがご対応させていただきます。」
黒いオーラは消え、純粋な笑顔でギルド長オルガはリコと向かい合った。
「あ・・・あの!!ギルド長でなくても、わたしは受付の方で構いませんので!」
少し焦りながらリコはオルガに配慮するが
「いえいえ、これから冒険者になるリコさんへの応対はとても重要な事項です。その応対に立場は関係ありませんし、なにより私がリコさんを気に入ってしまったんです。」
とオルガは言うと、辺りを見渡す。
「ここでは他の皆さんからの視線が気になるでしょうし、場所を変えましょう。」
オルガは受付から移動し、「どうぞこちらへ」とリコを案内し、2階の応接室と書かれた部屋の扉を開けた。
「どうぞ、お入りください。」
とリコは従い、応接室に入る。白を基調としたその部屋は心を落ち着かせてくれた。お互いに椅子に座ると「では」とオルガが会話を始める。
「リコさんのお聞きになりたい事は、先ほどの冒険者としてこれからどうすれば良いかと、この街や周りの情報でしたね。」
「はい、まだこちらの世界に来たばかりで・・・」
とその時リコはタンタンの前では転生という言葉を出し、オルガの前ではこの世界に来たという言葉を出した事に気づいた。
冒険者は転生者だとサリーは言っていたが、それ以外の人は転生という事実は認識されているのかはわからなかった。軽々しく口にしたのは失敗だったかと困惑していると
「以前の世界では、会社員でしたか?」
「えっ!?」
少なくともリコがこの世界に来てから、会社らしい建物は見ていない。この街のまだ見ていない所や、違う街に会社があるのか?と考えて見るも、この街並みを見るに会社があるとは到底思えなかった。
「この世界に会社はあるんですか?あと以前の世界という事は、オルガさんたちは冒険者が違う世界からの転生者という事を知っているんですか?」
「会社はこの世界にはありません。しかし、冒険者が異世界からの転生者というのは、ギルド内にいる人物は知っていますよ。その異世界の文化や職業に関しては、転生者の皆さんが冒険者になる為にこの冒険者ギルドを訪れますから、神が話を進めやすくするためにも私たちにその知識を与えてくれたのだと思います。」
「なるほど・・・でも、なぜ私が以前の世界では会社員をやっていたと思ったのですか?」
「会社というと中には嫌味な上司、同僚、後輩とかいますでしょ?鍛高譚とのやり取りを見ていると、その理不尽な出来事の回避行動が身についている事が分かります。そして、自分に有益で鍛高譚より立場が上の私への配慮をみると、リコさんは会社員だったのでは?と思ったのです。」
「お恥ずかしながら、その通りです。」
目をそらし、少し赤面しながらリコは答えた。オルガには嘘を言っても見透かされてしまうとリコは感じてしまった。
「では、そろそろ本題に入りましょう。」
その言葉を聞き、リコの顔も引き締まる。
「まずこの街から説明させてください。この街の名前は「サコラス」転生者の始まりの街ですね。」
「サコラス・・・始まりの街・・・」
「この街サコラスは、平地や森に囲まれています。モンスターレベルも低く、新しい冒険者の中には他の地に旅立たず、この地に居続ける者もいます。リコさんがスローライフをお望みであれば、このサコラスで生涯過ごすのも良いと思います。」
「しばらくはこの地で過ごそうと思っています。でも私にはあるアイテムを探す目的もありますので、ここでゆっくりレベルを上げてから他の地へ向かいたいと思っていまして。」
「あるアイテム?」
「はい、以前の世界の人と話す事が出来るようなアイテムの噂を耳にしたんです。」
リコはそれをサリーから聞かされた事は黙っていた。独り言とサリーは言っていた。それを周りに明かす事はいい気がしなかった。
「そのアイテムの噂は聞いた事があります。しかし、以前の世界の人間に何を伝えたいのですか?私の知る限り以前の世界に戻ることはできないと思いますが、それでもその人間とリコさんは話したいと?」
「その人・・・母は小さいころから私を可愛がってくれていました。でも私は大人になるにつれて母への態度が冷たくなっていきました。小さい頃は居心地が良かった母の優しさが、だんだんうざくなってしまったんです。私が就職して一人暮らしをしてからも、母は食べ物を贈ってきたり、機械音痴なのにスマホ買ってアプリでメッセージ送ってくるし、しまいにはかわいいスタンプなんかも・・・。私お礼するどころか、贈り物もメッセージももうやめて!ってメッセージしてしまったんです。。。」
リコの母との記憶。自分の事を悔やみながら話していたが、言葉が出なくなったリコにオルガは嫌な顔をせず「ゆっくりでいいです」と優しく声をかけてくれた。
「ある夜、何もする事がなくて、何でそんな事をするのか自分でもわからないんですけど、母が今まで送ってきたメッセージを見直したんです。その時その時でメッセージ来たときはうざいと思っていたんですけど、全てのメッセージを見直していると、こんなに冷たくしている私に対しても母が送ってくれる私への変わらない愛情に涙がこぼれました。そして、最後のメッセージに戻ったタイミングで新しいメッセージが届いたんです。」
リコのスマホに映し出された母とのメッセージのやり取り、やり取りといってもリコからは「贈り物もメッセージももうやめて!」というメッセージが1件だけでそれ以外は母からのメッセージだ。
その唯一のリコが送信したメッセージの下に母からの新しいメッセージが届いた。
「贈り物やメッセージ、リコを困らせちゃったね。ごめんね。」
リコは涙を流し、そのメッセージを見て首を横に振っていた。
(私だよ・・・私が謝らなくちゃいけないのに・・・)
とリコが思っていると、母からの新しいメッセージが届く。
「でも、これだけは言わせて。メッセージ送ってくれてありがとう。」
「ずっと無視に無視を重ねて、、、しまいにはあんな冷たいメッセージ送ったのに、、、ありがとうって送ってくれたんです。。。私は母にごめんねのメッセージさえ送ることができませんでした。そして、母に謝れないまま死んでしまいました。。。だから、そのアイテムを手に入れて母と話したいんです!!」
「わかりました。私の方でも何か情報が分かりましたら、リコさんにお伝えします。お母様とお話できるといいですね。」
リコの話を聞き終え、微笑んで協力もしてくれるオルガに対し「ありがとうございます!」とリコは感謝を口にし、頭を下げた。
「そうなると、まずはレベル上げですね。」
オルガはそういうと席を立ち、応接室の棚に飾ってある丸いガラス玉のようなものを手に取る。大きさで言えばバレーボールくらいの大きさか。そういえば受付にもあった気がする。
「この宝玉は現在のリコさんのレベルやステータスを見る事ができるものです。宝玉に手を乗せご自分の名前をフルネームで口にしてください。リコさんの魂は以前の世界の名前のままです。ご自分の名前を口にする事で、宝玉が手をつたって魂に干渉しリコさんのレベルやステータスを可視化してくれます。」
リコは宝玉に手を乗せ
「津久間 リコ」
と口にする。すると宝玉から光が放たれディスプレイのような形で可視化された。
「当然ですが、今のリコさんはレベル1。ですが、ステータスは以前の世界からのステータスも引き継いでいます。リコさんの場合は持久力、すばやさが高いですね。なにかスポーツをやられていました?」
「学生の頃にテニスをしていました。」
「コートを走り、小さなボールを打ち合う球技ですね。」
「はい、なので体を動かす事は割と好きな方です。」
「なるほど。戦闘面でも問題はなさそうですね。では、サコラスのギルドはリコさんを冒険者として歓迎します。まずこれをお受け取りください。」
オルガは小さな布袋をリコの前に出す。袋の中身を出すと銀と銅の硬貨が何枚か出てきた。
「これは・・・?」
「お金です。最初の冒険者にはギルドから銀貨2枚渡すのですが、鍛高譚の非礼と私からの色を付けて銀貨3枚と銅貨5枚受け取りください。」
「い・・・いえ!私も銀貨2枚で大丈夫です。」
いまいち銀貨と銅貨の価値もわからないが、他の冒険者には2枚で自分だけ色を付けてもらうような事はまだしていないとリコは断りたかったが
「リコさん、まずは武器や防具を手に入れなければ、モンスターと戦ってレベル上げをすることは難しいです。魔法でも戦えない事もありませんが、MPが尽きてしまうと宿で休むしかありません。」
「魔法使えるんですか?」
「はい、使えます。しかし、MPやモンスターに与えられたダメージは体を休めなければ回復出来ないのです。」
「回復魔法とかないのですか?」
「ありませんね。しかし、レベルを上げてスキルを獲得する方法があります。ただ、MPやHPを回復するスキルは、スキルをあげるポイント数がかかるため、まずは武器での攻撃をお勧めします。」
「そのためには、まず武器を買わないといけない。」
「そういう事です。」
リコが理解したのを見て、オルガは笑顔で答える。
「まずはリコさんに合った武器や防具を探してください。このギルドの隣の店がお勧めです。そして、装備を揃えたらまたギルドに顔を出してください。戦闘における注意点などを説明します。いいですね、決して装備を整えても、そのままモンスターと戦ったりはしないでください。」
「わかりました。でもやっぱり銀貨2枚で・・・」
「大丈夫ですよ、このくらいの出費はすぐに戻ってきますから。」
「え?」
「では、いってらっしゃい」
と部屋を出されてしまった。何か裏があるのでは?と勘ぐってしまうが、とにかく装備を整えればまた話が出来て、その時あまりのお金を返せばとリコは冒険者ギルドを後にした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
~冒険者ギルドのある部屋~
「あの無表情論破クソ女と貧乳長身ババァが!!受付嬢の私に恥かかせやがってぇ!!絶対痛い目見せてあげるんだから!!フフフフフ・・・」
冒険者ギルド自称受付嬢 鍛高譚のリコとオルガへの恨み、妬みが増幅していた。。。
早めの更新ができましたが、上げるペースは自分でもわかりません。できたら月に2度以上更新はしたいと思っています。この物語を読んでいただいている皆様に感謝しております。引き続き読者が楽しんでもらえるような物語にしていきたいと思いますので、これからも宜しくお願いします。