ダブルブッキング②
リコと金色のスライムとの戦闘が始まり、スライムの領域が広がる。普段のスライムの5倍の広さがあろう領域だが、リコはそれに目をやらなかった。
逃げは最終の手、今は領域の広さよりもスライムの動きに集中する。リコは両足を真横に広げ、片手剣を両手で持ち、体制はやや前かがみで構えた。
「魔法攻撃の体制じゃねぇな。」
「多少武器が傷ついても、まずは剣による攻撃か。でも、あの体制はなんだ?」
「なるほどな。」
遠目からリコと金色のスライムの戦闘を見ている3人の冒険者、その1人がリコの構えに納得する。
「何がなるほどなんだよ?」
「おそらく武器のダメージはゼロだ。見ていれば分かる。」
スライムが行動する為にタメを作った。その瞬間リコは軽くジャンプする。
スライムがリコに向かってジャンプをしたのと同時に、リコの足が着地し、スライムを目掛けて前へ出た。
しかも、その速さは尋常ではない。スキル電光石火によるものだ。
「は、はえーー!?」
2人の冒険者がリコの速さに驚く。
「ハァアアアーーー!」
リコのライジングショットがスライムを一刀両断した。その威力は、電光石火とカウンターのスキルが加わり、以前とは比較にならない。
「倒せた!?」
いくらリコがレベルアップしたとしてもあっけなすぎる。リコは金色のスライムに体を向けて警戒する。
「おいおい!倒しちゃったじゃねぇかよ!」
「しかも、武器も無傷だ。ああやって下から振ればいいのか!俺もやってみっかな。」
「やめとけ。あれはあの子だから出来る振り方だ。」
「え?どういう事だよ。」
「あの子はおそらくテニスプレイヤーだ。行動を開始する前のあの構え、ダッシュ前の軽いジャンプ、そして地面に当たらない剣の振り方。相当練習したんだろうな、一朝一夕で身に付くもんじゃねえよ。それに、、、戦闘はまだ終わってねえ!」
「終わってねえって、スライム真っ二つだぜ?」
3人の冒険者は真っ二つになっているスライムに目を向ける。リコもスライムから目を離さなかった。
すると、切られた2つがくっつき、再び切られる前の状態に戻ってしまった。
「なんだぁ!?復活しちまったぞ!?」
「あのスライムに斬撃は効かない。何回やっても元通りになっちまう。」
「そんなん勝ちようがねえじゃねえか!」
「何言ってんだ、見ろ!あの子はもう次の手を打ってるぞ。」
リコは剣を鞘に戻すと、右手を前に出し詠唱を始める。武器での攻撃は無効、おそらく風魔法で切り裂いても復活すると思い、リコは得意魔法ではないが炎をイメージした。
「魔法攻撃か!」
「しかも、詠唱魔法だ!」
「おそらくスライムの動きは見切ったんだろう。詠唱しながらもスライムから目を離してねぇ。とは言っても、魔法をイメージしながら詠唱して、敵の攻撃を躱すってのは、なかなか出来るモンじゃねぇ。」
この3人にはリコの詠唱「早口言葉」は聞こえていない。するとリコの魔法陣が3倍に広がる。
「はえー!!どんな難しい詠唱をしてんだあいつ!」
「詠唱のデメリットをあんな短時間で終わらせるなんて!」
「レベルは俺たちの方が高いが、戦闘センスはあの子の方が何倍も上だ。さて、行くぞ。」
そう言って1人の冒険者が背を向けて歩き出した。
「えっ!?結末見ねえのかよ。」
「おい!待ってくれって!」
残された2人はリコとスライムの結末を見たいが、泣く泣く後を追った。
「強い炎と言えばやっぱりこれよね。キャンプファイヤー!!」
リコから放たれた炎魔法「キャンプファイヤー」がスライムを包む。炎の中で苦しむスライムを見て、リコはダメージがあると確信した。
やがて炎が落ち着き消える。スライムはまだ倒せてはいなかったが、ダメージの大きさは見て取れた。
「もう1発打てば倒せそうね。」
再び詠唱を始めるリコ。その瞬間スライムから風が放たれた。
(魔法!?でも痛くもないし、他の影響も特にない。とにかく今は詠唱を終わらせる!)
そして再びリコの魔法陣が大きくなった。
「トドメのキャンプファイヤー!!」
2発目の炎魔法にスライムが包まれた。そしてスライムは消滅し、2つの光がリコに吸収された。
「倒した!って、、、えっ!?」
魔法を放ったのとは逆の左手が、リコが向いている逆方向へと伸ばされる。
右と左腕が正反対のキレイな180度の角度となる。リコは左手の方を見ようにも顔の向きを変える事が出来なかった。
「突然すまない。君の体を操っている者だ。死にたくなければ、少しの間じっとしていてくれ。」
「何を言って、、、」
「トリプルフレイム!!」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
前日の夜
~リコが眠りについて1時間後~
静かな寝息をたてているリコの寝息が不意に止まる。それと同時に、リコの緑髪が徐々に青髪へと変わった。
「眠りについたようだな。」
そしてベッドから起き上がりポシェットから宝玉を取り出す。
「間口 ロイ」
宝玉に手を乗せて自分の名前を口にし、ステータスを確認する。
「獲得可能スキル」
次に、自分の獲得可能スキルを確認する。
「そういう事か。」
リコの獲得可能スキルとは違い、ロイの獲得可能スキルは「背中は任せろ!」、「テレパシー」、「共感覚」などがあった。
ロイはスキルの詳細を確認し、次々と自分の必要なスキルを獲得していく。
「こんなもんだな。いざって時はぶっつけ本番だが、理論上は可能なはず。」
そう言って約1時間、スキル画面を操作し終え、眠りにつくと、青髪が徐々に緑髪へと戻った。
リコが金色のスライムを見つけ、討伐に挑もうとする様子にロイは
「レアモンスター!リコの実力ならおそらく問題はないと思うが、、、」
スライムに対して斬撃が効かない事が分かり、魔法を打つリコ。
「やはり魔法でダメージが通ったようだな。もう1発打てば倒せそうだ。」
リコの詠唱中にスライムから風が放たれる。
「ダメージは無さそうだな。という事は攻撃ではない?という事は、まさか!?スキル発動!「背中は任せろ!」津久間リコ!」
すると、リコの頭の後ろに光が出現する。その光からロイはリコの背後を見る事が出来た。
「蜂!?しかも3匹!」
距離はあるが、金色のスライムの領域内に蜂のモンスターが3体いるのが見えた。
「あの風は攻撃じゃない!仲間を呼んだんだ!」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
リコと金色のスライムの戦いの途中、その場から離れた冒険者3人はサコラスの街へと帰還するところだった。
「あの子、もうレアモンスター倒したんじゃねぇか?」
「あーあ、見たかったなぁ。」
「あの子が死ぬ姿をか?」
「えっ?どういう事だよ?」
「あのレアモンスターはな、仲間を呼ぶんだよ。毒を持った蜂のモンスター3体をな。しかも、相手の死角に呼びやがる。」
「じゃあ、レアモンスターの討伐に集中してたら、、、」
「毒蜂の攻撃を受け、回復の出来ない冒険者はゲームオーバーって訳だ。」
「だから、犠牲無しに勝てる見込みがないって言ってたのか。」
「だったら助けてやれば、、、」
「声の届く範囲に近づいて領域に入り、死角から毒蜂の攻撃にあったらどうする?」
「それは、、、」
「甘さを捨てる事だ。この世界で生きていく為にはな。」
そう言って、3人の冒険者はサコラスの街へと帰っていった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「こんなに早く使う事になるとは。」
そう言ってロイは詠唱を始める。
「我が体内の魔法力よ、その形を炎に変えよ。赤ではない、青く燃えろ燃えろ燃えろ。」
炎と言うと赤のイメージがあるが、青の方が温度が高い。ロイは青い炎をイメージしながら詠唱を続ける。そして、
(おそらく詠唱は完了した。そして、リコの方はレアモンスターを倒したな。よし!)
「スキル発動!「共感覚」津久間リコ、頭、左腕!」
ロイはリコの左腕を伸ばし蜂のモンスターへ手を向ける。
「スキル発動!「テレパシー」津久間リコ!」
そして、ロイはリコに話しかける。
「突然すまない。君の体を操っている者だ。死にたくなければ、少しの間じっとしていてくれ。」
「何を言って、、、」
次の瞬間、リコの左腕から魔法陣が出現する。その大きさもロイの詠唱完了により、3倍の大きさの魔法陣だった。
「スキル発動「拡散魔法」3分割!」
ロイのスキルにより3倍の大きさの魔法陣が、通常の大きさの魔法陣が3個に分裂する。
「トリプルフレイム!!」
3つの魔法陣から青の炎が放たれ、3体の蜂にそれぞれヒットした。それを確認し、ロイはリコの頭を後ろに向かせる。
「モンスター!?いつの間に!?」
「さっきの金色のスライムから放たれた風は攻撃じゃなく、あの蜂たちを呼ぶためのものだったんだ。それに俺が気付き、君の体を操って魔法攻撃した。」
「操るって、あなたどこから!?」
「この体の中からだよ、津久間リコ、君が転生したのと同時に、俺もこの体に転生してしまったんだ。」
「えっ!!?」
ロイによって告げられた言葉に理解ができないリコ。蜂のモンスター3体が消滅し、領域はなくなった。
戦闘は終わったが、予想のできない展開に、リコは仰向けになってただ呆然と空を見つめるのだった。
更新遅くなりました。すみません。来週の更新は厳しいと思いますが、活動報告をアップしようとおもっています。また現況や更新予定をお知らせできるように、SNSも使っていこうと思っています。
これからもご愛読いただければ嬉しいです。