この手を伸ばせど届かぬ向こう
「そんなことより、春枝君の話したいことって?」
まるで誤魔化すように話題をすり替える黒川。
「あー、大体もう言っちまったよ。というか、生徒会長全部知ってたんだろう?」
「まーね」
「分かっていて俺を由宇に会わせたのか?」
「だから私も少し悩んだよ。それに忠告もしたじゃない」
黒川は人差し指を口元に持っていきシーッ! のポーズをした。
――ああ、言っていたな。
金髪の正体を好奇心旺盛に探る俺に対して「オススメはしない」って。
「でもそれが、由宇の為にもなると思ったし、最終的に春枝君の為にもなったでしょ? まあ結局、恥ずかしい依頼は解決へ向かわなかったけど」
あの昼休み、弁当をしまう数十秒でここまでたくさんの事を考えて俺に提案していたのか。
恐ろしや生徒会長……。
「確かに、謝罪することで後悔を部分的に解消できた点については感謝するよ。黒川、ありがとう」
「どういたしまして」
また両足をパタパタし始めた。
由宇の為にもなる……というのはやはり、由宇も昔の事を少なからず気にかけていて、当時の少年が同じ学校に居ることを知り、あの日の真相を知りたかった……ということだろうか。
「それで春枝君はその後の由宇のひどい仕打ちのことを聞いて、後悔で押しつぶされそうになってるってところね?」
「…………仰る通りでございます」
やはり生徒会長は慧眼だ。
俺の感情も行動も、すべてお見通しだ。
「それで春枝君は私に何を言ってほしいのかな?」
「いや、何っていうか……こんなことを話せるのは生徒会長しかいなくてさ」
「とにかく誰かに話したかったと」
「んーそんなところでもあり、俺はどうするべきかってのも相談したかった」
パタパタ動かす足を止め、黒川は俯きため息をついた。
「そのまま深い後悔を抱えて、懺悔を忘れない人生を歩むといいんじゃないかな。春枝君も何パーセントかは責任あると思うし。でも全部が全部春枝君のせいじゃないし、由宇の実父が最も悪いのは明白だろうし、もちろん由宇だって悪いのよ。だから誰かが責任を取ったりするような事象じゃない。形式上の責任なら実父が既にとらされているしね。これからみんながどう行動して生きていくかを考えればいいんじゃない?」
目を半分閉じたまま斜め四十五度下の地面に向かって放つ黒川の言葉は今の俺には響いた。
変わらぬ後悔に囚われてしまっていては前に進めない、その通りだと思った。
「それにあんなことがあったからこそ、起こり得た事もたくさんあるから、全部が全部悪いとも言い切れないものだよ。例えば、由宇がクリス先生の子になった事とかね」
薄い笑顔のまままるで台本でもあるかのように淡々と話す黒川。
「ありがとう。少し楽にはなった」
「そう? それじゃ何か報酬をもらわないとねえ」
「げ、これも依頼扱いかよ」
黒川なりの照れ隠しかな、なんて思いながらサイダーの口を開けると、
――ブシュッ!!
という破裂音とともに勢いよく液体と泡が飛び出した。
慌てて遠くに手を持っていくが時すでに遅し、ジーパンの膝部分と手全体がびしょ濡れになった。
俺の無様な濡れ姿を見て黒川は大きく笑った。
「報酬、それでいいわ」
……俺の無様な姿は楽しんでいただけたかな。




