仰ぎ見て
空を仰ぎ見る
今日は天気が良い
ちょっと風の強い
この丘で
絵を描く
4月の空と
ネモフィラの青い花畑の絵
あの人は
私の少し先の木陰で
小説を書いている
妖精と魔王の出会う小説だそうだ
夢中でノートパソコンに向かう
あの人
私は
そんなあの人も構図に入れて
絵を描く
視線に気付いたのか
あの人は
私に向かって
親指を立てた
どうやら小説は
順調らしい
私はもう一枚
スケッチブックを捲る
そこには
ネモフィラの花畑で妖精が佇んでいる
もう一枚
スケッチブックを捲る
妖精が魔王と出会い
恋に落ちる瞬間を描いた絵
この青空の下で
妖精と魔王は出会ったのだ
あの人の小説の挿し絵のつもりだ
ふと強く風が吹いた
空を仰ぎ見る
雲の形がまるで
魔王のお城みたいだ
魔王はこの花畑で
妖精を見つけられるかしら
私はスケッチブックをたたみ
あの人の居る木陰に向かう
イーゼルを持ち
少し足早になってしまうのは
少しでも早く
あの人に絵を見てもらうため
もう一度
空を仰ぎ見る
今度は雲の形が
ハートになっていた
魔王と妖精は
出会えたみたいだ
私は微笑む
「ねえ、小説書けた?」
「ああ、今ね―――」
あの人の嬉々とした顔に
今の私の物語を聞かせてあげようか
お読みくださりありがとうございました。