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好奇心は小心者ですら殺す  作者: えねるど
5月23日(金)
32/46

楕円形の金色


 俺はそう、優しい人間だから、折角岸絵が作ったであろう二つ目のお弁当しっかり平らげた。

 自分で言っている時点でアレなのだが、そうでも言い聞かせないと完食できなかったと思う。


 おかげで五時間目真っ只中の今は(すこぶ)る体調が悪いが、幸運なことに俺の心の安寧を司る黒川生徒会長がいつの間にか隣にいた。

 どうやら昼休みの間に来たらしい。

 体調がよくなったのだろうか。


 何とも言えぬ安心感を抱きながらも「来週も作ってやる、です」と言い残して昼休み終了のチャイムとともに去っていった岸絵の姿を思い出し、また違った意味で恐怖している俺だが、ふと右隣の遅刻優等生からの視線に気づいた。


「春枝君、また会ったんだってね」


 化学の山科(やましな)先生が板書に夢中な隙を見計らって、小声で話しかけてきた。


「誰と?」

「ほら、春枝君のはっずかしい悩みを最初に聞いてくれた子」

「……その言い方は何かムカつくが、一応会ったよ。けど突然いなくなったけどな」

「いなくなった?」

「ああ」


 返事をし、俺は昨日の天文学室でのやりとりを思い返す。


 結局のところ、ひとつ自分の中で確信が増えただけで、依頼に関しては何にも進捗がないままだ。

 再び会う必要があるが、連絡しようにも手段はない。


「なあ、やっぱり由宇の連絡先なんて教えてくれたりなんか無理ですかね」


 闇雲に、ヤケクソ気味に黒川に問うてみると、一瞬彼女の眉がピクリと上がり、そのままゆっくり降下し眼球へと近づいた。

 と同時に、


「イデデッッ!!!」


 右手の甲に突き刺すような痛みが走り、おもわず叫んでしまった。


 痛みの発信源の右腕を見ると、黒川の持つシャープペンの先が思いっきり皮膚に食い込んでいた。


 どうした、そこの男子、という山科教師の訝しげな声が俺に向けられ、数名がこちらに注目する。


「すみません、なんでもないです」


 視線を集める直前に、この黒川はさり気なく刺していたシャープペンを引っ込め、板書に戻っていた。

 何なんだよ一体……。


 そりゃ由宇に関しての詮索については禁止令をくらってはいたけれどもさ。

 そこまでしてあの子の素性を知ってはいけない理由でもあるのだろうか。


 だが黒川よ、俺に由宇を会わせたのは他でもなく君自身なはずだ。


 兎に角、俺の望む情報をくれそうにはない生徒会長は当てにせず、自分で由宇に辿り着くしかないことは分かった。


 授業終了のチャイムが鳴り、ため息やら伸びやらが交錯する教室から出て行く山科教師をぼんやり見送りながら、次の六時間目の数学の教科書を鞄から取り出していると、


「名前を知れて良かったねと言いたいところだけど、あの子しばらく学校には来ないと思うよ」


 黒川がこちらを見ず、机に両肘をつき手に持ったシャープペンを見つめながら発した。


「どうして?」


 未だジンジンと痛む右手の甲の皮膚にふぅーっと吐息を当てながら問うと、これまたこちらを見ずに、


「彼女の父親が倒れたの。すぐに救急で搬送されたから大事には至ってないけれども、しばらく入院するみたいだから、その付き添いでしばらく病院にいるみたい」

「……そうなのか。それは、その、お大事に、だな」


 中途半端な常套句を口ずさみながら、俺の頭の中では全く違う事が渦巻いていた。


――父親。


 俺の予想が間違っていなければ、それはいったいどういう事なんだろう。

 未だに呪縛の真っ只中、ということか?


 それともきっかけがあり、平穏が訪れた、という事なんだろうか。


 何にせよ詳細を知ることができない俺には分かりようがない。

 実際に見るまでは――。


「ただ生徒会長、俺は一つ分かったことがあるよ」


 ようやく黒川の顔は俺に向けられた。


 俺はスラックスのポケットに手を突っ込み、薄い桃色のハンカチを取り出す。

 それに付着している楕円の金色を見ながら言った。


「由宇は、金髪少女じゃないんだね」


 黒川は口角を少し上げ、持っていたシャープペンの先をこちら見向けながら低く振り上げた。

 それはまるで威嚇するキングコブラのようで、右手の甲に危険を感じた俺は咄嗟に両手を背に回す。


「由宇が見舞う病院の場所、教えてあげよっか?」

「え……生徒会長、知っているのか」


 シャープペンを掲げたままドヤ顔で頷く黒川。

 何故そこでドヤるのか、そして今まで俺の詮索を唾棄してきた黒川が何故有益な情報をくれようとするのか、皆目見当がつかない。


 何か裏があるような気がしてならないが、藁にも縋らざるを得ないのも事実だ。


「可能なら、教えてほしい」


 ゆっくりと掲げた右手を下ろし、少し俯きながらどこか遠い目をする黒川。

 そのまま十秒近く固まった。……おい?


「あの、黒川さん?」

「……そうするのが、きっと……」

 聞いたことの無いか弱い小さな声で、五パーセントの笑顔で黒川が多分そう呟いた。


「黒川?」

「案内する! から、放課後、教室に残ってね」


 言いながら再びシャープペンを掲げ真の先を俺の顔面に向けた。


「それはどうも……」


 先端恐怖症を発症しそうだな、こりゃ。

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