UorA
スラックスのポケットに入っているハンカチを取り出して改めて見つめる。
そこには痣の様に付着する金色の塗料の様なものがある。
この色によって、俺はまんまと一杯食わされたということか。
最初から違和感というか心当たりというか、そういう好奇的胸騒ぎがあるにはあったが、それが何なのかを理解するのを最も阻害していたのがあの妙に目立つ金髪だった。
その金色も、こうして付着する様を見てミスリードの一環であると理解したし、なにより昨日の天文学室での、あの距離で向かい合い、しっかりと凝視できたことでハッキリした。
忘れないと肝に銘じたものは、例え何年経とうが、少し雰囲気が変わろうが分かるものなのだな。
しかしながらそうすると疑問が二つほど出てくる。
一つはどうして由宇が俺に合うに際して金髪にならなければいけなかったか。
そしてもう一つは、前から既に思っていたが、現在入院中の由宇の父の事だ。
どちらにせよ、今の俺には直接本人に問う事しかできない。
座って待ち始めてから1時間は経っただろうか、という頃に、入口をぼんやり見つめる俺に死角からか細い声がかかった。
「春枝くん?」
振り返り見上げるとそこには目を見開いてこちらを向く小さな女性が立っていた。
その子は肩までない長さの黒髪で、小さく整った綺麗な顔をしていた。
見開かれた切れ長の上品な釣り目は、まぎれもなく金髪美少女だった。いや黒髪だけれども。
逃げられない様に、先手必勝の如く慌てて声を掛ける。
「由宇、だよね?」
「………………」
電池の切れたおもちゃの様に静止する由宇の服装を見て、全身に鳥肌が立つ感覚が俺を襲った。
デニムのショートパンツ。純白のシャツ。そしてブラウンのサンダル。
そのざわつくちぐはぐな予感は内ポケットにある写真を見たことで、錠が落ちるようにガチリと確信へ昇華した。
目の前で静止する女の子は、俺がデート(笑)をしたオースティンさんと全く同じ顔だった。




