音の無い深呼吸
現在俺の隣には、片手にコンビニの袋と思われるものを持つ美少女が座っている。
俯きながら何かを考える面持ちに見えるそいつに、俺は意を決して口を開いた。
「お父さんが倒れたんだって?」
顔を動かさないまま女の子も口を開く。
「どうして知ってるの」
「いや、それは……」
黒川から聞いた事を話していいものか一瞬悩んだが、もうここまで来て嘘や誤魔化しが必要とも思えなかった。
「黒川が教えてくれたんだ」
「……恵が……そう」
「いや、その、黒川がばらしたとかではなくて、俺が君にもう一度会いたくて執拗に君の居場所を訊き迫ったようなものなんだ。だから黒川は悪くないというか、なんというか」
「私に会いたかったの?」
逸らしてしまっていた目線を再び隣の美少女に戻すと、今度は真剣な表情でこちらを凝視していた。
俺は目を逸らさずに、音がしない様に深呼吸をした。
「うん、会いたかった」
「どうして?」
「言わなければならない事があるから」
思えばそう。
金髪だったこの子と会う度に、ディテールの不明な深い感情が自分の胸の中で湧き上がるのを何度も感じていた。
それは決して「恋」などという安直で単純な感情などではなく、もっともっと自分の中に根強く巣食う暗く苦しいものに抵触した感情だ。
真剣に見つめるその表情を見れば見るほど、その頃の事を痛いほど思い出させてくれる。
「久しぶりだね、ほしのさん」
彼女の反応はなかった。
凛々しいともいえる真顔のまま静止画のように固まって動かない。
その綺麗な、絵画のような美しい女の子は表情を一切変えないまま、綺麗で上品な切れ長の両目から、流星のように滴を流した。
すかさずポケットから俺には似つかわしくない色のものを取り出し、
「良かったら、使ってくれ」
彼女は黒目をその薄い桃色のハンカチに向け、
「それ、私のでしょう」
そう言いながら俺の手から優しく奪い取った。




