見落とした翳り
座っていたベンチと駐輪場の中腹に自動販売機があり、その横にあるゴミ箱に粒々オレンジジュースの缶とベタつくサイダーの缶を捨て、再度黒川の座るベンチに戻る。
ありがとう黒川。
幾度となく俺を救ってくれて。
聞こえない様に呟き、ベンチに腰掛ける。
黒川に立つ気配はなく、またしても足を交互にパタパタさせている。
では、もう少しだけ。
「結局、俺の依頼は未解決で幕を閉じるってことになるのかな」
「恥かき損だねぇ。由宇はどんな方法で恥ず枝君に恋を解こうとしてたの?」
黒川の奴、にやにやしやがって……。恥ず枝は割と語呂いいけども。
「由宇は結局、実際に恋をしている人と過ごすことでそれが何かを分かってもらおうとしてたみたいだけど」
「え、どういうこと?」
「だから、実際に現在絶賛恋煩い中の人間と過ごすことで恋の何たるかを解こうとして――」
この俺の発言は完全に迂闊だった。
この情報が生徒会長の知るところかを考えてから発するすべきだった。
親しき仲にも秘め事がある可能性を考慮すべきだった。
由宇と黒川が親しいかは正確には知らないけど。
数秒沈黙があって、
「由宇がそう言ったの? 由宇が変装してデートした事を指しているのよね?」
案の定、身を乗り出して食いついてくる黒川。まずったか。
「まあデート(笑)だったんだけど。」
「ということは……」
ということは?
「由宇は現在誰かに恋をしているってことよね? そう言ってたのよね?」
「まあ……相手までは聞いてないけどね」
「………………そう」
黙り込み、姿勢を正す黒川。
やっぱり知らなかったようだ。
黒川も知らない事を知っている優越感に浸る前に、二人のことを訊いてみることにした。
「黒川は、由宇といつ知り合ったんだ?」
「中学の頃よ。私は学級委員だったから、休んでいる子の家に配られたプリントや宿題を届けに行く事が多かったの。その頃から休みがちだった由宇の家にも何回も届けに行った。まあそこはクリス先生の家だったんだけどね」
「休みがち……か。中学の頃はどういう感じの付き合いだったんだ?」
「付き合っ!? ってなんかいないわよ!? ……い、いや、そうね、中3の夏にあった修学旅行がきっかけでそこから遊ぶようになったわね」
黒川の動揺という珍しいものを見てしまった。
どういう誤解からの動揺をしているんだよ。
「たまに一緒に買い物したり、ボーリングしたり、登校してきた日は大体一緒に帰ってはいたのよ」
「ボーリング……」
嫌な光景を思い出しかけたので首を振った。
「まあ、そんなところね。仲良くなって、一緒の高校に進学することにして。でもあの子は高校でも不登校気味だけどね」
「どうして不登校なんだ?」
「あら、春枝君ならもう知ってるものだと思っていたけど……。由宇からは聞いてないの?」
聞いてない。訊いてもいない。
「ふうん…………考えてみたらわからない?」
「まあ、なんとなくは……」
「正誤判定してあげるから言ってみて?」
そういわれると自信が無くなる。小心健在。
「由宇の本当の父親が関係している……よな?」
「そうね。それがもう答え。今でも学校に行こうとすると小学校の頃の事がフラッシュバックするらしいの。かなり精神的に辛いみたい」
この黒川の言葉は俺の心を抉った。
俺のしてしまったことは、現在進行形で由宇を苦しめているということだ。
心が重く、痛くなる。
「でも裏組織が出来てからは結構楽になったみたい。あの子そういうの好きなのよね」
「マーキュリーか」
「あら、もう名前も知ってるなんて勉強熱心ね」
「クリス先生……今の由宇の父親が創設したんだろ?」
「そうよ」
「生徒の特異な悩みを解決に導く裏組織……だよね」
「表向きはね」
「表向き? どういう意味だ?」
黒川はそれには返事をせず、ビニール袋をガシリと握り突然立ち上がった。
「そろそろ帰らなくちゃ。また学校でね、春枝君」
「おう」
屈託のない笑顔で手を振りながら逃げるように走り去る黒川。
急に一人ぼっちになった俺は、さっきまで黒川が座っていたところに目をやる。
まだ聞きたいことはたくさんあった。
由宇の恋、黒川の恋、マーキュリーの本当の存在理由……。
どれも容易く気軽に訊ける内容ではないが、俺の性分がそれを知ろうとして止まらない。
どうやら一度の後悔位ではポリシー(笑)は砕け散りも崩れ去りもしないようだ。
差し当たり、新しく得たマーキュリーの真の存在理由を、創設者に尋ねるとしようか。
俺は自転車の鍵を取り出しながら、電車賃があるかを確認する。
ここまでお読みいただきありがとうございます!
しばらく続きをかけておりませんが、構想等は既にできており、必ず近々再開致しますのでもしよろしければお待ちくださいませ!
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